火山についてのQ&A集

Question #217
Q 赤城山の噴出物である鹿沼土は 何で新潟県側の方にはふりつもらなかったのですか? また、何故鹿沼土は繊維状のものやガラス状のもの がみられるのですか? また、鹿沼土に含まれる鉱物を教えてください そして赤城山はどのような火山なのですか 噴火時のマグマの性質や噴火形態を教えてください できるだけ分かりやすく教えてもらえるとうれしいです。 (5/30/99)

疑問:学生:13歳

A (1)赤城山の噴出物が新潟県側の方にないのは 最も簡単いえば,風向きのためです. 鹿沼土はおよそ3万2千年前に赤城火山で発生した爆発的な噴火でもたらされました. 鹿沼降下軽石(鹿沼土の学術的な名称)の厚さの変化,分布,軽石粒の変化をみてみ ますとそのときの噴火(プリニー式噴火といわれる噴火様式)は以下の通りと思いま す. 鹿沼土をもたらした噴火に際しては,噴煙柱とよばれる軽石(鹿沼土),火山灰,火 山ガスからなる高温な噴煙が数10km以上の高さをもって,赤城火山の上空に形成され ました.数10km上空は成層圏と呼ばれていますが,日本列島の上空ではこの高さでは 偏西風と呼ばれる強い風が常時吹いています.このため噴煙柱に含まれる軽石や火山 灰はこの風に運ばれ,西から東に移動します.軽石や火山灰はいずれ重力に従い地上 にふってきます.このようにして鹿沼降下軽石の大半は赤城火山から東方面だけに降 り,新潟などには降ることがなかったのです. なお,このような鹿沼土と同じような軽石は日本で多くのものが知られていますが, そのほとんどのものが偏西風に運ばれたため,給源の火山から東側だけに分布してい ます. (2)鹿沼土に含まれる鉱物 角閃石,斜方輝石,磁鉄鉱,斜長石などが含まれています. (3)赤城山はどのような火山か およそ50万年前くらいから活動をはじめた火山です. 活動のはじめ頃は溶岩流を流すなど比較的おだやかな噴火が主体でしたが,最近15万 年間くらいは軽石や火砕流を噴出させる,爆発的な噴火が卓越しています.ただし最 近では噴火の間隔が長く,3万年前頃に噴火があった以降にはっきりとした噴火の証 拠はありません. 赤城火山は富士山と同様に成層火山と呼ばれるものです.これは何百回もの噴火によ り徐々に大きく成長したものです.富士山ほどきれいな形をしていないのは古くから 活動しているために浸食により火山体に谷が形成されていること,長い活動の間に山 頂付近でカルデラが形成されたこと,おそらく噴火に関連して山体が大きく崩れたな どの歴史をもつからです. (3)噴火時のマグマの性質や噴火形態について 安山岩質とよばれる性質で,日本では最もありふれた性質を持っています. ものすごく単純化すれば,初期の頃は玄武岩に近いもので,後期のものは石英安山岩 質に近いものになっています. この様な性質の変化にともない,初期では,溶岩流流出,ストロンボリ式噴火が多く, 後期になり火砕流や軽石を噴出するプリニー式噴火が多くなりました. (6/5/99)

鈴木毅彦(東京都立大学・大学院理学研究科・地理学教室)


Question #216
Q 火口から出る噴煙の色で噴出しているガスの成分などが分かるのでしょうか? ちなみに青味かがった噴煙の成分は何なのでしょうか是非教えてください。 (5/26/99)

淺野眞邦:公務員:42歳

A 経験的には青い色の噴煙には二酸化硫黄(SO2)が多く含まれているようです。二 酸化硫黄自体は無色ですが二酸化硫黄と大気中の水分が結合して生じた硫酸のミスト が色の原因ではないかと思われます。この類の噴煙は高温の溶岩から放出されるよう です。溶岩がまだ地表に出ていないのに青色の噴煙が出る場合はマグマがかなり浅い ところまで上がってきたことが予測されます。 他の色については,単に白っぽい噴煙はもっとも一般的ですが水蒸気を主体とします 。しかし水蒸気以外のガスは無色なのでそれらのガスの濃度は色だけでは分かりませ ん。最近では赤外線を利用して噴煙のなかの成分を遠隔的に測定する研究が進んでい ます。 黄色かったり茶色や灰色の噴煙はガスのほかに火山灰を含んでいます。激しい噴火の 際とか火砕流が発生したときに見られます。 (5/27/99)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)P>


Question #215
Q 久しぶりに質問します。 浅間山が一般を対象に入山許可がでるというマスコミの報道がありましたが、 実際にどこまで行けるのでしょうか? 登山するとなれば、どこから登山開始するのがいいでしょうか。 往復に要する時間なども教えてください。 登山しているときに浅間山を観察、観測する上でどういった場所、地点を 注目して登山すればいいでしょうか? また、過去に浅間山が今現在のように、平穏な時期はあったのでしょうか? それは何年?何十年程度持続するものでしょうか? 以上です。よろしくお願いします。

(5/23/99)

火山研究サラリーマン:会社員:40

A A: ご質問が多岐にわたるので全部はお答えできませんが,ここでは,登山規制の 緩和についての情報をお知らせします.

Q:浅間山が一般を対象に入山許可がでるというマスコミの報道がありましたが、 実際にどこまで行けるのでしょうか? A: 5月21日に検討委員会から答申があったのを受けて,小諸市,軽井沢町,御 代田町や佐久地方事務所,地元警察署などで構成する「浅間山火山対策会議」がこれ から具体的な規制緩和策を論議し,結論を出すことになります.従って,まだ何も決 定されてはいませんが,いずれ,当地のマスコミで報道されると思います.
 ただ,「浅間山登山規制調査検討委員会」の出した答申には,釜山の火口縁までの 緩和は盛り込まれていません.答申では,軽井沢登山口についてはこれまで通り,小 浅間山までとし,小諸登山口については,前掛山火口縁までとなっています.

Q:登山するとなれば、どこから登山開始するのがいいでしょうか。 A:おそらく,小諸口の浅間山荘から出発するのが最も易しいルートだろうと思います.

Q:登山しているときに浅間山を観察、観測する上でどういった場所、地点を 注目して登山すればいいでしょうか? A:火山学的な注目点の詳細については,ほかの専門家のアドバイスに譲りますが, ここでは,登山に際しての安全対策について述べます.
 浅間山は最近10年間くらいは静かですが,過去には大変激しい噴火を何回もした ことはおわかりのことと思います.最近では1973年にかなり激しい噴火があり,火砕 流も発生しましたが,この程度の噴火が起きるときは,その前兆をなんとかつかめる のではないかという期待があります.しかし,その後の1982,1983,1990年の噴火で ははっきりした前兆現象がつかめておらず,従ってこの程度の規模の噴火は確実に予 測することは出来ないだろうと思われます.
 このたび,「浅間山火山対策会議」が登山規制の緩和を打ち出し,前掛山までの登 山が許されたとしても,小さい規模の噴火が前触れなしに起きて,登山者が危険にさ らされることが無いとは言えません.すなわち,登山規制を緩和する自治体当局が, はっきりと危険であることを認め,緩和区域に入る登山者はこのことをよく理解し, 「本人の責任において」入山してもらいたいことを述べた立て札を建て,また説明の パンフレットを配布することになっています.
 このような性格の登山規制緩和措置はこれまであまり例が無く,新しい事例だと思 われます.危険が幾分でもあるような状態にも関わらず,一般市民の登山を認める理 由は,無用の規制で登山を全面的に禁ずるよりも,かなりの程度に安全であると思わ れる期間に登山して,火山をよりよく理解してもらうのが適当であろうと言う判断に よるものです.このような規制の方法は,他の先進諸国でもよく見られますが,当事 者(登山者)自身が判断し,結果に対して責任を持って行動するという了解のあるこ とが前提となります.もちろん,小諸市をはじめとする地方自治体は,登山道の整備 や安全施設の強化などは十分行うことが条件であり,また火山活動については気象庁 (軽井沢測候所)が詳しい監視・観測を行い,適時火山情報を発表することになって います.
 登山規制に関する情報については,小諸市(あるいは軽井沢町,御代田町)に直接 照会されるのがよいと思います.登山を計画される前に詳しい情報を入手されること を強くおすすめします.       

荒牧重雄(日本大学・文理学部)

Q:(登山する場合)往復に要する時間なども教えてください。 A:小諸側の浅間山荘あるいは車坂峠から出発して前掛山まで健脚で片道3時間半程 かかると思われます. ただし車坂峠からの場合はアップダウンも激しいので, 時間に余裕をみることが必要だと思います. また十分な登山の装備(防寒,非常食など)や天候の判断も必要です.

Q:登山しているときに浅間山を観察、観測する上でどういった場所、地点を 注目して登山すればいいでしょうか? A:例えば次のような見どころがあります. 1)黒斑山の北東の通称Jバンドのあたりや前掛山から北方を見下ろすと, 天明3年の噴火の時に流下した鬼押出溶岩流がよく見えます. 2)前掛山から黒斑山の方を見ると,黒斑山の火口壁に見事な成層構造が見えます. これは,黒斑山が活動後期に磐梯山のような山体崩壊を起こした跡で, 成層火山の内部構造を観察できます. 3)前掛山から釜山の方を見ると,釜山の斜面に無数の岩塊が散在している様子が見 えます. これらは1983年噴火などの際に放出された火山弾です.
                    安井真也(日本大学・文理学部) (5/25/99)

荒牧重雄・安井真也(日本大学・文理学部)


Question #214
Q アフリカ大陸の東側にグレートリーフバレーと呼ばれる大地溝帯がありますが、この周辺に高さ3〜10m程度の安山岩や玄武岩系の段丘崖が点在(ときに線上に)しています。これらの段丘崖は大小の岩が重なり合い、崖の頂上はは雨による浸食のためかやや丸まっており、側面は所々溶岩のようにぶつぶつと荒れた表情を見せています。そこで、火山に直接関係するものかどうかよく分からないのですが、次の疑問にお答えいただければ幸いです。@これら大小の段丘崖の生成のプロセスについて Aどうして岩の表面がぶつぶつと荒れたようになったのか? 申し遅れましたが、私造形の仕事をしておりまして、あるところでこの段丘崖の再現をしようと試みているのですが、生成のプロセスが解らずどう表現したものか困っております。よろしくお願いします。 (5/19/99)

takahiro:会社員(設計):30

A takahiro様,こんにちは. 私はアフリカが大好きな人間で,コンゴやタンザニアの火山を調査しに行った時にグ レートリフトバレーを見てたいへん感動いたしました.何しろ,大陸が割れつつある というダイナミックな現場をみることができるわけですから・・・

さて,ご質問の件にお答えいたしましょう.「3〜10m程度の安山岩や玄武岩系の 段丘崖が点在」しているのは,その高さから見て,グレートリフトバレーの壁のこと ではありませんよね? 点在しているということですから,小規模な岩山のことだと思いますが,いかがでし ょうか? 具体的にどのようなものか見て見ないとわからないのですが,スコリア丘などの火山 地形でもなさそうです.

とすると,このQ&Aの守備範囲外ですねえ.私の部屋にある本で調べて見ますと・・・ それらしい地形がありました.「写真と図でみる地形学」(東大出版会)の92-93ペ ージに出てくるインゼンベルグという露岩がイメージとして似ています.この本はお 近くの図書館にきっとあると思います.ぜひ,ごらんになってください. (5/25/99)

林信太郎(秋田大学・教育文化学部)


Question #208
Q 山口県に住んでいます。小規模ながら、噴火時の凄まじさを想像させるに十分な単性火山群にとても興味があります。これまで、阿武(笠山・伏馬山等)や青野山(鍋山・野坂山)、長者原等の県近郊の山を訪れ、写真を撮ったり登ったりして楽しんでいます。参考図書もいろいろ拝見したのですが、質問とお願いがありまして投稿させて頂きました。『お願い:阿武火山群内の1つ1つについて調査した資料(噴火の過程やスコリア丘・溶岩流の位置・個数)が有れば教えてください。これまで『日本の自然 火山と地震の国(岩波書店)』『守屋以智雄先生著 日本の火山地形』『空中写真による日本の火山地形』『中国地方』等の良い冊子に巡り会えましたが、更に詳しいものを読んでみたいのです。』『質問:著書 日本の火山地形に記載されている「阿武火山の地形分類図」ですが、これて全てなのでしょうか?。国土地理院発行1/25,000地形図 「十種峰」では、嘉年上と津々良岳の間にある山や、高峰山北北西の412Mm峰も1員の様に見えてしまいます。1つ1つの山にドラマがあると思い、全てを訪ねてみたいのです。』以上、勝手なお願いですが宜しくお願いいたします。 (4/17/99)

川本 均:会社員:32

A
 楽しい趣味をお持ちですね.県内の全ての火山が隈無く踏査され,徹底的に調べら れているわけではありませんから,小惑星が時折発見されるように,新たな火山が見 つかる可能性もあります.過去の噴火に想いを馳せながらいろんな山に登ってご自分 の目で確かめて見て下さい. 1.阿武火山についてのもっとも詳しい資料としては,1995年に発行された下記 の見学旅行案内書があげられます.最近の知識がまとめられています.
 角縁 進・永尾隆志・白木敬一(1995)山口の新生代火山岩類.
      日本地質学会第102年学術大会見学旅行案内書,157-170.
 この資料の入手については,山口大学理学部地球科学教室の今岡照喜(e-mail:im aoka@po.cc.yamaguchi-u.ac.jp)に連絡下されば,コピーの送付など対応します.阿 武火山の年代については,下記にまとめられています.
 西村祐二郎・今岡照喜(1995)山口県放射年代年代図(1:150,000)
                            山口地学会発行
 これについては県庁の刊行物センターあるいは山口県立博物館で入手できます.阿 武火山の成因については下記に解説があります.「山口県の岩石図鑑」に掲載されて いる写真はすべて実物大ですから,山頂の岩石をこの図鑑で絵あわせすれば,その山 が火山であるか分かりますし,火山岩の鑑定もできます.
 山口地学会(1991)山口県の岩石図鑑 第一学習社 2.「嘉年上」と「津々良岳」の間にある山は阿武単成火山の一つです.     「高峰山北北西の412m峰」は確かにきれいな丸い形をした山ですが,既存の資料 (新編島根県地質図20万分の1,1997年版)では錦層群の砂岩・頁岩となっています. (4/27/99)

今岡照喜(山口大学・理学部.地球科学教室)


Question #207
Q 長崎県の福江島の鬼岳の空中写真と地形図で溶岩の流れを調べていたんですけれども、いまいち判読ができませんでした。どこまで溶岩が流れているかは分かるのですけれども、一回一回の溶岩の境目がわかりませんでした。特に溶岩台地の上にのったスコリア丘から流れ出した溶岩がどこまでなのかがわかりにくいです。地質図を見たのですけれども何を基準にして分けてあるのかがいまいち分かりません。何か見分けるこつを教えてください。多分私の勉強不足でしょうけど。 (4/13/99)

大二:学生:21

A どこまで流れているかはわかるということは,溶岩末端崖はわかるということですね. 空中写真で溶岩流の地形を判読する時は,溶岩流に特徴的な地形,溶岩末端崖や,溶 岩じわ,溶岩堤防を丹念に探していくしかありません.溶岩末端崖は比較的分かりや すいと思いますから,そこから溶岩じわの分布や,溶岩堤防を火口側に辿っていくの が良いでしょう.またいきなり難しいところではなく,分かりやすい新鮮な溶岩流地 形が残っている火山で,判読の経験を積んでおくのも大切です.また地形は,地表で の物理的な営力で形成されるわけですから,たとえば溶岩流なら粘性流体が傾斜地を 流れ下る時にどういう形態になるのだろうかと考える癖をつけておくのもいいでしょ う.

ただ玄武岩質の溶岩流は,安山岩やデイサイトの溶岩流に比べると,厚さがそれほど 厚くないため,空中写真で判読するのはやや難しいと思います.特に鬼岳のように, 溶岩流が流出した後に降下スコリアなどが厚く覆ったり,植生が覆うととより難しく なります.その場合は,現地調査などを併用する必要がありますね.また空中写真は, 撮影時期やちょっとした光線角度の違いで,ある写真では見えなかった微細な地形が, 別の写真では見えることもあります.もし可能なら,別時期に撮影した別の空中写真 を使ってみるというのも手です. (4/28/99)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所・火山地質)


Question #205
Q はじめて拝見させていただきました。とても勉強になりました。これからも期待しております。 さて、当方現在中学生向けの理科の教材を編集いたしております。 3年で火山が出てくるのですが、資料を見て下記の2点について興味がわき、質問させていただきます。 @火山噴火の予知について 具体的にはどのような方法で行っているのですか? 微動の観察以外にありましたら教えて下さい。 A噴火の危険度を数値化するという記事を見たのですが、主な山の数値とその数値の意味を教えて下さい。 どうぞよろしくお願いいたします。

(4/8/99)

黒い呪術師:会社員:38

A (1)火山噴火の予知について
 マグマが地下にたまって地表から噴出するときのことを想像してみてください.物 質がたまるのですから,山は膨らむでしょう.この膨らみをGPSといって人工衛星 を使った装置で観測したり,傾斜計や体積歪計などで観測しています.また,物質が たまって上昇すれば,あちこちに力が加わりますから地震や微動が起きます.また, マグマそのものやマグマから出てきた高温のガスが上昇して地下水と接触すると微動 が起きたり,火山ガスの成分が変わったり,地熱異常が起きたりします.地下の温度 も上がりますから,岩石の持つ磁場の強さが変化して地磁気の異常が起きる場合もあ ります.このようなさまざまな観測で異常現象を捉えようとしています.もっともこ うした多項目の観測を行っている火山はごく限られています.観測を充実させるには 納税者のみなさんの支援(+叱咤)が必要なのです.
 また,噴火の予測には異常現象を捉える努力だけではなく,過去の噴火の状態を詳 しく調べて,噴火の平均的な間隔や噴火の様式などを調べる努力も行われています. よく週刊誌などに「・・・・のおつげで富士山が噴火する」とか「次の噴火は富士山 」などという記事が出たりして,そのたびに問い合わせを受ける火山学者もいます. 観測データからは噴火を示唆するデータは全くないのですが,たとえば「今後1年く らいは噴火することはあり得ない」ときっぱり否定できないのが実情です.情報の空 白のを埋めるようにいろいろなデマが出てくるわけですから,こうした調査で噴火の 長期的予測をたてる研究も必要です. (2)噴火の危険度を数値化について
 この数値化は火山噴火予知連絡会のワーキンググループで検討されてきましたが, 具体的にはそれぞれの火山の活動状況や地元の社会的環境によって工夫する必要があ り,その検討が気象庁の方で行われているようです.試案の段階では,活動レベル0 の「静穏な状態」から,レベル4の「火山周辺に影響の及ぶ中〜大噴火が発生か可能 性大」までランク付けして公表するというものです.これまではややもすると「・・ ・・なので注意が必要」といった情報だけが出されて,安全になったという情報など はあまり出ていません.火山学が進歩して,よりわかるようになった情報は納税者に 還元していこうという趣旨と私は理解しています.多くのみなさんがこの趣旨をご理 解いただき,情報を有効に利用していただけたらと考えています.
 ところで,こうしたレベル化は,実は日本が世界に先がけておこなうものではあり ません.アメリカ合衆国ではずっと以前から火山活動をレベル化して情報を出してい ます.また,米国地質調査所のホームページには,いくつかの活火山の活動状況が掲 載されていて,毎週更新されています.現在の日本の場合は,活動に異常が出て臨時 火山情報が出されても,地元のテレビ・ラジオ・新聞で報道されることはあっても他 の地方でこの種の情報を入手することは簡単ではありません.たとえば,東京からあ る火山の付近に旅行しようとした人が,その火山について活動状況を知ることはほと んど不可能です.最近,多地方からの観光客が遭難するニュースをしばしば耳にしま すが,米国地質調査所のホームページのような体制があれば,こうした事故も少なく なるでしょう.よりよい情報をみなさんが受け取るためには,納税者としてみなさん が私たちを支援していただき,かつ納税者の権利として私たちを叱咤して情報を要求 していただくことが大切だと思います.蛇足ながら,火山活動のレベル化は 「先進国」である米国ばかりではなく,多くの方が「途上国」と思っていらっしゃる インドネシアでも行われていて,その情報がちゃんと機能していることも付け加えて おきます.


 米国地質調査所のロングバレーのページから入るといろいろと示唆に富んだ情報が 得られます.政府がその国の国民を保護するというのはどういうことか?政府は納税 者に対してどのような義務を負っているのか?という明確な思想が感じられます. http://quake.wr.usgs.gov/VOLCANOES/LongValley/

インドネシアの火山調査所のホームページは最新の活動状況が載せられているわけで はありませんが,観測体制を知ることはできます. http://mekira.gsi-mc.go.jp/index.html

もちろん日本も何もしていないのではなく,たとえば国土地理院のページではGPS を公表しています. http://mekira.gsi-mc.go.jp/index.html (5/10/99)

鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #204
Q 富士山では、年に数回低周波地震が観測されていますが、その原因、火山活動との関連及び最近の状況について教えて下さい。
 近年頻発している新島、神津島近海の地震は、伊豆半島東方沖のようにマグマとの動きとの関連があるのか、現在判明している範囲で教えて下さい。
 よろしくおねがいします。 (4/2/99)

冨永:団体職員:33

A 富士山の低周波地震は、深さ10〜20kmという地殻の中程で発生しています。 このように、火山直下の地殻のやや深いところからマントルの最上部で、低周波 地震が発生していることは、1980年代からわかり始めました。噴火に呼応して、 活発化する場合もあることから、地下のマグマの動きと関連して発生しているこ とは間違いないでしょうが、その詳細は不明です。

富士山では、観測網が整備された1980年以後、1年間に10〜20回程度の割合 での低周波地震活動が観測されています。静穏期や頻発期があるものの、現在も この傾向は変わっていません。 (4/5/99)

鵜川元雄(科学技術庁・防災科学技術研究所)


Question #201
Q 鹿児島県の加治木町の近くに、住吉池と米丸という、マールがあります。 これらのマールの霧島山と姶良火山との関連、噴出時期、成因につき教えて下さい。 (3/17/99)

平木 英治:会社員:50

A 以前にも住吉池・米丸マールの噴出物とその年代についてお答えしたことがあると思 います(Question#-94).これらのマールは,霧島火山と姶良火山の間にあります が,実際のところ両火山との関連についてはよくわかっていません.米丸・住吉池マ ールは地形的に見た姶良カルデラ縁の外側に位置しますが,姶良火山の側火山的なも のかもしれません.付近には(時代は古くなりますが)火山の痕跡(貫入岩)がたく さん見られます.マールの成因についてはQuestion#-36をご覧いただくとして,住 吉池・米丸マールが噴火した7500年前という時代が,今よりも海水準が2〜3m高かっ た(いわゆる縄文海進)時代であることが重要です.現在は陸地になっている米丸・ 住吉池付近まで海が進入したことによって水蒸気マグマ噴火が起こり,これらのマー ルをつくったと考えられています. (3/24/99)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #198
Q
 東大病院の院内学級に勤務している者です。お忙しいところ申し訳ありません。
 よろしくお願いします。
 
 理科の授業で関東ローム層を教えている時に次のような質問がありました。


 (1)「富士山はいつ頃噴火したの?」
 (2)「どうやったら噴火した時期が分かるの?」


 ぼく自身地学が専門ではないため、(1)についてきちんと答えてあげることができませんでした。 また、(2)についても「地層を関東ローム層と、上下の地層の年代を比べて年代を調べたんだよ」と しか答えられませんでした。いろいろ調べたのですがよく分からなかったので、質問したいのですが、 次のことについて教えていただけるでしょうか?
  1;関東ローム層は、富士山の火山灰が噴火してつもった地層という事で良いですよね。 2;富士山は何年前〜何年前ぐらいに噴火したのでしょうか?年代はいつ頃でしょうか? 3;関東ローム層の上下の地層は何年前〜何年前つもったのでしょうか?上下の地層が積もったとき 関東はどの様な様子だったのでしょうか?


 簡単な質問で恥ずかしいのですか、よろしくお願いします。 (3/6/99)

土屋忠之(都立北養護学校 東大こだま分教室勤務):教員:30

A (1)
 より厳密には,「関東ローム層は,富士山,箱根山,浅間山などの,おもに関東 平野西方に位置する火山の噴火によって地表にもたらされた火山灰が,大気中を運 ばれて降り積もった地層」です.火山灰の大気中での移動方法としては,噴火時の 噴煙によって直接運搬されることもあれば,噴火休止期に火山山麓の荒れ地や河川 敷などから強風によって少しずつ運ばれることもあります.前者の運搬方法を主と みるか,後者を主とみるかで,まだ学者間に議論があります. (2)
 富士山は,およそ10万年ほど前から噴火を始め(かつて8万年前とよく言われま したが,最近の年代測定研究の進歩によって若干遡っています),歴史時代にもた びたび噴火を起こしている活火山です.最近では1707年(宝永四年)に大規模な噴 火を起こしています.なお,1707年以後もまったく静かであった保証はなく,1708 〜09年,1770年,1854年にも小規模な噴火を起こした疑いがあり,現在研究が進め られています.
 富士山の歴史時代の火山活動については,以下のページが参考になるでしょう. http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Fuji/fujid/0index.html (3)
 関東ローム層の最下部をしめる地層は,およそ40〜50万年前の堆積物です.そし て,関東ローム層の最上部(つまり現在の地表面)には,いまでも少しずつ堆積物 が堆積し続けています.風の強い日に荒れ地や河川敷・畑などから砂ぼこりが大量 に舞い上がり,それがわずかずつ地面をかさ上げしているのです(あるいは,上述 した富士山の1707年噴火の際に関東平野に灰が降り積もったことからわかるように, 火山噴火による降灰でかさ上げされることもあります).縄文・弥生時代や歴史時 代の遺跡が土中に埋もれているのはそのためです.
 関東ローム層は乾いた陸上(湖や川や湿地帯ではないという意味です)で堆積し た地層です.つまり,関東ローム層がつもった場所はいまの武蔵野台地のような台 地の上です.しかし,関東平野全体に関東ローム層が分布しているわけではありま せん.たとえば,千葉県の北部には低い丘陵地帯が広がっていますが,そこには40 〜50万年前の海でたまった砂や泥が分布しています.つまり,関東ローム層が堆積 し始めた頃には,いまの東京湾から九十九里浜にかけて洋々とした海原が広がって いたのです. (3/10/99)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学)


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