火山についてのQ&A |
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Question #1264 | |
Q |
はじめまして、私は函館に住んでおりますが、今年の9月以降北海道駒ヶ岳が小噴火したというニュ−スを何度か耳にしました。近くに住むものとして、今後、大きな噴火につながる可能性があるのか気になります。また、大きな噴火があった場合どのような被害が考えられるのでしょうか。今年噴火した有珠山のような状態になるのでしょうか。火山についてはまったくの素人でよくわかりませんが、よろしくおねがいします。
(11/15/00)
鈴木 幹男:会社員:40 |
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A |
鈴木さん、こんにちわ。
お近くに住んでいる方々にとって,駒ケ岳は本当に心配ですね。私達も地元の研究機
関のひとつして,その活動の行方には大きな関心を持って監視を続けています。
駒ケ岳は1640年から数千年の休止期を終えて活動期に入っています。そしてこれまで の360年間に4回のマグマを放出したかなりの規模の噴火と,その他に水蒸気爆発と考 えられる中小の噴火を繰り返しています。20世紀には1929年(昭和4年)に大量の軽 石を吹き上げ(噴煙柱),そしてその1部は火砕流(軽石流)として山麓を流下しま した。さらに1942年には山頂火口原に約1.6kmの割れ目火口を形成した水蒸気爆発を 起こし,山麓では降灰や泥流が発生しました。その後、活動は下火になり54年間の静 穏な時期がありました。そしてご存じのように,1996年,1998年そして2000年と小規 模な水蒸気爆発を繰り返しています。 今年になって続く小規模な噴火が,より大きな噴火に至る前ぶれかどうかは,現段階 では残念ながらわかりません。ただ1929年や1942年の噴火の前には,1919-1923年( 1924?)あるいは1935-1938年に小規模な噴火が繰り返されています。そのことを考 えると,「現在の状態は1929年あるいは1942年噴火前と似ている」,ということは確 かです。しかし規模の大きな噴火には至らず,このまま活動が次第に下火になってゆ く可能性も否定はできません。そのために活動の変化や噴火の前兆をとらえるために 各機関では観測機器の充実をはかり,自治体を中心とした防災対策の整備を急いでい る訳です。 仮に本格的な噴火になった場合ですが,まずその規模を考えてみましょう。1640年以 降を考えてみると,1640年噴火が最も規模が大きく,その後は規模は1640年噴火の半 分以下の規模となり,最大でも1929年噴火クラスあるいはそれ以下になっています。 そのため将来おこりうる噴火は最大でも1929年クラス,場合によってはそれほど規模 の大きくない1942年クラスとなると考えるのが現実的でしょう。起こりうる災害とし ては,1929年程度の規模であれば山麓部での火砕流の流下による被害,風下方向を中 心とする降灰による被害が予想されます。またそれらの堆積物が多量の降雨をきっか けに2次的に移動して発生する泥流による被害が考えられ,噴火活動が下火になって も泥流の発生はしばらくは続くでしょう。1942年と同様の噴火であれば降灰と泥流が 考えられるでしょう。これまでの駒ケ岳の噴火についての情報や,どのような災害が どの範囲で起こりうるか,そして噴火に対してどのような対応をとるべきかについて のより詳しいことは,火山災害予測図,防災ハンドブックやビデオ(有料)にあり, 下記で入手可能です。 040-0063北海道茅部郡森町字御幸町144-1 森町役場駒ケ岳火山防災会議協議会事務局 電話01374-2-2181 有珠山との比較ですが,有珠山ではマグマの貫入による地殻変動も大きな災害要因と なりますが,駒ケ岳では大きな地殻変動がおこる可能性は小さいと考えられます。ま た有珠山ではマグマの貫入が長期間続くため,活動が長期化しますが,駒ケ岳では噴 火活動の主要なイベントは短期間で終わります(1929年では1日以内)。このように 地殻変動の有無や活動期間などで違いがあります。しかし駒ケ岳山麓も有珠山と同様 に,国道や鉄道など北海道の幹線交通網が走り,近くには函館空港,そして火山灰が 流れる西方海上は,国内や国際線の空路となっています。駒ケ岳でも噴火は地域への ダメージを与えるだけではなく,より広範囲への社会的影響を及ぼすことが考えられ ます。そのような点を考慮して防災対策を行う必要があるでしょう。 (11/25/00) 中川光弘(北海道大学・大学院理学研究科・地球惑星物質科学教室)
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