噴火現象と噴出物・岩石・鉱物
玄武岩・安山岩・デイサイト・流紋岩 |
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Question #17
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Q |
Basalt volcanoes とAndesite volcanoes と Rhyolite volcanoes
の違いを解りやすく説明して下さい。
(5/12/97)
Kamimura: :学生:22
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A |
basaltは玄武岩といって珪酸の量が53.5%以下の火山岩,andesiteは安山岩で
53.5%から62%,rhyoliteは流紋岩で70%以上の火山岩を指します.62%から70%の
ものはデイサイト(dacite)と呼びますが,ここではandesiteに入れておきまし
ょう.
マグマは主に珪酸の量によって粘り気が変わってきます.basaltは粘り気が小
さく,andesite→dacite→rhyoliteと珪酸が多くなるにしたがって粘り気が大
きくなってきます.そのため噴火の様式が大きく変わってくるのです.粘り気
が小さいbasaltvolcanoは比較的穏やかな噴火で,マグマのしぶきを吹き上げ
るような溶岩噴泉やストロンボリ式噴火,薄くて比較的速く流れる溶岩流など
が特徴的です.andesitevolcanoでは,粘り気が大きな火山弾を数km先まで飛
ばすようなブルカノ式噴火や,厚くてゆっくりと流れる溶岩流や溶岩ドームを
作ります.rhyoliteでは大規模な火砕流噴火を起こすことがあります.
このように噴火様式が違うと火山の形も変わってきます.例外もありますが,
大体次のような事が言えるでしょう.
basaltvolcanoは比較的ゆるやかな傾斜の火山体を作ります.ハワイやアイス
ランド,日本だと伊豆大島などがあります.andesitevolcanoは日本のような
沈みこみ帯に多く見られ,桜島や浅間山が典型的です.浅間山の鬼押し出し溶
岩はandesiteの溶岩流の例です.雲仙岳のような溶岩ドームはdaciteによく見
られます.rhyolitevolcanoはandesitevolcanoと似たところもありますが,
大量(100立方km以上)の火砕流と火山灰を噴出して大きなカルデラをつくるこ
とがあります.日本のほとんどを覆っているAT火山灰,南九州を覆っている入
戸火砕流と,その噴出でできた鹿児島湾奥の姶良カルデラはその典型例です.
川辺禎久(工業技術院地質調査所)
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Question #54
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Q |
高校の授業で、マグマの分類の一つの方法として二酸化珪素の濃度による分類を学びました。それによると、玄武岩質マグマ(二酸化珪素45−52%)・安山岩質マグマ(52−66%)・流紋岩質マグマ(66%以上)となっていたのですが、他の一般向けの火山の書籍を読んでいた所、同じ方法に基づくと思われる分類で石英安山岩質マグマというのが出てきました。このマグマと前述の3種類のマグマの関係について説明して下さい。よろしくお願いします。
(11/13/97)
地学選択の高校生:高校生:17
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A |
中学・高校ではご質問のような火山岩およびマグマの分類が教えられていると
思います.また,それらに対応する,斑れい岩,閃緑岩,花崗岩という深成岩
の岩石名も覚えておられると思います(忘れていたら,逆順に「かこ」んで
「せん」こう,「はん」ごろし.と覚えましょう).おっしゃるように,二酸
化珪素の濃度によるマグマの分類は研究者の中でもよく用いられていますが,
中学・高校で教えられるよりももっと細分されています.その細分された分類
の上では,”石英安山岩”は現在ではデイサイトと呼ばれています.雲仙普賢
岳で1991年に出現した溶岩ドームもこの石でした.デイサイトの二酸化珪素濃
度は,細分された分類上での安山岩と流紋岩の中間の量です.日本のものでは
63−72%程度です.ただし,アルカリ元素の量(Na2OとK2Oの総
和)が約7%程度より多い岩石は粗面岩または粗面デイサイトと呼ばれていま
す.なお,デイサイトの岩石名はルーマニアのDaciaの地名にちなんでいます
.日本で石英安山岩と呼ばれたのはデイサイトの日本語訳として明治時代に地
質調査所で使われたのが最初です.しかし,この岩石名は石英の”斑晶”を含
む安山岩(実際のデイサイトは含まないことが多い)という意味と誤解される
ため,現在では使われません.
新版地学事典(平凡社,1996年刊行)の別冊31ページに上記の関係を示
した図があります.
(11/19/97)
三宅康幸(信州大学・理)
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Question #134
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Q |
火山岩というとゲンブ岩、アンザン岩、リュウモン岩などがあるらしいですが、それら岩の名前にはどういう意味があるのですか?
(10/2/98)
山寺和男:学生:22
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A |
ゲンブ岩,アンザン岩,リュウモン岩は,漢字で書くとそれぞれ玄武岩,安
山岩,流紋岩となります.これらの岩石は,化学組成,特にケイ酸の量で区分
されています.No.17の回答も参照してみてください.
これらの日本語名称は,海外から岩石学を導入するときに付けられたもので
す.元の意味を残しているもの,日本独特のものに言い直しているものなど,
いろいろあります.
●玄武岩は元はbasaltという岩石名で,もともとはエジプトなどで使われた黒
い緻密な岩石の名前にちなむようです.これを日本語に訳す時に,同じ種類の
岩石が産する兵庫県の玄武洞にちなみ玄武岩と命名したそうです.玄武は中国
の想像上の亀やヘビに似た動物で,玄武洞の柱状節理が亀の甲羅やうろこに見
えたのでしょう.
●安山岩は元はandesiteで,アンデスに産する斑状火山岩から来ています.こ
こでは“アン=安”と当て字を使って,「アンデスの山」=「安山」としている
わけです.ちなみに安山岩を噴出する火山は,爆発的な噴火をします.安は安
心や安全の安ではありませんのでご注意ください.
●流紋岩はrhyoliteで,ギリシア語の溶岩流を意味する言葉が由来だそうで
す.日本語の流紋岩は,流紋岩溶岩流にはよく流理という縞模様が見られると
いう特徴に由来します.
こうやってみると,3つとも日本語にするときの方法が違っていて,面白いです
ね.
(10/3/98)
川辺禎久(工業技術院・地質調査所・火山地質)
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Question #870
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Q |
中学校で理科を教えています。
質問1;「二酸化珪素が多い岩石は流動性に乏しく、少ない岩石は流動性に富む」わけですよね。
したがって、流紋岩はきわめて流動性に乏しいと思うのですが、あの流紋は文字からすると流れた紋様となるのですが、
どういうことなのでしょうか。
質問2;普賢岳にしろ有珠山にしろ安山岩のドームだと思うのですが、粘性が高いからドームをつくるわけですよね。
マグマから水や火山ガスの抜けて、粘性を増しているのかなと思うのですが、とにかく溶岩ドームをつくるのは安山岩し
か聞かない気がします。最初にも述べたように、二酸化珪素の量からすれば、流紋岩がもっともドームを作りやすいと
思うのですが、聞いたことがありません。なぜ安山岩ドームばかりで、流紋岩ドームがないのでしょうか。
教えていての素朴な疑問ですがよろしくお願いします。
(08/17/00)
地学大好きの先生:中学理科教員:40
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A |
質問1(流紋岩マグマは流動しにくいのになぜ流紋がある?)
流紋岩の流紋は,もともと化学組成や発泡の程度,結晶度や色が違う,流れにくい
マグマのかたまりが不規則に混在していて,それらが流動によって引き伸ばされ,縞
模様になったものだと思います.もし流れやすいマグマだったら,かきまぜると拡散
して混じり合ってしまい,流紋は残りません.例えばコーヒーに薄い牛乳を混ぜてか
きまわしても,白と黒の縞模様にはなりませんね.コーヒーに濃いミルクを混ぜると
,最初は白と黒の流紋がはっきり見え
ますがそのうち均等に混ざってしまいますね.しかし,白と黒のチョコレートを少し
暖めてかきまわし,均質になる前に冷やすと.きれいなマーブル模様のチョコができ
ますね.粘性が大きく,なかなか混じり合わないことが,流紋が残る条件だと思いま
す.流動しにくいからこそ,流紋があるのだと思います.
質問2(溶岩ドームをつくるのは安山岩マグマしかない?)
確かに日本では安山岩の溶岩ドームが多く,流紋岩のドームは少いですね.
【理由の第1】は,そもそも日本には安山岩の火山が多く,流紋岩の火山が少ないた
めです.「理科年表」の「日本の主な火山」には,北方領土の火山や寄生火山も含め
,199の火山について岩石の種類が示してありますが,その中で流紋岩(SiO2>70%)は
わずか8個,デイサイト(SiO2=62-70%)が18個,玄武岩(SiO2<53%)が34個で,残りの
139個(70%)は安山岩(SiO2=53-62%)です.
【理由の第2】は,例として挙げられている普賢岳や有珠山の溶岩は,実は安山岩で
はなく,デイサイトなのです.普賢岳の溶岩はSiO2=65%ですし,有珠の昭和新山の溶
岩はSiO2=69%で,流紋岩に近いものです.つまりドーム
をつくる溶岩には,やはりSiO2に富むものが多いということです.
【理由の第3】は,流紋岩マグマは伊豆諸島の神津島・式根島や新島の南部のように
溶岩ドームをつくることもありますが,マグマの粘性が大きいために火山ガスの圧力
が高くなり,大爆発して火砕流や火山灰として周囲に撒き散らされてしまう場合が多
いということです.十和田,八甲田,姶良,阿多などのカルデラ火山がその例です.
(8/18/00)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
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Question #3741
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Q |
大学4年生で卒論を書いているものです。卒論は「富士海岸の海岸浸食対策」という題名なのですが、富士海岸には現在、海岸侵食対策として三重県鳥羽市菅島産のかんらん岩を養浜材料として海に投入しています。その投入されたかんらん岩がどの辺まで、どのくらいの量が、流されていっているのか?を調べているのですが、現在かんらん岩を見分ける方法として 1.まず見た目で黒っぽいものを見分ける。2.比重を計って重いものを(密度が3くらい)見つける。ということをやっているのですが、作業行程1のかんらん岩の見分け方がどうも微妙で、安山岩なども一緒に持ってきてしまいます。なんとか比重を測定しなくても「これかんらん岩だ」と分かる方法はないでしょうか?目で見分けるコツとかあったら教えてください。あと、もしほかに見分ける方法があれば教えてください。勝手な質問ですいません。お願いします。
(01/05/03)
おの やまと:学生:22
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A |
面白そうな卒論研究ですね.石の大きさにもよりますが,何m程度沖
までかんらん岩が流されているのか私も興味があります.鳥羽菅島産の岩石を
使っているのは,採石場から目的の海岸まで船で低コストで運
べるからでしょうか.
さて,かんらん岩を見分ける方法ですが,菅島のかんらん岩は相当蛇紋岩化
しているので,必ずしも水に対する比重が3.0以上とは限りません.ほぼ完全に
蛇紋岩化している場合の比重は2.7程度で,花崗岩や安山岩と同様になります.
比重が3.0以上で黒い石だったら絶対にかんらん岩かというとそうでもなく,菅島
に産する斑れい岩や角閃岩でも,黒くて比重3.0以上のものがあります.しかし,
角閃岩でも斑れい岩でも,菅島から来た岩石であれば,この研究の場合
はかんらん岩と区別できなくても構わないわけで,むしろ富士川上流や周辺の
海岸から自然に流されてきた黒い玄武岩,安山岩,頁岩などから区別できれば,
目的は達せられるわけですね.
玄武岩や安山岩は斜長石という長方形の白い鉱物を含むことが多く,火山
ガスの発泡による気泡(穴)があることが多いですが,かんらん岩や蛇紋岩
はこれらを含みませんから,斜長石や気泡の有無でだいたい区別
できるでしょう.玄武岩,安山岩,黒色頁岩の比重は普通2.6-2.9程度で,3.0
以上になることはまずありませんから,岩石の鑑定に自信がなければ,
とにかく黒い石をたくさん取ってきて,一生懸命比重を計るのが得策でしょう.
海岸でそれぞれの種類の小石を集め,大学の地学関係の先生に直接確認
してもらって,「これは間違いない」という標本セットを作り,それをいつも持
ち歩いて,現場で比べながら判断すると,間違いが少なくなります.
それから,もう一つ,アッと驚く裏技をお教えしましょう.それは磁石を使う
方法です.ピップエレキバンや黒板貼付用の丸磁石などを細いヒモの先につけ,
ヒモの他端を持ってぶら下げた状態で岩石に近づけると,多かれ少なかれ磁石は
岩石に引かれます.これは岩石に磁鉄鉱が入っているためです.蛇紋岩や
蛇紋岩化したかんらん岩は特に磁鉄鉱が多いので,磁石が岩石に吸い付いて逆
さにしても落下しないほど強い磁力を持ちます.新鮮なかんらん岩の磁力は微弱
ですが,そういう物は菅島には稀です.玄武岩や安山岩もかなり磁鉄鉱を含
みますが,蛇紋岩ほど強くはありません.黒い頁岩や砂岩の磁力は,普通は微弱
です.この方法は比重が小さい蛇紋岩にも適用でき,これでかなり区別
できるはずですから,是非試してみて下さい.
なお,菅島のかんらん岩に関する最近の研究として,「水上知行(2002)ミカブ
帯菅島超苦鉄質岩体の斜方輝石の産状と組成層状構造.岩石鉱物科学,31,
87-96」があるので,是非読んでみて下さい.
(01/05/03)
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)
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Question #3943
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Q |
いつも御丁寧な回答ありがとうございます。2つの質問があります。
@イタリアのエトナ山は外見や玄武岩質である事に加えて噴出量が極端に多い事も富士山によく似ていると思います。エトナはホットスポット火山であるがゆえあれだけ膨大な噴出量を誇ると聞きます。富士山については地下にホットスポット云々とは聞かないため島弧火山列の中に不自然なほど巨大な玄武岩質火山があるのを常々不思議に思ってましたが、最近「フィリピン海プレートは北東側と西側に沈みこんでるため結果として中央部が割け富士山から八ヶ岳の間はプレートが存在しない状態になっている(フィールドガイド。日本の火山@)」という記載を見つけました。この「プレートが割けている状態」と富士山の膨大な量の玄武岩は関係があると考えてよろしいのでしょうか。
A伊豆大島から八丈島をこえさらに南の方まで(新島〜神津島を除いて)これまた島弧火山でありながら玄武岩質の火山が連なっています。特に大島、三宅島、八丈島は割れ目噴火をおこしたりキラウエア型のカルデラを持つ点でも兄弟の様に似ていると思います。同じ「火のリング」でありながらアメリカのカスケード地方の火山群に比べて伊豆諸島の島々の溶岩がサラサラしているのは理由があるのでしょうか(何となく陸の火山の溶岩はネバネバしていて島の火山の溶岩はサラサラしている様に思えます)。
以上、よろしくお願いします
(04/27/03)
アマンタジン:医師:28
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A |
2つの質問ですが,いずれも関連がないわけではないのでまとめてお答えします.
日本列島のような沈み込み帯の火山は,SiO2成分が多い安山岩,デイサイト質マグマ
の噴出が多く,玄武岩質マグマだけを噴出している火山は少ないです.この特徴は世
界中の沈み込み帯の火山に共通して見られますが,より詳しく調べてみると,沈み込
み帯の島弧地殻や大陸地殻が厚ければ安山岩質マグマが卓越し,薄ければ玄武岩質マ
グマが卓越する傾向があることが知られています.伊豆大島や三宅島がある伊豆-小
笠原弧は,大部分が海底にあることからわかるように,島弧地殻の厚さが本州などに
比べて薄く,玄武岩質マグマが多く噴出する島弧の一つです.
マントルが溶けてできる初生マグマは大部分が玄武岩質マグマであると考えられてい
ます.島弧に玄武岩質マグマの火山が少ないのは,島弧に安山岩質マグマの火山がな
ぜ多いのかということにつながります.安山岩質マグマの成因として,地殻内のマグ
マ溜まり内での玄武岩質マグマの結晶分化作用や,地殻が玄武岩質マグマの熱で溶け
てできたSiO2の多いマグマと玄武岩質マグマの混合などが挙げられます.いずれも地
殻が厚ければより容易に安山岩質マグマを作りやすくなるのが理由と考えられていま
す.
富士山の地下では,地殻下部が構成する沈み込んでいるフィリピン海プレートが富士
山の直下で裂け,そこを埋めるようにマントルから玄武岩質マグマが上昇しやすくな
っているという考えがあります.つまり局部的に地殻が薄くなっているのと同じこと
が起きているというわけです.富士山の場合,開いていくことで強制的にマントル物
質が上昇することもあって,大量の玄武岩質マグマが地表に噴出していると考えられ
ます.
(03/5/20)
川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)
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