最後の方からお答えします。結論からいうと、火山の周辺でも観測記録上で
P波部分よりS波部分の方が、かならず大きいということはありません。P波部
分のほうが大きい記録も時々見かけます。また、どれがP波でどれがS波か判別
がしにくい記録(我々は「火山性微動」と呼ぶことがあります)もあります。
しかし、大多数の地震ではS波部分の振幅の方が大きい傾向があります。ま
た、ある一つの観測点の記録でS波がP波より大きいからといって、かならずし
も他の観測点でもS波が相対的に大きくなるとは限らず、震源から見た観測点
の方位と距離によってこの相対的な振幅の割合が系統的に変わります。
火山にかぎらず一般に起きる地震は、地下の岩盤などで、ストレス(ひず
み)として蓄えられたエネルギーが、その岩盤の破壊によって解放されたもの
です。そのストレスの解放のしかたには、膨張または収縮などの体積変化を起
こすようなモードのもの、断層面の両側でずれ(剪断)をおこすようなモード
のものなど、複数の基本的なパターンがあることが知られています。
実際の地震の発生ではこの複数のモードが複合して岩盤の破壊を引き起こし
ます。このうち、多くの場合圧倒的にエネルギー解放量が大きいのが、断層面
の両側で「ずれ」をおこすモードです。この「ずれ」をおこすモードではS波
のほうにエネルギーが多く分配されます。したがって、観測記録上でP波より
もS波のほうが振幅が大きいことが多いのは、この理由で説明できます。さら
に冒頭でも述べたように、震源から見た観測点の方位や距離によって地震波の
見え方が異なるのは、この断層がずれるモードが中心的な働きをしているから
なのです。火山地帯では火山活動の段階によっては、断層がずれるモードば
かりではなく、膨張などの体積変化をおこすモードのエネルギー解放がある程
度大きくなることもあります。この種のメカニズムは火山性地震の特定のタイ
プに対応しています。
それから、S波とP波の見かけの周期の差にお気づきのようですね。私自身の
認識ではP波よりもS波の方が周期が長く見える場合が多いと思います。ともあ
れ、これは地震が「波」として震源から観測点までを伝播する際に、その波が
通ってくる経路の影響の差が反映されたものです。地球の内部がそのような性
質をもっているのです。
実際に震源のごく近傍ではこれらの波の見かけの周期の差は少なく、相対的
な振幅の差を除いてはP波もS波も同じように見えます。一般に同じ距離を伝播
する場合、P波よりもS波の方が周期が短い成分ほど減衰がおおきい傾向があり
ます。また、P波かS波のどちらか一方に注目すると、伝播距離が長くなれば長
くなるほど、短周期の成分が衰えます。これは、距離の差による雷鳴の聞こえ
方と似ています。落雷の近傍では「バシッ!」という短い大きな音がするの
に、遠く離れたら「どーん」という間延びした低い音になり、もっと遠くでは
「ごろごろ」ともっと低い音になるという現象と同じでして、雷鳴の音程の差
を、地震記録上での見かけの周期の差と理解してもらうとよろしいでしょう。
あと、これは余談ですが、実際に地震波形をパソコンで取り込んで、音に変
換すると雷のような音になります。
(9/28/98)
筒井智樹(京都大学・地球熱学研究施設火山研究センター)
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