火山についてのQ&A集

Question #388
Q 先日受けた地学のテストで昭和新山は鐘状火山ということでした。
しかし、以前地理では火山岩尖ということで習いました。
そこでいろいろな書物を調べてみたのですが、地学関係の書物では鐘状火山、
地理関係の書物では火山岩尖ということになってしまいました。
地学と地理では定義の説明が違うのでしょうか?
またこの二つの違いはどこにあるのでしょうか? (01/26/00)

星河:高校生:17

A
 「鐘状火山」は溶岩円頂丘(溶岩ドーム)のことで,最近ではほとんど用いなくな っている言葉です.これはもともと釣り鐘のような形をした溶岩地形に対して用いら れた言葉です.それに対して,「火山岩尖」というのは,鳥のトサカや塔のように, 先が尖った形をなす溶岩地形に用います.後者は,ほとんど固結しかけた(粘り気の 高い)溶岩が火口に押し出されてできたものです.昭和新山はでき方だけから言うと 火山岩尖に近いものですが,昔の地表の堆積物を頭にそのままのせており,地上に露 出した溶岩部分がほんの一部です.昭和新山は火山学的に正確にいうと,潜在(せん ざい)円頂丘(潜在ドーム)というものです.地表までたどり着けなかった溶岩ドー ムというわけです.またまた用語が増えて申し訳ありませんが...(*_*;;)
 地学と地理で使う言葉が違うのは,残念ながら,「教科書」を執筆した先生や教え る先生に認識の違いやいくぶん誤解があるのだと思います.でも,地学・地理の地形 や現象に関する言葉の定義はあまり本質的なことではなく,最も端的な共通の言葉で ,観察される現象をほかの人にいかに伝達できるかという立場で設定されていると考 えて下さい. (1/26/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #387
Q 私は札幌に住んでいる中学3年生です。
今は受験勉強でとても忙しいですが、火山にとても興味を持っています。

学校で、日本は沢山のプレートが重なり合っていると教わりました。
特に太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈みこむことによって
太平洋側では、地震や火山が発生すると勉強しました。
さらに、学校の先生は昔は北海道の真中辺りに、北米プレートとユーラシアプレートの
境界があったけれど、今は日本海のほうにあるんだよ。とも言っていました。
もし、本当にそうなら、プレートが沈み込んで、日本海でも火山ができるんじゃないかと思うんですが、どうなのでしょうか。
奥尻島の地震はプレートの沈み込みと関係あるのでしょうか? (01/25/00)

めざせ北高!:中学生:15歳

A 「めざせ北高!」さん,こんにちは! 受験勉強は順調にお進みでしょうか?

さて,御質問の件です。 プレートはある程度の深さ(110kmくらい)まで潜り込まないと,その上に火山はで きません。日本海を作っているプレートは,地質学的な感覚では「ついこの間」沈み 込み始めたばかりです。このまま順調に沈み込みが進行したとしても,それによる火 山ができるまでは,あと1000万年〜2000万年はかかるでしょう。

> 奥尻島の地震はプレートの沈み込みと関係あるのでしょうか? そのとおりです!! (1/26/00)

林信太郎(秋田大学・教育文化学部・地学研究室)


Question #386
Q 初めて質問させていただきます。私は早稲田大学教育学部の1年で教養程度の地学を学んでおり桜島と鹿児島県の地震について勉強していますが、そこで疑問が1つでてきました。鹿児島県の地震のモニタリングをして気づいたことなのですが、地震が起きる場所は桜島付近ではなくたいてい鹿児島県北西部なのです。たぶん地質学上の理由でしょうが自分の力ではわからないので説明をよろしくお願いいたします。 (01/24/00)

Noriaki:大学生:19

A
 人に感じない小さな地震(微小地震という)まで含めると,我々の周辺では毎日た くさんの地震が発生しています.九州では,以下の地域において特に地震発生頻度が 高くなっています. (1)日向灘や種子島,奄美大島近海 (2)内陸の活断層(日奈久断層や別府−島原地溝帯など)沿い (3)桜島,霧島,阿蘇などの活火山 これらのうち(1)は,太平洋の海底(フィリピン海プレート)が海溝から日本列島 (九州をのせたユーラシアプレート)に沈み込むのにともなって発生し,(2)は, いわゆる内陸の直下型地震です.また,(3)はマグマ活動に関係した火山性地震で す.
 現在,鹿児島県北西部でたくさんの地震が発生していますが,これらは1997年3月 と5月に発生した鹿児島県北西部地震(マグニチュード6.5と6.3)の余震活動です. この地震に対応する活断層は見つかっていませんが,地下の断層が動いたもので,タ イプとしては上記(2)の地震です.
 桜島付近でもたくさんの地震が発生しているのですが,これらは火山性地震で一般 に規模が小さく,専用の観測網(京都大学防災研究所の桜島観測網など)でないと震 源を決定することが難しいのです. (1/31/00)

清水 洋(九州大学・大学院理学研究科・島原地震火山観測所)


Question #385
Q 先日、桜島に旅行に行った際、南岳の噴火活動を間近で見て、とても感動しました。
同時に、麓(火口から2〜3q?)にいくつも町があることを知り、大噴火になった場合を想像すると恐ろしくなりました。
昭和、大正、安永、文明等々、大噴火が発生しているようですが、桜島の噴火活動が活発化する周期(大噴火予知)などは、研究されているのでしょうか?

(01/20/00)

温泉ファン:会社員:34

A
 桜島は世界的にみても活発な火山の一つですが,噴火予知についてもひじょうに詳 しく研究されている火山です.地震や地殻変動のようすが常にモニターされ,火山学 的にみれば小規模な現在の噴火でも,かなりの確率でわかるようになっています.大 正噴火や安永噴火のように大規模なものなら,ほぼ確実にわかるのではないかと期待 されています.さて,桜島の大噴火の周期についてです.昭和噴火(1946),大正 噴火(1914),安永噴火(1779-82),文明噴火(1471-1476)という4大噴火 と呼ばれるものの間隔をみると,それぞれ32年,132年,303年です.とても周期 という言葉は使えないことがわかります.桜島の活動は,北隣にある霧島火山の活動 や日向灘で起こる地震との関連が考えられたりしていますが,よくわかっていません. かなり規則正しい間隔で大噴火を起こしている日本の火山には,三宅島や有珠山など があります. (2/28/00)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #383
Q 火山に興味があるものです。
次の質問があります。
1 噴火(防災上)の危険度(確率)をどのようにして定義するのか
2 上記の定義は世界共通となっているのか
以上よろしくお願いします。 (01/18/00)

大塚 典彰:公務員:27

A さて、この回答は難しいです 四つの質問が混じっているようにおもいます

噴火の確率   噴火予知予測の問題でしょう 噴火の危険度  噴火現象ごとに異なる火山災害の種類ごとの危険度 防災上の確率  損害保険料率とかになるのか 防災上の危険度 これは、ハザードマップとしてなにかしら作られている

世界的にも同様ではないかと想像します (2/17/00)

千葉達朗(アジア航測株式会社・防災部)


Question #381
Q 最近ネットで富士山の形成史を見てわいた疑問です.富士山は小御岳,古富士,新富士の3つの火山から形成されているとありますが,何をもって別の火山とするのでしょう?供給源のマグマ溜まりが違うのですか?八ヶ岳や榛名火山はどうなのでしょう?割れ目噴火でたくさんの円頂丘が形成された場合は?(ちなみに,その様な噴火様式は現実にありますか?)何となく思った疑問ですが,教えて下さい. (01/17/00)

一応地質屋:会社員:27

A
 大変本質的で難しい御質問です。専門家が困る素朴ですがよい御質問といえますね 。そんな馬鹿なことがと思うかもしれませんが、実は厳密な意味でのひとつの火山の 定義とは定まっていないのです。現実には漠然とひとつの空間的なまとまりをもった 火山体に対して、ひとつの火山としてある名称を与えるケースが多いようです。給源 のマグマ溜りで分けるなどといったことがわかるほど、マグマ溜りのことについてよ くわかっているわけではないのです。
 富士火山の場合、古富士と新富士は空間的に重複し、時間的にも連続したまとまり のある分布をしていますので、両者を合わせて富士火山とよびます。小御岳火山は中 心が富士火山と比べて北側にずれており、侵食も進んでいて両者の間には時間間隙が 存在しているので、別の火山と認定されています。
 古富士・新富士の違いはあまり明瞭ではありません。最初に新富士・古富士を命名 した津屋弘達氏は、富士火山の北側山腹の一部にみられるやや侵食の進んだ火山体や 、爆発的噴火を繰り返して厚いテフラ層を堆積させたり、山麓にかつて繰り返し火山 泥流を供給した火山体のことを古富士火山とよびました。その上を覆って、現在の山 体の主要部を構成しているのが新富士火山です。新富士火山の方が溶岩流の占める割 合が多く、より静かな噴火活動と考えたようです。しかし、確かによく検討してみる と、漠然としていてあまり厳密な定義ではありません。
 その後、町田 洋氏は富士火山のテフラを詳細に検討し、約5000年前の富士黒土層 を境にして、古期富士火山と新期富士火山に再区分しました。黒土層は噴火が休止し た時期に堆積した一種の土壌です。この時期に活動間隙があると考えて区分したわけ です。津屋氏の区分とは一致しませんが、合理的な区分ではあります。
 新富士火山の形成史を詳細に明かにした宮地直道氏は、大量の溶岩噴出へと噴出様 式が大きく変化する時期を境に新富士と古富士を分けるという津屋氏の区分を、再び 採用しています。噴出様式が大きく変化するという意味では、噴出様式の違いに基づ く新富士、古富士という区分も捨て難いものがあります。
 榛名火山は全体としてひとつの空間的まとまりを示しているので、これをひとつの 火山とよんでもあまり抵抗はないかもしれませんが、八ヶ岳火山は、ひとつの火山と よぶのは躊躇するかもしれません。事実、八ヶ岳は複数の小型〜中型成層火山や溶岩 流、溶岩ドームなどの集合体で、小型成層火山には赤岳火山などといった名称がそれ ぞれつけられています。八ヶ岳の場合は、八ヶ岳火山群とよぶのがふさわしいでしょ う。
 割れ目噴火で沢山の火山体が形成されるケースはもちろんあります。伊豆半島の大 室山や1989年に海底噴火した伊東沖の手石海丘などで有名な東伊豆単成火山群は、小 型の沢山の単成火山からなる群を作っています。この場合、群全体で富士火山のよう なひとつの成層火山体に相当するわけです。東伊豆単成火山群の中で手石海丘を除き 最も新しい噴火活動の産物のひとつである伊雄山ー岩ノ山火山列は、ほぼ同時期に一 連の割れ目から噴出したスコリア丘や溶岩ドームからなっています。しかし、こうし た火山群に対してある固有の名称をつけるにはまだ至っていないようです。
 専門家がドキッとするような大変難しい御質問でしたが、このくらいで御勘弁下さ い。ひとつの火山の定義って、本当にどうしたらよいのでしょう。 (1/17/00)

高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学)


Question #378
Q 北海道、駒ケ岳の噴火の可能性と危険度について質問します。
本州に住んでいるのですが、駒ケ岳の太平洋側にある鹿部町にリゾート地が開発され,分譲されていて
環境がいいので今後、永住しようかと思っているのですが、活火山と聞き災害の心配をしております。
全くの素人なので、今後の噴火の可能性等、解りませんので教えていただきたいのです。
現在、危険度としてはどの程度のものでしょうか? (01/16/00)

浪花の旅人:会社員:58

A 現場を良く知っている火山の研究者の立場で簡単にお答えします。

現地ではリゾート開発が行われかなりの数の別荘などが建ち始めていることは承知し ております。 北海道駒ケ岳は我が国でも有数の活動的な活火山です。最近では1996年と1998年に非 常に小さな噴火がありました。しかし防災上問題なのは西暦1640年、1694年、1856年 、1929年に起こったような大噴火です。1日内外の短い前兆を経て噴火が始まり山麓 に大量の軽石が降り注ぎ、更に火砕流が発生して山麓の集落に達しました。こうした 噴火が近い将来(例えば数十年以内)にまた起こる可能性がありますので、地元5自 治体では駒ケ岳火山防災会議協議会を結成し、火山災害予測図を作成して全戸に配布 したり、防災普及講演会の開催、来るべき同様の大噴火に備えた警戒避難体制の立案 などを行っています。 移住をお考えになっておられる地域はこの火山災害予測図では火砕流に関して危険区 域B(3つあるランクのうち2番目)「大規模な噴火では火砕流によって軽石等に埋め 尽くされる可能性がある地域」とされています。また、火山泥流に関しても危険区域B あるいはCとされています。なお、駒ヶ岳では大沼側の分譲地も同様の危険区域です。 従って、観光旅行で訪れる分には問題ありませんがわざわざ移住することはお勧めで きません。 なお、上記火山災害予測図(防災ハンドブック)や啓蒙のビデオ(有料)は下記で入 手可能です。 040-0063北海道茅部郡森町字御幸町144-1森町役場駒ケ岳火山防災会議協議会事務局  電話01374-2-2181 (1/17/00)

宇井忠英(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)


Question #376
Q 年末年始に三宅島を旅行し、通称「雄山サウナ」を見てきました。冬だけあって、噴気の勢いに一段と迫力がありました。この噴気は、ほとんど水蒸気だけだそうですね。地下の、熱源と地下水の仕組みについては解明されているのでしょうか? そもそも、この「雄山サウナ」は、何時から噴気を上げているのでしょうか? 1983年の噴火の時はどうだったのでしょうか? (01/14/00)

中西 喜一郎:会社員:39

A 中西さん,雄山のサウナを見られたそうですが,私も1980年以来雄山のサウナとは長 い付き合いがあります.雄山のサウナは,三宅島の山頂火口にできた噴気地帯です. 普通,火山の噴気地帯に行くと卵が腐ったような臭いがするものですが,ここでは「 サウナ」というだけあってほとんど臭いがありません.このようなほとんど臭いのな い噴気は伊豆大島の三原山にも見られます.

なぜ臭いがないのか?実は私も不思議でした.雄山の噴気は東京工業大学の平林教授 の調査によれば,90%以上が水蒸気で,わずかに炭酸ガスが含まれているだけで,多 くの火山の噴気に含まれている亜硫酸ガスや硫化水素ガスは含まれていません.その ため,ほとんど臭いがしないのですが,それには雄山の噴気活動を維持する熱源と構 造に秘密があったのです.雄山サウナの源は,電磁気探査の結果などから地下数100m の深さにある熱水溜りと考えられていますが,この溜りが地下深部と切り離されて孤 立しています.つまり,地下深部のマグマから高温の火山ガスが絶えず供給されてい るようなタイプの噴気活動ではないということです.

雄山のサウナはいつからあるか?この質問に答えるには雄山のサウナがどういう場所 にできているかを説明する必要があります.三宅島は1983年に噴火する前に1962年と 1940年に噴火しています.三宅島が1940年に噴火する以前,山頂にはほぼ東西に並ぶ 3つの火口があり,このうち最も西側の一番浅い火口を上段火口と呼んでいました. ところが,1940年に三宅島の北東山腹で割れ目噴火が起き,続いて山頂で噴火が始ま りました.この時の噴火で上段火口の南東側に火砕丘ができ,火口は溶岩流でほぼ埋 められてしまいました.サウナの前にたたずむと目の前に溶岩の壁が見えますが,こ の溶岩の壁はその時の溶岩流の先端なのです.現在のサウナは埋められた上段火口の 縁に沿って円弧状に噴気地帯が伸びています.したがって,現在私達が見るようなサ ウナの情景は1940年の噴火後にできたと言えます.しかし,1940年以前に上段火口の 中に噴気がなかったかと聞かれるとよくわかりません.おそらく噴気はあったと思い ます.

雄山のサウナが1983年の噴火前後にどうであったかという質問ですが,実はこの噴気 地帯は大変興味深い挙動を示しています.1962年に三宅島は北東山腹で割れ目噴火を 起こしました.1940年の噴火のように山頂で噴火が起きるかと注目されましたが,噴 火は起きず,その代わり,噴火の後,旧上段火口の縁に沿って噴気活動が次第に拡大 する現象が観測されました.この拡大は1963年ころまで続き,やがて活動は縮小して いきました.では,1983年の噴火の時はどうだったでしょうか?雄山の噴気温度は気 象庁の三宅島測候所によって1975年以降観測されていました.そのデータを解析する と噴気温度は1983年の噴火直後の10月半ばまで1年に1℃くらいの割合でずっと低下し つづけていることがわかりました.引き続き山頂噴火があるか?噴気地帯の拡大はあ るか?という問題に答えるために私達地震研のグループも噴火直後から調査を行いま した.その結果,10月半ば以降,温度は上昇に転じ,1985年頃まで噴気地帯が拡大す る現象を捉えることができました.この現象は,雄山サウナの源である熱水溜りに一 時的にマグマの熱が供給されたために起きたものと考えられています.現在,雄山サ ウナはその時のエネルギーを少しずつ放出し,縮小している段階なのです.三宅島は 21世紀初頭に次の噴火があると考えられています.それまでに観測体制を整え,火山 学をもっと進歩させたいと私達は考えていますし,ちゃんとした情報が島民に伝わる システム作りに関係の方々が努力されるように希望しています.詳しく知りたい方は ,火山学会から出ている三宅島噴火特集号をご覧ください. (1/21/00)

鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #373
Q
 私は水質検査の仕事をしておりますが。水道水源ダムの過去の水質データを
調べていた際,窒素濃度が急激に高くなった年がありました。この年は1977年で,
有珠山の噴火がありました。当地は同山より北東約50km程の所にあり,降灰があ
りました。

 有珠山の噴火により,窒素酸化物(硝酸等)が産生ないし噴出し降雨や降灰によ
って当地まで到達する可能性はあるのでしょうか?お教え願います。また,1977
年の有珠山噴火についての気象データ,環境データ等をご存じでしたら所在も含め
お教え願います。

(01/09/00)

TAK:公務員:30

A 火山灰に硝酸イオンが付着していた事例は雲仙普賢岳の場合に認められました(文献 ;赤木,山本(1995):Okayama University Earth Science Reports, vol.2, p55-62 )。しかしこの硝酸の起源については不確定です。すくなくとも火山ガス中には窒素 化合物が少ないので硝酸がマグマ起源である可能性は低いと思われます。そうすると 起源として,大気中に存在する窒素酸化物が変化して火山灰に硝酸として付着したか ,あるいは火山灰に肥料起源の硝酸イオン含む土壌が混入したか,という可能性が考 えられます。 1977年の有珠山噴火についての気象データ,環境データですが所在等にかんして存じ ません。気象台あるいは北海道立地下資源研究所が把握しているかも知れません。 (1/12/00)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #370
Q はじめて質問します。よろしくお願いします。
火山噴出物についてなのですが、火山からどれくらい離れた位置では、どれくらいの大きさの噴出物が、どれくらいの速度で被弾する。といった想定データというのは何かありますか。(もちろんケースバイケースなのでしょうが、、、、、、)
私は建築設計をしており、浅間山の南東約10キロの位置(中軽井沢付近)に病院の計画をしております。病院という建物の性格上、ある程度の噴火時にも機能を確保しなければならないため、ガラス窓等に被弾対策を施さなければならないと考えています。
とはいうものの、どれくらいのものが飛んでくるのか想定しないと対策もできないので、何かヒントがあればお知らせ下さい。
「ここに聞きなさい」とか「これを読みなさい」といったお答えでもかまいません。
よろしくお願いします。

(01/04/00)

漆間 一浩:建築設計:31

A
 実際のデータに基づいて主に噴石の大きさや種類についてお答えします.1900〜60 年頃の浅間山は頻繁に爆発を繰り返しましたが,1935年4月20日の爆発の調査では, 火口から3km以内で50cm-1m以上の岩塊(見かけの密度が最大2500kg/m3程度の緻密な 安山岩)が多数発見されました.これらの17個について落下地点,落下角,射出角な どに基づいた落下速度が133-198m/s (空気抵抗を考慮した場合) と見積もられていま す.しかし火山灰が降下した東南東側では,火口から15-20kmの距離にも10cm程度の 岩塊が発見されました.径が小さい噴石は空気抵抗や風の影響を受けるので挙動の詳 細を決めるには難しい点が多くあります.1973年の爆発では,火口の東南東方向で 降ってきた石の最大直径が,峯の茶屋 (火口距離4.4km) から塩壷付近(7.5km)の範 囲で20cm,横川3cm (20km),安中1cm (35km)でした.この時は,軽井沢町で噴石の落 下によりフロントガラスが割れた車が5台あった他,屋根・壁の破損,電話線・電灯 線の断線が起きました.噴石の温度が高い場合には,山火事や家屋の火災(1920年代 には東北東6kmの分去茶屋が焼失)なども起きます(以上,水上, 1940; 村井, 1974 等による).
 一方,天明3年クラスの噴火の場合はさらに大きな被害が予想されますが,1900年 代の活動とは事情が少し異なります.それは過去の大噴火の地層を調べると発泡のよ い軽石(見かけの密度が500-1200kg/m3程度)の層が出てくるので,次の噴火でも軽 石が降ってくる可能性が高いためです.現在,塩壷温泉付近(南東7.5km)では軽石 の最大直径が約6cmの天明3年の軽石層 (厚さ12cm) が認められます.天明の時は噴煙 が上空の風で東南東方向へ強く流されたので塩壷付近より北方で大量の軽石が降りま したが(現在,万山望付近で厚さ1.7m以上),古文書によると少量の軽石や石が中軽 井沢にも降ったようです.中軽井沢駅の北方800m付近では平安時代や5世紀の軽石層 が見つかるので,天明以前の噴火でも同じように軽石が降ったことがわかります.こ のような軽石層には平均的な軽石より桁外れに大きい軽石が時々入っています.天明 の場合は,南東4kmの大窪沢付近で60cm位,東南東13kmの熊野神社付近でも10cm位の 大きい軽石が見つかります.噴火当時の軽井沢宿での焼石による焼失家屋は約50軒と みられています.軽石は衝突の衝撃でそれ自体が割れやすいこともあり,衝突による 破壊力は大きくないと思われますが,大きい軽石は火災の原因になる可能性がありま す. (1/6/00)

安井真也(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


 火口から10 km も離れている中軽井沢では,落下角はほとんど垂直に近いと推定さ れます(風が強ければその分だけ斜めに落下しますが).したがって窓ガラスは余り 問題ではなく,屋根の強度が問題になります.通常の強度で充分であるとは思います が.屋根の強度の問題は,降下火砕物物の量に直接関係し,有珠火山1977 年噴火の 例では,わずか40cm 軽石が堆積しただけで,ラーメン構造の陸屋根が変形しまし た.しかし屋根が破壊する前に人々は避難すると思います.
 一方,衝撃波(空振)による窓ガラスの破壊がかなりの被害を与える可能性があり ます(国土庁,1992参照).中軽井沢ではかなりの被害実績がありますが,私の個人 的データ(未発表)によると,破損は複雑な要素によって決定されるようです.コン クリートに直接固定されたガラスが最も破損しやすいようです.鬼押し出し園駐車場 における被害実績が参考になります.
 天明クラスでも空振が重要だと思います.建物が振動して,重しの石が屋根から落 ちるという古文書の記述が多く,これは空振によるものと思われます.
  国土庁;火山噴火災害危険区域予測図作成指針,1992 (1/6/00)

荒牧重雄(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Previous 10-QAs Next 10-QAs