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シリーズ「火山を伝える若い世代」

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3回目「産総研②」

2019年9月18日

「火山を伝える若い世代」第3回も、前回に続いて国内最大級の公的研究機関・国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(産総研)の研究者2人を取り上げる。前回同様、2017~18年度に採用された2人だ。

(日本火山学会広報委員・所澤新一郎=共同通信)

 産総研の活断層・火山研究部門大規模噴火研究グループに属して3年目の松本恵子さん(29歳)は火山研究に至るまでの、恩師や環境との出会いをたっぷりと語ってくれた。広島市の中高一貫校、ノートルダム清心で2人の地学の先生の影響を受けた。「1人の先生は地学に関心を持つ入口に私を導いてくれた。お茶目で、生徒を山に連れて行って一緒に石を探したり、『これ、なんじゃろうね~』と考えてくれたりと優しい先生でした」。もう1人は大学院博士課程まで進んだ先生で「知識が豊富。地学を基盤に物理、化学、生物のことも駆使して教えてくれた。説明が明快で、ちゃんと知っている先生から教わったという実感がある。格好いいなあと憧れました」。高校の教員も進路に考えた。「私も自分の言葉で地学のことをかみ砕いて説明できたら、と思いました」と振り返る。
 「何でこうなっているんだろう」と考えるような、基礎的な学問に関心があった。高校の地学クラブで、鉱山では鉱物を、山陰ではメノウや化石を採った。大学進学で、理系の同級生は医・薬・歯学部志望が多かったが、「どうせなら、みんなが行かない分野に。生命科学の研究者も格好いいと思ったけど、石をやる人はいないだろうと…」。オープンキャンパスで「活気があって魅力的に映った」東北大へ。遠い仙台への進学に「同級生から『よく行くね~』と言われたけど、知り合いがいない土地で学ぶのもいいかな、と思って」。
 東北大では中村美千彦教授の教え方にひかれた。学部1年で研究室訪問の講義を受け、中村教授が「噴火がなぜ起きるのか」という話をした。「マグマに含まれる揮発性成分が発泡して噴火に至るという説明でしたが、それまで噴火の仕組みを疑問に思わなかった自分にビックリしたし、高校以来離れていた物理や化学に再会した気分でした」。噴火という地学現象と、物理化学の現象がつながっていることを知り「これ、面白いかも」と思い始めた。

 

ハワイ・マウイ島ハレアカラ国立公園の巡検で=2017年3月

 4年生になる直前の2011年3月、東日本大震災があった。噴火が活発だった霧島・新燃岳に向かう予定がそれどころではなくなり、一時帰省した。自身の研究について周囲から「すごい、震災と関係あるじゃん」「ど真ん中の研究じゃん」と言われ、戸惑った。地学の研究をしているけど、なぜ噴火をするのか知りたいだけで、災害には関心がなかった。周囲の期待に「自分はいったい何を勉強しているのだろうとも思いました」。筆者は防災に役立つ研究も重要だが、純粋な科学的関心からの探究も同様に大切と考える。
 大震災で「いろいろ考えるきっかけを得た」松本さん。自分の知識で人に伝えられることがあると思うようになった。大学院では理学研究科に属しながら、文理融合の「グローバル安全学トップリーダー育成プログラム」に参加した。文、工、理の院生で火山観測ロボットの開発や、インドネシアの火山地域住民のインタビューなどに取り組んだ。
 研究では国内で20世紀最大規模だった桜島の大正噴火に取り組んできた。爆発的なプリニー式噴火の噴煙が空気をどう取り込み、岩石にどう記録されているのかを調べた。用いたのは噴出された軽石に含まれる磁硫鉄鉱などの硫化鉱物だ。磁硫鉄鉱は非常に酸化が速い。地下と地表の境界で、上昇してきたマグマが初めて気体を取り込む。空気と触れてどんな酸化が生じたのか。岩石に履歴が刻まれている。「直接見ていない噴火が石から読み取れる。静的な石から、ダイナミックな噴煙の様子が見えてきました」
 プリニー式噴火に発展するかどうか、噴火形態を推測する上で、火道を上昇したマグマがどう脱ガスしたかが重要と考えられている。一方で松本さんのアプローチは「噴煙の側」からの視点といえるかもしれない。初期に空気をどれだけ取り込むか、混合過程の違いに着目した。「火山は見ていて飽きないし、常に考えさせる。こう見たらどうかという視点を得たときは面白い」とも。かつては「桜島が噴火する夢をよく見た」そうだ。

研究室の松本さん

 小さいころ、父親がよく川や山に連れて行ってくれて、石拾いをした。「これ、なあに?」と尋ねたら「石英だよ」「雲母だよ」と教えてくれて、簡単な解説もしてくれた。分からないことは分からないと返してくれた。同級生は、自宅近くで黒い水晶が取れる場所を教えてくれた。自宅のたんすの一番下の引き出しが、宝物の石置き場になった。
 産総研では気象庁から送られてくる霧島や阿蘇山、草津白根山などの最新の火山灰を分析している。巨大火砕流を発生させカルデラを形成する過去の破局的な噴火も研究対象だ。姶良カルデラの地下にマグマがどう蓄積されるのか、次はどんな段階なのか、カルデラ噴火に周期はあるのか…。分からないことばかりだが「楽しく取り組み、視野を広げたい」。基礎的な研究をしながら、社会との接点もある職場環境に魅力を感じている。  「自分が火山を研究するなんて思っていなかった」と松本さん。「火山はふところが広い。どんな分野に関心があってもいいので、いろいろな人に来てほしい」と笑顔を見せた。

 活断層火山・研究部門火山活動研究グループに配属されて2年目の南裕介さん(29歳)の専攻は火山地質学だ。これまで主に、火山性土石流(ラハール)と水蒸気噴火の研究に取り組んできた。いずれも防災対応を誤ると、大きな災害に直結しかねない。2014年の御嶽山の水蒸気噴火は小規模だったものの、山頂付近に多くの登山客がおり、火山で戦後最悪の犠牲者63人(不明者含む)を出した。20世紀の国内火山災害で最も犠牲者が多かったのは北海道・十勝岳のラハール(1926年、144人)だ。
 社会的な影響が大きいラハールや水蒸気噴火だが、研究が盛んとはいえない。南さんは「研究仲間が増えてほしい。切実に人が足りないので若い人に興味を持ってほしいし、多くで取り組めば解明できる点も多いのでは」と話す。
 一方で、先行研究の少なさから「好き勝手にできる面もあります」とも。「研究が進んでいる分野で論文を書く場合、それまでの研究と矛盾しないか気にする必要があるけど、そうした縛りがない。新しいことをやっているなあという実感があります」

研究室の南さん

 富山県射水市出身。大門高校を卒業後、2008年に秋田大学工学資源学部に入学した。修士・博士課程を含めると9年間身を置き、活火山・鳥海山にどっぷりはまった。学部では工学・地学双方を学んだが、「すぐ野外に連れて行ってもらえた地学系に興味を持ちました」。学部3年の進級論文で岩屑なだれに取り組み、鳥海山北東の露頭で痕跡を見た。「層がバラエティ豊かで、地質学って面白いなあと…」
 噴出物にマグマを伴わない水蒸気噴火は、マグマ噴火と比べて頻度は多いけれど、噴出物の量が少なく地層として残りにくい。研究が進まない要因であり「これまではマグマが主役でした」。水蒸気噴火の噴出物には粘土鉱物やシリカ鉱物が多く含まれる。博士論文などでは、この研究と、修士時代から取り組んできたラハール研究が一体になった。
 ラハールは火山の土砂が水と流下する現象だ。距離が数十㌔に達することもあり、「火山の噴出物を火山付近から遠くへ再移動させる現象」と表現する。鳥海山では約2500年前に山体崩壊があった。噴出物の多くはその後に流れ出た溶岩に覆われ、詳細が分からずにいた。ところが南さんたちが約20㌔離れた地点で掘削調査をしたら、山体崩壊の堆積物の上に5層にわたるラハール堆積物が見つかった。水蒸気噴火を示す粘土鉱物が多い層と、スコリアなどのマグマ片が多くマグマ噴火といえる層があった。火口近傍では分かりにくい水蒸気噴火の痕跡が、遠い下流に残っていた。水蒸気噴火が多くなってきているようで、「噴火の大きなフェーズの移り変わりをつかむのに適しているかもしれない」。鳥海山以外でラハールから過去の噴火を解明する試みはまだ少なく、ほかの火山でも応用可能と考えている。「ラハールの堆積物で巨岩を見つけたら、どんな風に火山から運ばれ、そこにとどまったのか、興味がわきますね」と話してくれた。

秋田焼山の調査=2018年8月

 ラハールと水蒸気噴火、双方に共通する水、熱水系に関心が尽きない。「ラハールの水の起源って何だろうと、よく考えます」。災害としては火山噴出物が降雨や融雪によって流れ下るラハールが注目されてきたが、「火口から直接流れる熱水に対する評価が低い。もっと研究しないといけないと思います」と語る。
 「工学部なので社会との関わりを意識する環境にあった」と南さん。鳥海山の地質調査で地元の人と話すことも多かった。「火山災害が住民に及ぼすかもしれない影響を考えたし、研究が被害軽減に役立てばと考えました」。ポスドクで1年、北海道大に身を置き産総研へ。民間コンサルも進路の選択肢だった。「コンサル、アカデミックどちらもこだわりなかった。研究の成果はコンサルだと自治体向け報告書、研究者だと学術書のような形で出ます。災害の軽減に役立つのであれば、どちらでもこだわりはなかった」と振り返る。
 就職してすぐ、水蒸気噴火が起きた直後の草津白根山に連れて行ってもらえた。現在は秋田焼山や雌阿寒岳の火山地質図づくりに携わる。「火山はいろんな現象があり、複雑で難しいけど、やり甲斐があります」。鳥海山と御嶽山、雌阿寒岳の水蒸気噴火の噴出物を比べ、相違点にひかれた。鳥海山はほとんどが酸性なのに対し、「御嶽山では酸性と中性両方の熱水変質が起きている。雌阿寒岳は酸性があるけど中性になりかけている」と読み取れた。「熱水の化学組成が違う。古い熱水はきちんと酸性、中性に分かれる一方、若い熱水は雌阿寒岳のように分離が発達していない。火山によって熱水の成熟度が違うのは面白いですね」

 

 次の世代への期待として南さんも「火山は研究のふところが広くて、アプローチが自由。すぐに(研究のコミュニティーに)入って来ることができます」とメッセージを寄せた。

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