火山についてのQ&A

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「Q&A火山噴火」

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Question #39
Q 栃木県の塩原で地質調査を行ったとき、同じひん岩の貫入岩でありながら川の右岸と左岸での亀裂の走向、傾斜や性状が明瞭に変わるのに興味を持ちました。 たぶん貫入時の冷却の状態の違いによるものと思われますが、貫入岩に関する本は少なく、 どうもわかりません。貫入岩の一般的な節理の入りかた。貫入岩に関する書物を教えてください。
(9/13/97)

コウジ:会社員:23

A
 節理はさまざまな成因でできますが,ひん岩なので,単純化のために冷却節 理に問題を限ります.冷却節理であれば,貫入岩という限定は必要でなく,高 温の岩体からの冷却節理一般の問題として,岩体の形と母岩の状況だけを考え ればよいでしょう.たとえば,陸上溶岩流とシルとをくらべれば,溶岩は片側 が空気,片側が岩盤に,シルは両側とも岩盤に接しているだけで,形は同じと 考えてよいはずです.
 特別に巨大でないかぎり,板状の岩体の冷却節理の代表は柱状節理です.こ れは,冷却とともに,(ある温度の)等温面が冷却面(岩体の周縁)から岩体 の内側に平行移動することによって作られるもので,泥田の表面にできた干割 れとよく似ていて,一旦割れ目ができれば,先端への応力集中でそれが内側に 延びてゆくのです.経験的には,岩体内部まで径10cmというような細い径の柱 状節理は,水中(あるいは水に飽和した未固結堆積物中)の岩体に限られま す.
 一般に冷却のrateが大きい岩体の縁近くでは,柱の径が細く,それらの何本 おきかが内側に向かって成長を続けることで,岩体内部は(周縁よりも太い) 一定の径の柱状節理が安定して作られます.溶岩等の水平の岩体であれば上下 から,岩脈であれば左右両側から,別々の柱状節理系が成長し,通常は中間で 両者が接合しているのを観察できます.溶岩等の水平の岩体で,上下の整然と した柱状節理に挟まれた中間に,屈曲した異様な節理帯が発達することがあ り,その場合には,上部(下部)コロネード(upper(lower)collonade)とエ ンタブラチャー(entablature)という術語が用意されています.これは,そ れまでの等温面の平行移動では温度勾配の向きが一定していたのに,両側から 等温面が近づくと温度に関してほぼ等方的な領域が生じ,そこでは,岩体の外 形によらない副次的要素によって節理が生じるためと解されます.
 柱状節理については,Spry(1962)*の論文があります.かなり古いもので,も っと新しい論文もありますが,これが最も一般的でわかりやすいと思います. 国内の実例としては,Aso-4火砕流堆積物の溶結凝灰岩についての記載が5万 分の1図幅「諸塚山地域の地質」にあります.
 冷却固結時にできた節理には,板状節理もあります.これは,流理に起因す る不連続面から発生するものと,岩体内の差動に起因する剪断応力によるもの とあるようです.一般に固結時に剪断応力が働くような条件では,冷却節理の 成長ももそれに影響されると思われます.注意すべきことは,冷却節理は収縮 による引っ張り応力の解放なので,解放がどんな方向の節理で実現されてもよ いことです.具体的には,岩体の外周部は柱状節理で包まれ,内部は板状節理 が発達し,中間の遷移帯はなく,ほとんど突然に両者が入れ替わるという例も ありました.
 ながながと書きましたが,上はすべて一般論です.ご質問だけでは現場の状 況がわからず,とても個別的な回答はできません.現実の節理は,上記の単純 化したモデルが複合してわかりにくいことが多いのです.岩体と母岩の関係が 最も重要ですが,現場での観察から理解に近づけばとてもうれしいことです.

*Spry,A.(1962) Theoriginofcolumnarjointing,particularlyinbasaltflows. Geol.Soc.AustraliaJour.vol.8,191-216. (9/22/97)

小野晃司(応用地質(株))


May 2012. The Volcanological Society of Japan.  kazan-gakkai@kazan.or.jp