火山についてのQ&A集

Question #415
Q 大分県の中央構造線の延長線上にある代三五山は火山でしょうか教えて下さい。また久住火山群の下には巨大なマグマ溜りがあるようなのですが、将来カルデラとして発達する可能性はあるのでしょうか?
もしかすると昔はカルデラだったのでは?

(02/29/00)

EXIT:会社員:37

A
 代三五山は、約1300万年前に噴出した溶岩流が、その後長い時間をかけて削られて できたもので、火山の堆積物といえます。厚い安山岩の溶岩流からなり、斜長石(白 い結晶)や輝石(黒い結晶)が入っています。大野町片島の採石場では、溶岩が冷え 固まったときにできた、垂直方向に規則正しく発達した割れ目(柱状節理)や、ほぼ 水平に発達した割れ目(板状節理)が見られます。この時代には、安山岩の溶岩流の ほかにも流紋岩の火砕流堆積物などが噴出し、大野火山岩類と総称されています。大 野火山岩類は、中部九州の中期中新世の代表的な火山活動の産物です。
 九重火山は、標高1700mをこす溶岩ドーム等からなる山々の集合体で、約15万年前 から活動を開始した火山です。過去に3回の火砕流が噴出しましたが、これらの噴出 の際にはカルデラは形成されませんでした。火砕流のうち最新のもの(約7万年前) は飯田火砕流とよばれ、その噴出源は星生山・三俣山・久住山の周辺と考えられてい ます。火砕流の噴火以降、現在の九重火山を構成する溶岩ドーム群が次々と形成され ました。 これらの溶岩ドーム群は、西の久住山系と東の大船山系に分けられます。
 テフラと火山体の層序関係を調べると、久住山系よりも大船山系の溶岩ドーム群の ほうが、全体的に新しい火山であることがわかります。久住山系は、アカホヤ火山灰 (K-Ah;6300年前に薩摩硫黄島付近の鬼界カルデラから噴出した広域テフラ)よりも 古い山体が圧倒的に多く、完新世におけるマグマの噴出率は小さくなっています。一 方、大船山系では、アカホヤ火山灰よりも新しい時代に段原火山が成長し、その山頂 付近の米窪火口でスコリア噴火をくりかえし、大船山の山頂火口からも溶岩を流出し ています。その東部にそびえる巨大な溶岩ドームの黒岳(くろたけ)は、わずか1700 年前(4世紀ころ;古墳時代前期)に誕生した最新の火山体です。
 完新世の九重火山は頻繁にマグマを噴出しており、決して老朽化した火山ではない ことが明らかで、現在でもその下にはマグマ溜りがあると推定されます。九重火山か ら最近1.5万年間に噴出した溶岩の体積を計算すると、同時期の雲仙火山よりも約1桁 大きいことがわかりました。従って、九重火山は雲仙火山に勝るとも劣らない、活動 性の高い活火山であるということになります。しかし、九重火山が将来カルデラを形 成するような大規模な火砕流を噴出するかどうかについては、現在のところ全く予想 がつきません。 (4/11/00)

鎌田浩毅(京都大学・総合人間学部・地球科学)


Question #413
Q 中学生対象の八ヶ岳登山のしおりをつくっています。八ヶ岳形成の過程を分かりやすくまとめたいと思ったのですが、いろいろな学説が目に入ってきて困っています。特に古八ヶ岳が形成された後、浸食期を経て更新世末期から新八ヶ岳形成期に入る、といった点は共通のようなのですが、現在の赤岳、権現、横岳、阿弥陀、硫黄、天狗、縞枯山、北横岳といった山々の形成について分かりやすくお教えください。 (02/27/00)

塚田智彦:教員:54

A
 御質問の山々は、まず大きく2グループに分けて考えられます。現在の赤岳、権現 、横岳、阿弥陀、硫黄といったいわゆる南八ヶ岳の東側ピーク群は、必ずしも火山活 動の噴出中心を代表しません。ご理解の通り、長い浸食期に大きく元の火山の地形が 変化しており、浸食で残された高まりそれぞれに山としての名前がついています。こ れらの山々は、古八ヶ岳期に形成された成層火山列の稜線部にほぼ相当すると考えら れ、主に安山岩質の溶岩流と火砕物からなります。 一方、(西)天狗岳、縞枯山、北横岳など、北八ヶ岳のピークの多くは、総じて南 よりも活動年代が新しいため良く火山地形を残しており、北横岳などは火口も良く残 っています。これらのことからもわかるように、ピークのそれぞれがほぼ噴出中心に 対応しています。すなわち、多くは安山岩〜デイサイト質の溶岩ドームまたは厚い溶 岩流の最高地点が現在の山になっています。活動の位置が古期山体稜線よりも西側の 斜面にずれたため、標高は南よりも低く、新しい噴出物は主に西側の蓼科高原側に分 布しています。 より詳しい形成史を知るためには、個々の火山活動の年代を調べる必要があります 。しかし特に北八ヶ岳は年代が若いのでK-Ar法が使いにくいこと、八ヶ岳起源のテフ ラ(軽石や火山灰)がほとんど同定できていないこと、などの理由から、活動年代は まだあまり良くわかっていません。 (3/4/00)

中村美千彦(東京工業大学・大学院・理工学研究科・地球惑星科学)


Question #407
Q
 火山と水質(特に酸性度)との関係を教えてください。私は中学校の理科の教諭をしてますが、今年度の選択の授業で地域の水質検査を行いました。いくつかの項目の中で、河川のpHを測定したところ、ある河川のpHが妙に低く、しかも上流ほど酸性度が高くなるような傾向が見られました。その河川の上流は酸性火山岩類が分布しているので、その影響かなぁと考えています。

 実際、酸性火山岩類の影響で河川の酸性度が上がったり、あるいは熱水等の影響で土壌が酸性になることはあるのでしょうか。教えてください。

 私、静岡大学出身です。小山先生、覚えておられるでしょうか・・・。 (02/20/00)

唐澤 譲 :中学校教員:31

A
 私は水のことは全く分かりませんが,手近な本を読んだ程度の知識でお答えすると ,以下のようになります.
 火成岩の「酸性・塩基性」と水の「酸性・アルカリ性」は関係ないと思います.「 火山の水は酸性」という「定説」はなく,火山体の中や周囲に湧き出る温泉も,硫酸 塩泉は酸性(ph3程度)ですが,重炭酸塩・硫酸塩泉や塩化物泉,混合泉などは,だい たいアルカリ性(pH8程度)です.(日本火山学会編,1972, 「箱根火山」,p. 158) .川の上流地域の植生や土壌の性質,酸性雨・酸性雪など降水との時期的な関係や季 節による変化,農作業で使う肥料や農薬との関係,酸やアルカリを含む工場排水や家 庭排水との関係など,様々な原因で河川水の酸性度は変化すると思います.なぜその 川だけ水が酸性になるのかと言われれば,すぐには答えられませんが,上流に酸性岩 が露出しているから川の水が酸性だということはないと思います.例えば典型的な酸 性岩である花崗岩から湧き出す天水起源の鉱泉水は弱アルカリ性とのことです(松葉 谷 治「熱水の地球化学」裳華房ポピュラーサイエンス,p.107). (2/22/00)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) 


Question #404
Q いつも御丁寧な説明ありがとうございます。
以前、映画”ボルケーノ”について質問した者ですが追加で質問させて下さい。
この映画のパンフレットに『(ボルケーノの)脚本のアイデアは、ロサンゼルス地区での火山活動の危険性を示唆した雑誌”サイエンティフィック・アメリカン”の記事から生まれた』とあるのですが、この『ロス火山説』なるものは具体的にどういう物なのでしょうか。
また、もしあのような大惨事が大都市の真ん中で実際に起きてしまった場合、専門家の方の目から見てどのくらいの被害、影響が予測されるのでしょうか。(僕は『とてもこの程度じゃ済まないのでは』と思うのですが)
よろしくおねがいします。 (02/18/00)

yo-ka: 大学生:24

A (1)この『ロス火山説』なるものは?
 この記事については知りません.少なくとも火山学的な話題にはなっていません.

(2)もしあのような大惨事が大都市で起きてしまったら?
 もっとおおきくなるかもしれないし,ちいさくなるかもしれませんし,どの程度に なるのかは ・噴火の種類 ・火口の位置や形状 ・噴火の規模/体積 ・周辺の地形 ・影響範囲の人口の集中度 ・噴火の推移、急に活発になるのか ・季節や時刻 などのさまざまな要因によって,いろんな結果になると思います.


 ふつうの火山噴火は,既存の火山の火口で同じような噴火をくり返すことが多いの で,過去の噴火記録を整理すればそれなりの傾向があって,ある程度の噴火の様子が 予測できるものなのです.ところが,これまでに全く火山がなかったところに新たに 生じる場合には,そのような経験則が通用しません.ですから,さまざまな災害が想 定可能です.だから,映画の想定が大きいとか小さいとかいうことはいえないでしょ う.
 御質問のように,都市の真下ではないにしても,近くで非常に大規模な噴火がおこ って,都市が壊滅的な被害をうけた歴史的な事実はいくつかあります.地中海サント リニ島の噴火とアトランティス伝説が有名ですが,イタリアのベスビオ火山とポンペ イ,カリブ海プレー火山とサンピエールや,コロンビアのネバドデルルイス火山とア ルメロなどもそうでしょう.
 私達はそんなリスクを承知で火山の近くに住み続けているわけです.活火山の山麓 に首都移転を計画したりしているわけですから,この問題は文明論とかそんな次元の 話なのかも知れません.どの程度のリスクまで考慮して都市を建設するのか...で すから,映画の想定が大きいとかちいさいとか,とても簡単には言えませんし,書け ません.
 あの映画は,自然災害でも人間の英知をもってすれば克服できる.多数の人間の自 己犠牲をともなうような献身的な愛や協力が必要なんだ.人種差別なんかは大きな自 然の前ではちいさな問題に過ぎない.そんな,テーマだったと思います.ですから, そういうストーリー上の都合で,ちょうどなんとか対応できる規模の噴火を想定した のだと理解しています.
 火山砂防の計画でもそういう傾向はあるかもしれません.余りにも小規模だと計画 する必要がないし,大規模だと大きな施設でも防ぎきれない.人間のできることには 限りがあるのです. (2/28/00)

千葉達郎(アジア航測株式会社・防災部)


Question #400
Q 久しぶりに質問します。
妙高山についての質問です。
今年の初夏は、山頂まで登山を計画しています。
杉の原方向、赤倉方向から見る妙高山のカルデラ壁は、圧倒されます。
特に、三田原山から赤倉山にかけてカルデラ壁が円形に見事に続いています。
杉の原スキー場のゲレンデには、昔の火砕流によって流れてきた岩もあったようです。
日本火山学会編集の「写真で見る日本の火山」に妙高山が紹介されていますが、
妙高山の現在の形成過程は
1.富士山そっくりの山体形成
2.爆発的噴火による火山上部の崩壊
3.カルデラ形成
4.中央火口丘である妙高山形成
5.火山浸食による放射谷形成
だと考えますが、いかがでしょうか?
また、前山についてはカルデラ壁の一部だと思いますが、いかがでしょうか?
「写真でみる日本の火山」では妙高山については
複雑な形成史をへて。。とありますが、複雑な形成史について教えてください。
赤倉温泉から見た妙高山については、映画ダンデスピークを思い出しましたが
最後の噴火はいつ頃ですか?
また、将来噴火する可能性はあるのでしょうか?

(02/15/00)

火山研究サラリーマン:会社員:41

A 1.形成過程について
 基本的にそれで良いのではないかと思います。ただ、5の放射状谷の形成は、中央 火口丘の形成以前から続いていますが。また、後の質問にもある、妙高の形成過程の 複雑さともダブりますが、妙高では、1〜5までの過程が4回くり返されています。

2.前山について
 赤倉山〜三田原山〜大倉山〜神奈山〜前山を結んだ尾根が、カルデラ縁にあたりま す。カルデラ壁には、内壁と外壁があります。前山のピークそのものを、カルデラ「 壁」と呼ばない方がいいと思います。

3.複雑な形成史について
 妙高は、上記のように、円錐形成層火山体の形成→カルデラの形成→中央火口丘の 形成といった過程を4回くり返しており、マグマの性質も、そのつどマフィック→フ ェルシックへと変化しています。ですから、新旧4つの別々の火山が、縦に重なって できたような構造になっています。詳しくは、『フィールドガイド 日本の火山 @
 関東甲信越の火山氈x(築地書翰)を参考にしてください。

4.最後と将来の噴火について
 マグマを噴出した最新の噴火は、約5000年前(暦年代)の縄文時代中期末の火 砕流噴火です。この時の火砕流は、新井市まで達しています。マグマを噴出しない水 蒸気爆発は、約2500年前のものが、確認できる最新のものです。現在の4代目の 妙高は、その一生の最末期の状態にあります。ですから、以前のように、マグマ噴火 を頻繁にくり返すことはないでしょう。しかし、少量のマグマを、単発的に噴出する 可能性は、先代の例からみて、否定できません。また、水蒸気爆発は、まだ十分起こ り得ると考えています。5代目の妙高が、誕生するかどうかについては、全く不明で す。

(2/18/00)

早津賢二


Question #398
Q ある本で読んだのですが、火山の下にある地下水には、「ラジエーター効果」があり、火山がものすごい勢いで噴火すると、ラジエーター効果が失われ、さらに、地下水がマグマと混ざり合い、水蒸気爆発が起こり、地下水層がからになり、地盤沈下・陥没が起こると知りました。そのメカニズムと、富士山付近の地下水はどのくらいあるか詳しく教えてください。 (02/10/00)

カズキ.H:中学生:15

A カズキ君,回答が遅くなってごめんなさい.質問の内容がかなり唐突で,私は最初意 味がきちんと理解できませんでした.いろいろ調べているうちに有珠山の異常・噴火 になってしまい,遅くなりました.言い訳はともかく,質問に答えましょう. まず,「ラジエーター効果」ですが,これは私達火山学者にとってかなり変な言い回 しです.ラジエーターと言うのは,ある場所で発生する熱を別の場所に発散させてそ の場所を冷やす役割を果たしているということですね?そういう意味ではラジエータ ー効果と言うのは間違いではありません.火山に限らず地下には多かれ少なかれ地下 水が広く分布しています.火山のずっと深いところにあるマグマからは,あるときは 少しずつ,またあるときは急に温度の高い火山ガスが分離して上昇してきます.そう すると地下水とぶつかって地下水の温度が上昇し,対流がおきたり自然の地下水の流 れで温泉となったりして,熱が地表に運ばれることになります.仮に,地下水がまっ たくない状態では,熱は全て熱伝導と,マグマから出てくる火山ガスだけで地表に運 ぶ必要がありますから,地下水がある場合よりもずっと効率悪く熱を地表に運ぶこと になります.という意味では「ラジエーター」と言えるのでしょうね.しかし,この 言い方はかなり変な言い方です.むしろ,「地下水は天然の熱交換機」と言ったほう がぴったりかもしれません. 次に,火山がものすごい勢いで噴火すると,ラジエーター効果が失われ,さらに,地 下水がマグマと混ざり合い,水蒸気爆発が起こるという点ですが,火山が噴火する場 合,つまり,マグマが地表に向かって上昇してきた場合,地下水に接触します.そう すると,上述のように地下水を温めて温水や水蒸気を作って熱を運ぶなどと悠長なこ とをやっていては大量の熱を運ぶことができなくなり,爆発が起こります.そうする とその部分は吹き飛ばされますから,それまでの地下水層はもちろん破壊され,「ラ ジエーター効果」もなくなるでしょう.ここで注意して欲しいのは,ラジエーター効 果が失われた結果として爆発が起きるのではないということです.通常の地下水の流 れでは熱輸送が追いつかなくなった結果,もっと効率よく熱を運ぶために爆発が起き るのです.決して放熱の効果が失われたわけではありません. 次に,地下水層がからになり、地盤沈下・陥没が起こるという点ですが,確かに爆発 の結果,爆発した部分からは水がなくなりますが,周囲からはまた水が集まってきま す.噴火の後,地盤沈下は確かに起こりますが,それは地下に蓄えられていたマグマ が外に出て行くからその分だけ地面がへこむのです.地下水云々はほとんど関係あり ません.現在噴火している有珠山や以前噴火した雲仙普賢岳でもこのような現象は観 測されており,火山学者は噴火の前に観測された山の膨らみと噴火が始まった後のへ こみを比べて,噴火がこれからどうなるだろうといったことを考えているわけです. 決して地下水層がからになったから沈下するわけではありません.おそらく沖積平野 などで地下水を汲み上げすぎて地盤が沈下する話と混同されたものと思われます. 最後に富士山の地下水ですが,これは私の専門ではありません.昔読んだ論文に,富 士山の地下水のことを述べた論文があり,そこには「富士山に降る雨の量は1年間に2 2億トンくらい(これは面積に年間降水量を掛けて計算する)で,富士山の周りから湧 いている水は毎秒55トン(つまり年に17億トン)くらいである」と述べられていまし た.ですからそれくらいなのでしょう.質問の範囲を越えますが,その論文の著者は ,「だから富士山に降った雨のほとんどは湧水になっている」と結んでいます. (5/01/00)

鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #394
Q 初めて質問させていただきます。温泉の生態と分類についていつもお世話になっている方から質問を受け,インターネットで調べているうちにこちらのホームページへと辿り着きました。ちょっと筋違いな部分があるかと思いますが宜しくお願いします。
その方の持ってきた文献のコピーに『かつて温泉の成因について,マグマから誘導されるものを処女水型温泉と呼び,地表水が地下に浸透し,地熱によって加熱されて再び上昇したものを循環水型温泉と呼び,ほとんどの温泉がいずれかに属すると考えられていた。しかしこの分類の根底には,地球の成因に高温説をとっていたことが含まれていたが,最近では低温説が一般からむかえられているので,処女水型・循環水型の分類は「昔語り的」なものとなってしまった。』という一文があり,この地球の成因の「高温説」「低温説」というのがよく理解できません。いろいろとネットで調べてみたのですがこの2説の詳しい定義がわかりませんでした。この2説の定義,またそれぞれの説においてどのようなプロセスで地球ができたと考えられているのかをお教えください。宜しくお願いいたします。 (02/01/00)

yoo:団体事務:25

A
 温泉の成因について,マグマから誘導されるものと地表水が加熱されたものを区別 する考え方は昔語り的ではありません。マグマから放出される水(マグマから放出さ れた直後は水蒸気)は地表水と比べて同位体比(D/Hや18O/16O)が高いので地表水と 明確に区別できます。マグマから放出される水が100%を占める温泉はまだ見つかっ ていないと思いますが,地表水に若干のマグマから放出される水を含んでいる温泉は たくさんあります。
 地球の成因について低温説というのは私にも理解できません。低温説を主張してい る研究者は多分極めて希であると思います。地球は形成された直後,地殻は存在せず ,マントルの上部あるいは少なくとも表面付近は溶融状態にあったと考えられていま す。地球及び太陽系の成因に関する最近の研究結果については,例えば岩波書店「岩 波講座,地球惑星科学」に詳しく書かれていますのでご参考にして下さるようお願い 致します。 (2/2/00)

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #392
Q 伊豆大島、三原山について質問させて下さい。
現在も山頂火口内に深いズリバチ状の火孔が落ち込んでいますが、噴火前はそれこそ井戸のような垂直の深い縦穴があったような記憶があります。(古い絵本の『火山は生きている』や、ライフネイチャーライブラリー『日本列島』などにのっていた写真からですが)
あのような火口内に深い火孔が生じるのは、玄武岩質成層火山の特徴なんでしょうか。それとも三原山に限った現象なんですか。よろしくお願いします。 (01/28/00)

アマンタジン:大学生:24

A たしかに三原山の山頂には縦穴状のクレーターがいまも存在していますが,その深さ は時期によって異なっています.おっしゃるように300m以上の深さがあった時代も あります.噴火のたびに溶岩によって徐々に埋められて浅くなり(時には,1986年の 噴火直後のように,完全に埋められて消滅してしまい),大規模な噴火が終了してし ばらく経過した後に,また一気に陥没して深くなる,ということを19世紀末より繰り 返してきたことがわかっています.

このような三原山火口底の大規模な陥没は,最近では1987年11月18日に起きました. さまざまな観測データから,この大陥没は1986年噴火の際に縦穴火口を満たして溶岩 湖となっていた溶岩が,地下のマグマ溜りに一気に戻ったことによって起きたものと 解釈されています.

つまり,1986年噴火から1年間経過しても,火口を満たした溶岩は一定の流動性を保 っていたわけであり,このようなことは粘性の小さな玄武岩質溶岩でないと難しいの ではないかと思います.よって,このようなメカニズムで生じた深い縦穴状の火口の 存在は,玄武岩質の複成火山にある程度限られるのではないかと思われます.

なお,深い火口は爆発的な噴火によっても生じ得ますので,深い火口があれば即座に 陥没が原因というわけではないことに注意してください.深い火口の成因については 個別の調査が必要です. (2/2/00)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #391
Q 以前群馬県南牧村の立岩へ登ってきたのですが,あの辺つまり西上州一帯は有名な妙義山や荒船山に限らず多数のギザギザの岩山が密集しているように思えます。妙義や荒船は第三期火山のなごりとよく言われますが、あれだけ岩峰が密集しているのをみるとあの辺一帯がひとつの巨大な火山だったのでは、と思われるのですが実際はどうなのでしょうか。
また立岩の登山口付近に『陥没の壁』というものがありましたがこれはどうゆうものなのですか。例えば西上州一帯がかつて巨大なカルデラ火山で、陥没の壁はそれの名残りとか・・。

 素人の勝手な推理でとんでもない大間違いをしてるかもしれませんが、よろしくお願いします (01/28/00)

yosiaki:大学生:24

A
 大間違いどころか御明察です。荒船山周辺は本宿火山性陥没地とよばれており、第 三紀後期中新世の一種のカルデラ火山の跡です。荒船山を東山麓の群馬県下仁田町相 沢付近から登ると、下から順にデイサイト貫入岩体→安山岩溶岩→安山岩質凝灰角れ き岩→湖成層(砂岩・泥岩・凝灰岩)→安山岩質凝灰角れき岩→安山岩溶岩→安山岩 質凝灰角れき岩→湖成層が(貫入岩を除いて)ほぼ水平に重なっています。最上位の 平坦な尾根は安山岩溶岩からなっており、三角点のある山頂は、デイサイト質溶結凝 灰岩から構成されています。荒船山が航空母艦のように山頂が平坦なのは、安山岩溶 岩が侵食に強かったためです。こうした地形のことをメサといいます。
 本宿コールドロンの大きさは直径が約10km強あり、多角形型の輪郭をしています。 ちなみに、カルデラとは火山性の凹地形ですが、かつて陥没したカルデラの中味が隆 起して現在は山になっているような場合、凹地形ではないのでカルデラとはよばずコ ールドロンと称することが一般的です。本宿コールドロンでは、最初にマグマ溜りの 突き上げによって地表が隆起し、その結果張力が働いて陥没が生じ、その後に陥没地 内にマグマが噴出して各種の火山岩類が形成されたと考えられています。こうしたタ イプのカルデラのことを本宿型カルデラとよびます。この地域は本宿型カルデラの模 式地なのです。最初にできた陥没地の周囲の崖の下には一種の崖錘れきが溜まりまし たが、この崖こそが『陥没の壁』に他なりません。長野県側から荒船山に登る場合は 、まずこの『陥没の壁』を越えてかつてのカルデラの中へ入って行くというわけです。 (2/7/00)

高橋正樹(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科)


Question #390
Q 火砕流が実際に起こったのは、島原の普賢岳が最初ですか?それとも、それ以前に火砕流による被害が起こった事例があるのでしょうか(外国を含む)。
「火砕流」は学術上の言葉であったものが実際の現象が起きて証明されたのはいつからなのですか?昔の文献には「熱雲」の表現が多いようですが。 (01/28/00)

熊本に単身赴任中のお父さん:公務員:47

A
 カリブ海西インド諸島にあるマルチニーク島のプレー火山で,1902年に火砕流噴火 が起こりました.これが火山学的に目撃された最初の火砕流です.この時は,プレー 火山の麓街サンピエールにいた住人約3万人のほとんどが一瞬のうちに犠牲になりま した.これを調査したフランスの研究者ラクロアが,この火砕流に対して「熱雲(英 語ではGlowing cloud)」という言葉を用いました.その後,あちこちで火砕流の発 生が目撃され,比較的規模の大きなものがアラスカのカトマイ火山(1912年)や北海 道駒ヶ岳(1929年)で起こりました.後者は「軽石流」とよばれました.歴史的記録 でさかのぼると,西暦79年のイタリアのベスビアス火山の噴火で,火砕流によってロ ーマの都市ポンペイがすっかり埋もれてしまった出来事があります.厚い堆積物を取 り除いて出現したポンペイの街並みとともに,火砕流による犠牲者や犬の石膏型がよ く科学や歴史の教科書に出てきます.
 英語の「火砕流」という言葉(pyroclastic flow)は1940年頃から使われ始めまし たが,現在の火砕流の意味で使われ始めたのは1950年代の終わり頃で,日本の火山学 者が定義しなおしたものです.日本語の火砕流が使われ始めたのは1960年代になって からです.この定義に従うと,熱雲と軽石流は火砕流のうちで,それぞれ,小規模な ものと大規模なものに当たります.
 普賢岳噴火で起こった火砕流はまさに熱雲でした.日本語の「火砕流」という言葉 の意味が一般の人にはつかみにくいので,普賢岳噴火の際に何度も問題になりました .地元の人が誤解して「火石流」と使っていたのには大変考えさせられました. (1/29/00)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


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