火山についてのQ&A集

Question #37
Q 空震によって建物の窓が割れることがあるということを火山に関する書籍で読みましたが、実際にはどの程度の破壊力があるのでしょうか。 (9/2/97)

野元洋一:会社員:29歳

A
 桜島や浅間山などのように火山活動が爆発的な場合、火口から衝撃波が発生 し、周囲の空気中を伝わって行きます。火口から離れるに従い衝撃波は減衰 し、音波に変化します。火山学では、これら空気中を伝わる圧力波のことを空 振(空気振動)とよんでいます。伝わる過程において周囲にある家屋の窓ガラ スなどを破壊することがあります。圧力波の有する破壊力は、通常、波の衝撃 圧によって評価されます。各地点における波の衝撃圧は、爆発エネルギー量と 火口からの距離によって大ざっぱには定まります。火山の場合、どれくらいの 圧力条件下で窓ガラスが破損するかの正確な調査はありませんが、人工爆発に よる実験結果を参考にすると、0.01気圧位の過剰な圧力が加わると窓ガラスは 破損するものと考えられます。しかし実際には、ガラスのサイズ、歪みぐわ い、受圧方向なども破損か否かを左右しており、あまり簡単な問題ではないよ うです。もちろん、同一地点であっても爆発エネルギー量がもっと大きい場合 、あるいは同一エネルギー量であってももっと火口に近い場合、衝撃圧はもっ と大きくなり、十分に家屋そのものや樹木を根こそぎにしたりするようになり ます。(9/2/97)

谷口宏充(東北大学・東北アジア研究センター)


Question #36
Q この前、指宿方面に行って、数多くある火山地形を観察してきました。そこには、山川港や鰻池など”マール”と呼ばれるものがたくさんありました。この、”マール”はどういう仕組みになっているのですか?また、ほかの火山地形にも必ず多く見られるのですか? (8/28/97)

まつ:高校生:16

A
 マグマが地下水と急激に反応すると,水蒸気マグマ爆発と呼ばれる,激しい 爆発が起こります.マグマと水の接触の割合によって,その爆発力は連続的に 変化しますが,その中でも激しい爆発が起こったときに作られる火山地形がマ ールです.爆発力が強いために大きな火口が作られますが,噴出物は広い範囲 にまき散らされるので火口の周りにはごくわずかの堆積物しか残しません.地 下から上昇してきたマグマと地下水が接触して爆発が起こるので,その爆発は 地下水面(地下水の上面)よりも下で起こります(つまり火口の底は地下水面 より低い).そのため,噴火が終わると火口は速やかに地下水で満たされま す.
 マールの形成には,マグマと水の接触の割合が関係していますから,どこの 火山でも見られるという火山地形ではありません.指宿地域は日本でマールが 多く見られる地域として有名ですが,この他に秋田県男鹿半島の一の目潟や二 の目潟,伊豆大島の波浮港などが代表的なマールの例としてよく知られていま す.地下水の豊富な海岸付近に比較的多いようです. (9/1/97)

井村隆介(鹿児島大・理)


Question #35
Q 焼山の活動についてですが、専門家の意見が食い違っているそうですが >についてですか?また、今後のみとうしについて言える事を教えて下さい。 (8/22/97)

千田 良道:大学生:21

A 質問の趣旨は,97年8月16日,秋田焼山山頂火口で発生した水蒸気爆発に関し て,これが火山の活動(マグマの活動)に直接関係していたかどうか疑問とし た一部研究者の発言を指しているのだと思います.マスコミがこれを研究者の 見解の相違としてとりあげ東北地方の一部で報道したようです.
 自然現象のある一面だけをとらえればいろんな解釈ができると思いますが, 今回の爆発は中央火口から地下の物質が放出された訳ですからちゃんとした噴 火現象としてよいでしょう.水蒸気爆発は日本のような火山にはしばしば見ら れる現象で,それが拡大して大きな噴火につながった例がいくつもあります. 秋田焼山の活動が今後どう推移するか(マグマが地上に接近しつつあるのかど うか)について,現在,地震学的観測や噴出物(過去の噴出物も含んで)の検 討などの総合的観測観察が気象庁・大学・地質調査所で行われています. (8/27/97)

中田節也(東大火山センター)


Question #34
Q 桜島の灰色噴煙がたくさん出ると、次の日に雨が降るパターンが多いのはなぜか、という質問がありました。天気が悪くなる前には東風になり、鹿児島市内から見ると噴煙が大きく見えるためではないかと思っています。私の考えはおかしいでしょうか。 (8/14/97)

西桜島のおじさん:公務員:50

A
 結論から先にいうとおかしくはないと思います。
 その理由ですが、
 1)天候が変化するときに現れる現象(たとえば風向きが変わる、湿度が変 化するなど)は、必ず次にあらわれる天候と関係しています。似たような話で は、阿蘇の場合では「噴煙が阿蘇谷(火口の北側)に流れると雨が近い」とい う例もあります。阿蘇の場合ではこの話をするときに噴煙の色や量はあまり話 に出てこないようです。
 2)一般に噴煙が多い/少ないという「みかけの噴煙量」の判断は、観察者 の視野の中でどれだけの部分を桜島の噴煙が占めるか(つまり大きく見えるか 小さく見えるか)ということを根拠にします。したがって、ある程度の噴煙の 量が出ていた場合には、西風の時よりも鹿児島市内が風下になる東風の時の方 が噴煙が多い印象を受けるのではないでしょうか。
 3)また「灰色の噴煙が多いとき」とありますが、噴煙が灰色に見えるとき は必ずしも火山灰が混じっている場合ばかりとも限らず、漂う噴煙が厚くて空 からの光を遮ってしまう場合も多いと思います。噴煙が立ち上っていった先 で、本当の雲になって漂って行くことはほかの火山でも見受けることがありま すが、この雲が雨を降らす積乱雲にまで成長するのはよほど活動が活発な時に 限られると思います。
 以上のことから、ご質問の現象に関しては、火山活動の強弱というより気象 そのものの変化で説明するのは妥当な考えではないかと思います。

筒井智樹(京大・理・地球熱学研究施設火山研究センター)


Question #33
Q 自衛隊員が死亡した八甲田山のガス穴と火山活動の関係を教えて下さい。 (7/18/97)

ぷわぷわ:学生:21

A 自衛隊員の死亡原因は高濃度の炭酸ガスを吸引したためです。その炭酸ガスを 採取して分析したところ火山から放出される炭酸ガスであることが判明しまし た。八甲田山は有史の噴火の記録はないものの周囲に多数の温泉水が湧出して いることから活火山であることは明らかです。一般に火山活動と言うと噴火と か火山性地震とか想起されますが温泉の湧出も火山活動の一つです。そのよう な意味では今回の事故はもとをただせば火山活動が原因といえるでしょう。

大場 武(東工大・草津白根火山観測所)


Question #32
Q 火山物理について教えて下さい。 僕は、地震の波形を用いて噴火予知をしたいのですが、現在この分野はどこまで進んでい るのでしょうか。そして、どこの大学院に行けばそのような研究ができるのでしょうか。 ~ 個人的な質問ですみません。 (6/20/97)

進路をなやむ大学生:大学生:20歳

A
 地震学的なアプローチで火山に迫りたいということですね。
 火山で地震波形を使ってなにかをするということであれば、その対象は大き く分けて2つあると思います。
 1つは火山性微動。火山性微動とは、火山の周辺だけで観測される、波形の 始まりと終わりがはっきりしない地動波形の総称です。短いものは数秒から、 長いものは数週間続くものまでありますし、その見かけも様々です。この火山 性微動が火道を構成する地殻の割れ目の振動で説明できる(ハワイやアラスカ の火山に研究例がある)とか、火道内部の火山ガスの柱の自励振動であると か、様々な学説があり、まだ定説がありません。未だ発展途上の研究対象で す。しかし、経験的にはその振幅と卓越周波数の変化が火山活動の指標になっ ています。下の火山性地震に比べて発生源の推定や波のモードの特定が難し く、古くから知られてはいるもののまだまだ未開拓の分野です。
 2つは火山性地震。火山性微動とは、その始まりと終わりが明確に定義でき る点が異なりますが、火山体の内部やその周辺ごく近傍で発生する地震を指す 名称です。この名前で分類される地震も様々な波形を示しますが、火山活動の 推移にともなって発生する場所や波形が変化してきます。火山性地震について は震源で働く力の様子などが火山活動に関連して研究されて成果を上げてきて います。
 上の2項目に関しては観測技術の進歩に伴い、より広帯域の地震計を用いて 震源近傍での波形を対象として、噴火のプロセスを解明する研究も進行中で す。
 あと、人工地震を使用してその走時や波形から火山の内部構造を調べる計画 も現在進行中です。火山によってその成果はまちまちですがこれもまだまだ未 開拓の分野なので、大いに若い力の参入を期待したいところです。
 最後に、火山で地震関係の研究テーマが選べる大学院ですが、私が知ってい る限りでは、北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、九州 大学の大学院理学(系)研究科などです。

筒井智樹(京大・理・地球熱学研究施設火山研究センター,旧火山観測施設)


Question #30
Q 私はテレビや写真でしかマグマを見たことがありません。特別な許可なくして、近距離からマグマを肉眼で観察できるところはあるのでしょうか? 学問的な質問でなくて申し訳ありません。 (6/12/97)

近藤 昌也:団体職員:29

A
 マグマといっているのはおそらくオレンジ色に輝くドロドロしたもののこと だと思いますがこのような状態の溶岩は1000℃くらいの温度をもっています 一般に、近距離まで近づくことは危険です。
 そのような溶岩流は火山噴火の際に地表に現れるものですから突然の噴火に 遭遇できれば、許可無くして観察できる可能性があります。しかし、いつ何処 で噴火が起こるかを予測することはできませんし、そのような可能性の高い場 所で待ち受けることは非常に危険です。
 ところが、地球上の火山の中には、定常的に噴火をし続けている火山がいく つかあります。そのような場所では、「マグマ」を見ることができる場合があ ります。
 ハワイ島のキラウエア火山では1983年からずっと噴火が継続中です。溶岩流 の流れは気まぐれで、日々刻々と変化しますので、観光客の行ける場所のすぐ そばまで流れてくることもあります。そのような溶岩流を見るための展望台な ども整備されています。ヘリコプターで上空から溶岩流を見るツアーがあっ て、たいそうな人気です。もし、これを肉眼で近距離というのならば、特別 な許可無く、お金を払えば誰でも見ることができるわけです。
 1950-51年の伊豆大島三原山の噴火では、多くの人がオレンジ色のマグマを 見に行き、魅せられたように、溶岩湖に身を投げる人が続出し、大きな社会 問題となりました。というようなこともありますので、十分にお気をつけ て。

千葉達朗(アジア航測株式会社)


Question #29
Q 僕は実習で地質の調査をしました。同じ地域なのですが、安山岩、玄武岩,デ イサイトと、火山岩の種類が違いました。同じ火山でも噴出する火山岩が年代に よってちがうことはよくあるのですか。それとも単に火山が違うのですか。 もし、 よくあることならそれらは同じマグマが分化したものなのですか。

(6/5/97)

センダ ヨシミチ:学生:20

A
 ある一定の地域内でさまざまな種類の火山岩がともなって出現することはよ くあることです。これらがマグマのできる過程において同根であったのかそれ とも別物かということ(これを火山岩の成因的関係といいます)は20世紀初 頭からの科学的大問題でありました。技術の発達した現代では、この問題に対 処するにあたって岩石のどんな化学成分を分析してどのように比較すべきかと いう理論はかなり確立してきました。その結果、同地域に出現する、安山岩、 玄武岩,デイサイトなどの岩石がいかなる成因的関係をもつかについては検討 された地域ごとにいろいろな場合があることがわかっています。どんな関係が あるかだけを以下に列挙します。 1 マグマは地下のマントルや地殻が融けてできます。それらをマグマの起源 物質といいますが、その起源物質が岩石毎にちがっている。 2 マグマの起源物質は同じなのだけど、融ける具合が違って異なるマグマが できる場合。融けた場所の深さの違い、揮発性成分(多くは水)の量の違い、 融ける程度の違いなどです。 3 同じもとのマグマ(親マグマといいます)から、それが地下で冷えて固ま る過程で時間をかけて化学成分が変化していく(これをマグマの分化といいま す)ため、変化の程度でさまざまなマグマができる。 4 いろんな理由で生じた複数の異なるマグマが混じり合って中間的組成のマ グマができる場合。 5 マグマが地表へと上昇してくる途中で経路の岩石をさまざまな程度に融か しこんでもとのマグマとことなる組成をもつにいたる場合。

三宅康幸(信州大学理学部)


Question #28
Q 米国ハワイ州のハワイ島で果物を裁培しているのですが古い火山のマウナケア火山(死火山)とマウナロア火山(活火山)の二つの火山で各々同じ品種の果実を裁培した場合生産される果実のサイズが倍近く変わります。色々裁培試験を試みているのですがハワイのマウナロア山系の溶岩に含まれるエレメントが果実の生育に何らかの影響を及ぼしているようです。 この為ハワイの土壌分析ラバフロー分析をしてその違いを見ても現在分析可能なエレメントには殆ど差が認められません、ついてはこの様なことについて何か情報がありましたら是非教えて頂けません出しょうか。又専門家をご紹介頂いても結構です。どうぞ宜しくお願いいたします。 (6/4/97)

Hawaii Big island Farmer:農業:49

A 活火山の周辺の土壌は一般的に言って酸性が強くそのような条件下で生育でき るのは特定の植物種に限られているようです。土壌の酸性は火山起源のSO4-- イオンが原因です。もしかしたらハワイの火山でもこのような現象が起きてい るかも知れません。土壌の直接的な分析に加えて土壌を水に浸した時の水の酸 性度なども測定してみてはいかがでしょうか。

大場 武(東京工業大学・草津白根火山観測所)


Question #26
Q
 小笠原の近くの硫黄島について教えてください 本で読んだことがありますが地盤の隆起速度が異常と聞いております 地下にマグマが蓄積されているとしたら隆起量によってどれくらいの量なのか わかるのでしょうか? 又 最近の火山活動 隆起状況はどうなのでしょうか? 近くであれば自分で一度見てみたいと思うのですがなかなか行けませんので 教えていただければ有り難く思います  (5/31/97)

松井 :会社員:35

A
 硫黄島には海岸段丘や断層崖が発達しており,これまで隆起活動が盛んであ ったことがわかります.この隆起活動は現在でも続いていると考えられていま す.気象庁によれば,1952年から1968年の間の隆起速度は33cm/年とのことで す.いちばん最近の噴火は,1982年の水蒸気爆発です.その後,噴火は起きて いません.また,隆起速度が増加したという報告もありません.
 さて,火山が隆起する原因を地下のマグマの動きに結びつけて考えること は,一般に不自然なことではありません.しかし,両者を量的に結びつけるに は,地殻変動が起きている範囲を調べたり,また別の方法でマグマがどの深さ にあるのかを探ったりする研究も必要になってきます.また,マグマに直接関 係していない地殻変動(例えば,プレートテクトニクスによる変動とか,一般 の地震に伴う変動)の影響も考慮しなくてはなりません.

西村裕一(北海道大学・有珠火山観測所)


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