火山についてのQ&A集 | |
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Question #2461 | |
Q |
農業分野の研究員をしている者です。一昨年の三宅島噴火に遭遇し、現在は農地土壌や園芸作物に対する火山灰・火山ガスの影響等を調べています。火山灰の性質に関してお尋ねしたいことがあります。火山灰粒子表面における火山ガス吸着・放出についての研究例はあるのでしょうか。文献検索(DIALOG)では該当する報告は見あたりませんでした。知りたいのは、@地表への降下直後の火山灰からの火山ガス(特にSO2)放出という現象は起こりえるのか、A起こりえるならば、具体的な放出量、B凹地等に滞留した場合のガス濃度です。もちろん、できれば三宅島の例(推定でも結構です)がよいのですが、他の火山の場合でも構いません。 (08/05/02) 矢沢宏太:公務員:39 |
A |
火山灰への火山ガスの吸着に関する研究は少ないのですが,実験室で鉱物表面とガ スの反応を調べた例はあります. 火山灰に付着している火山ガスの成分は,HCl,SO2,HFなどの気体ですが,これら のガスがそのままの化学種で付着しているわけではありません.これらのガスは純粋 な気体として火山灰表面に吸着しているのではなく,空気中の水蒸気と結合して極め て細かい液滴(エーロゾル)を形成し,それが火山灰の鉱物表面に付着していると考 えられます.このエーロゾルは強い酸性を有し,鉱物表面と反応し,液滴中の水素イ オンは鉱物のカチオンと交換し,液滴は中性に近づくと思われます.さらにSO2ガ スについては,空気中の酸素で酸化され,液滴中ではSO4--イオンになっていると思 われます.SO2ガスの硫黄は+4価です.一方SO4--イオンの硫黄は+6価です.一度 SO4--イオンになった硫黄をSO2に戻すには強力な還元剤が必要ですが,地表環境では そのような還元剤は考えられませんので,火山灰からSO2が発生する可能性はないと 思われます.火山灰の堆積する付近でSO2が観測されたとしたら, 灰と一緒に移動し てきた火山ガスか,灰の間の空間に物理的に閉じ込められた火山ガスであると思われ ます. 火山灰に付着する成分は,SO4--,Cl-イオンを含みますのでこれらが植物に影響を 与えるかもしれません.また灰の表面に付着した火山ガス成分と火山灰鉱物の間の反 応が十分でないと,ぬれた火山灰から浸出する水溶液が酸性を有するでしょう.これ は植物に影響を与える危険性があります. (08/06/02) 大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター) |
Question #2454 | |
Q |
今度、立山カルデラの体験学習会に参加する予定の地学の素人教師なのですが、この貴重な機会を使って体験学習以外にぜひ貴重な資料があれば記録に残したり採集して帰りたい(特に岩石類)と思っています。何かありましたら教えてください。また、それが(漠然としすぎて)困難である場合は事前に呼んで置いたらいいような本、資料があれば教えてください。
(07/31/02)
青葉マーク1号:教員:40 |
A |
「立山カルデラの体験学習会」ですか.いい天気に恵まれることを祈ります.実 は,昨年金沢で開催された日本地質学会の見学旅行に「立山カルデラ―新湯・砂防と 跡津川断層」コースがありました.この見学旅行は幸い好天に恵まれ,地形,地質, 鉱物,断層など様々な見どころを予定通り廻って大成功でした.やや専門的になりま すが,そのコースの見学旅行案内書(赤羽久忠ほか著)があります.しかし,これは 同学会の他の10コースの見学旅行案内書と合冊になっていて,分売はできません. 合冊は若干残部があり,一般の方には\3,000でお分けしています.必要な場合は石渡 まで連絡して下さい.
体験学習会が無事に成功し,大きな成果を得られるよう期待します.
石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) -- |
Question #2452 | |
Q |
安達太良山の沼の平について質問です。 深く侵食された火口壁とそれとは対照的な平坦な円形の火口底という特異な形状をしていますが爆裂火口でありながらあの人工物を思わせる円形の火口底はどうやって出来たのでしょうか。溶岩湖ではないですよね。今でも泥の噴出があるようですが火口形成後大量の泥が吹き出してあのような形になったのでしょうか。(ほとんど火口底が侵食を受けてないように見えるのは常に新たな泥に埋められてるからですか)よろしくお願いします。 (07/29/02) アマンタジン:医師:27 |
A |
非常に火山学的センスのあるご質問ですね.ご指摘の通り,安達太良の沼の平は爆 裂火口とされており,それは事実です.そして,この爆裂火口内では水蒸気爆発やマ グマ水蒸気爆発が繰り返し起こっています.また,火口は重力的に不安定なところで もあり,河川(ここでは硫黄川)による削剥や浸食も進行します.つまり,1つの 「爆裂火口」の中で複数の「火口」ができては浸食されてきた,ということになりま す.円形の火口底をもつ火口はその中で最も新しくできたものと考えられます.これ もやがては硫黄川によって,あるいは次の爆発によって消滅してしまうかも知れませ ん.そして,平坦な泥の広場は,水蒸気爆発の時,火口周辺や爆裂火口壁にたまった 大量の火山灰が水によって流されて低いところ,すなわち活動を停止した火口に再び 堆積してできたものです.水とともに溜まったので非常にきれいな「水平面」を作っ ています.沼の平の「爆裂火口」は,底だけはすぐ抜けるので,その都度新しく張り 替えているけれど,胴(壁)は古いまま使っている鍋みたいなものだと思っていただ けるとお解りいただけるかと思います. (07/29/02) 藤縄明彦(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科) |
Question #2451 | |
Q |
塾で理科の講師をしています。 理科は専門ではないので、まだ勉強中です。 私自身が疑問に思ったことは、子どもたちも疑問に思う可能性があるので質問します。 「大地の変化」の単元で、「マグマの粘り気が弱いと、火山噴出物の色は黒っぽい。 マグマの粘り気が強いと、火山噴出物の色は白っぽい。」とテキストに書いてありました。 どうしてマグマの粘性によって、火山噴出物の色が決まってくるのですか? (07/26/02) 塾講師:大学生:21 |
A |
マグマの粘り気と噴出物の色とは直接の因果関係はないので、質問の部分のテキス ト記述は正しくありません。「玄武岩には黒っぽいものが多く、薄く遠方まで流れた 溶岩(溶岩流)として見られることが多い。これに対して、流紋岩には白っぽいもの が多く、厚い溶岩の流れや盛り上がったドーム地形を作っていることが多い」という ことから生まれた誤解でしょう。例えば、厚みのある玄武岩溶岩はその中に細かい結 晶がたくさん含まれるために灰色をしています。黒曜石は流紋岩ですが黒っぽい色で す。この2例を見てもテキストの記述が正しくないことがおわかりいただけると思い ます。 マグマの粘り気は液体部(メルト)の構造とそれに含まれる「固体や気泡部(結晶 や気泡)の量」に依存しています。メルトは結晶のように網目構造を持っており、そ の網目の変形の強さが「水の量」、「化学組成」、「温度」などによって大きく異な るために、粘り気が差が出てくるのです。水の量が多ければ粘り気は低下し、結晶の ような異物があれば粘り気は増加します。 一方、噴出物の色は、溶岩の中に残っている気泡の量、結晶の量、ガラスの色など に依存します。これらの量は溶岩の冷え方や流れ方などに大きく依存します。ガラス の色は化学組成に依存します。鉄、マンガンなどがより多く含まれる玄武岩ガラスは 黒っぽくなります。 テキストのように単純なものではないことがわかりましたか? (*一言メモ・・・「溶岩」とは地上やその付近にあるマグマやその固形物のことで す) (07/27/02) 中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) -- |
Question #2435 | |
Q |
日本の代表的な成層火山といえば、富士山や羊蹄山などが挙げらると思いますが、 現在成層火山として成長中と思われる火山の中で、将来富士山に匹敵あるいは それ以上の山体に成長する可能性がある火山体はありますか?(個人的には岩手山が その可能性が高いと思うのですが...) (07/18/02) DAISUKE:会社員:27 |
A |
将来のことを予測するのはとても難しく,とても正しい予測とは言えないかもしれま
せんが,現在までの噴出量,噴出率と,大きな円錐形の火山体を作るのに何が必要な
条件か考えてみます.まあ思考実験として読んでみてください.
大きな火山体を作るには,まずなにより噴出量・噴出率が大きいことが必要です.富 士山は若い火山(10万年前に活動開始)にもかかわらず,陸上の成層火山体としては日 本最大の体積です.他の成層火山,特に東北地方の火山は,富士山の1/10程度の体積 しかありません.また噴出率は1000年あたり5立方キロメートルを越え,成層火山と して最大級です.日本の他の成層火山の噴出率は,1000年あたり1立方キロメートル から数億立方メートル程度と富士山の1/5〜1/10程度です. また噴出量,噴出率が高くても,大規模火砕流噴火のように爆発的な噴火が多かった り,噴出率に比べ山体を破壊する機会も多ければ,高く美しい円錐形には成長できな いでしょう.また溶岩流の占める割合が多すぎても,扁平な山体を作るでしょうか ら,円錐形の大きな山体にはなりにくいと考えられます.
富士山は噴出量・率がきわめて大きいうえ,やや爆発的な噴火をする玄武岩マグマの
火山であり,これらの山体成長の条件をバランスよく持っていると考えられます.岩
手山も玄武岩・玄武岩質安山岩マグマを噴出する火山ですから,美しい円錐形の山体
を作る条件の一つを満たしてはいますが,残念ながら噴出量・噴出率ともに富士山ほ
どではなく,富士山のような大きな山体をつくることは難しいと思います.
川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) -- |
Question #2417 | |
Q |
はじめまして。北海道在住の学生です。噴火の間隔についての質問なのですが、これはどのような条件で決まってくるのでしょうか?また、間隔の幅も火山によってまちまちですが(たとえば、最近の有珠山ならば30年ほどの幅)これは何故なのでしょうか?回答をお願いします。
(07/13/02)
まさ:学生:17 |
A |
まささん、こんにちは。 活動的な火山の噴火履歴を見た場合に、多くの火山で噴火の周期性が認められるよ うです。これは火山の地下深部に存在するマグマ溜まりの大きさと、そこにより深く から供給されるマグマの供給率で決まると考えられています。マグマはマントルで発 生したあと、地殻を通過して噴火に至るまでの間に複数の深度で停滞し、マグマ溜ま りを作っています。一番浅く、噴火にいたるマグマが貯蔵されているであろうマグマ 溜まりの深さは、数kmであることが多いようです。マグマ溜まりの状態(深さ、大き さ、形状や周囲の岩石の状態など)や供給されるマグマの性質に大きな変化がない場 合には、マグマ溜まりから噴火に至る条件にはそれほど大きな変化はありません。で すからそのマグマ溜まりに十分のマグマが蓄積すれば噴火する条件が整ったと考えら れます。噴火の周期性がはっきりしている火山(有珠山や2000年噴火以前の三宅島) では、安定した状態のマグマ溜まりに、ほぼ一定の供給率でマグマが供給され、ある 一定量のマグマが溜まると噴火に至ると考えられます。火山毎で噴火間隔が違うの は、マグマ溜まりの大きさやその周囲の岩盤の状態、そしてマグマの供給率が火山毎 で様々なためです。 この周期性はいつまでも続く訳ではありません。例えば三宅島では過去1000年以上 とは全く違う噴火が2000年起こり、現在も続いています。この噴火では山頂部が陥没 して大きな火口が形成されましたが、このことから地下のマグマ溜まりはこの噴火に よって大きく変わってしまったと考えられます。このため例えマグマ供給率に大きな 変化がなかったとしても、三宅島の噴火周期は今までとは全く別になるのではないか と思います。 (08/02/02) 中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)
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Question #2362 | |
Q |
さんご礁の形成について調べ、ダーウィンの沈降説を知りました。しかし、なぜ火山が沈降するのかいまいち分かりません。詳しく教えてください。 (06/26/02) ようこ:学生:19 |
A |
サンゴ礁が火山島の沈降に伴って裾礁→堡礁→環礁へと変化するというのがダーウィ
ンの沈降説です.しかし,例えば南西諸島や琉球列島などのサンゴ礁には隆起して段
丘になっているものもあり,隆起するか沈降するかはその場の構造的な条件によりま
す.海洋の真中にある火山島がなぜ沈降するかは,プレート構造論でうまく説明でき
ます.つまり,海洋底のプレート(リソスフェア)は海嶺でのマグマ活動で形成され
ますが,両側に拡がっていくにつれて冷却され,それとともにプレート(硬い岩石の
層)が厚くなっていきます.海嶺では数kmだったプレートの厚さが,海嶺から何千
kmも離れると100km以上の厚さになります.プレートは,その下の高温でやわらかい
岩層(アセノスフェア)の上に浮かんでいるので,プレートが厚くなれば,それに比
例してプレートは沈みます.それで,ある場所の海面から海洋底までの深さは,その
場所の海洋底の年代(海嶺で形成されてから現在までの経過時間)とともに深くなる
という顕著な関係があり,海嶺付近では海の深さは2000m程度ですが,1億年くらい
前の古い海底の深さは5000m以上になります.海洋底のプレートが沈む(沈降する)
なら,その上に載っている海山(火山島)も当然沈降します.また,火山島自身が,
マグマ活動の沈静化とともに地下の温度が低下し,周囲に対してそれ自身が沈降する
という局地的な動きもあります.これらによって裾礁→堡礁→環礁と変化する理由が
説明できますが,それだけでなく,山頂部が波に削られて平らになり,それが沈降し
てできた平頂海山(ギヨー)が海面下にたくさんあることも説明できます.この考え
方は杉村新先生の教科書「グローバルテクトニクス」(東大出版会)の第VI章に詳し
く説明されていますので,是非読んで下さい.
(07/02/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) -- |
Question #2345 | |
Q |
昨日ニユ−スで言つていましたけど浅間山の活動が活発になつているようですが今後大噴火 を起こす恐れなどは有るのでしようか?ちなみに最近よく話題になつている富士山の噴火や 東海地震との関係は有るのでしようか? (06/23/02) 山本浩三:トラツクドライバ−:36 |
A |
現在観測で得られているような状態が続くのであれば,火山ガスの噴出が続く程度で
終わるのではないかと考えられますが,場合によっては小規模な噴火が起きる可能性
もありますので,気象庁では情報を出し,地元の自治体も登山規制を行っています.
浅間山は20世紀初頭に大きな噴火を繰り返し起こしてきましたが,この100年でしだ
いに活動の規模が小さくなってきました.火口底の深さも深くなっています.このこ
とは,浅間山のマグマの活動度がしだいに低くなってきたことを示していると思われ
ます.したがって,現在の状態では,山麓の居住地区に被害を及ぼすような大噴火を
起こすことはないと考えられます.浅間山の活動はしだいに小さくなってきました
が,いずれはまた活発な状態に戻ると考えられており,特に,地下でのマグマの蓄積
や上昇を正確に捉える観測や研究が大切です.詳しくは,地震研究所のホームページ
をご覧ください.
浅間
山の最近の活動
(06/24/02) 鍵山恒臣(東京大学・地震研究所・火山センター) -- |
Question #2344 | |
Q |
世界の海底地形図を見ていて思ったのですが、太平洋プレートの生産地である東太平洋海嶺は、はるか未来には大西洋の拡大に伴って西進してくる南北アメリカ大陸と衝突してしまうのではないでしょうか?もしそうなったら海嶺や大陸はどうなってしまうのでしょうか?
(06/23/02)
しろしろ:フリーター:24歳 |
A |
東太平洋海嶺は,実はもうすでに北米大陸と「衝突」しています.南米沖の東太平洋
海嶺はメキシコの沖で北米大陸に接近し,カリフォルニア湾で北米大陸に割って入っ
ています.そして米国北部沖〜カナダ沖で再び海底に現れます(ファンデフーカ海
嶺).両者の間の部分は,サンアンドレアス断層に代表される長大な横ずれ断層系に
なっています.この地域の内陸側では,大陸下のマントル上昇流が地殻の構造に大き
く影響しており,ネバダ州〜ユタ州のベーズン・アンド・レンジ地域では大陸の地殻
が薄くなっていますが,これらの原因が海嶺衝突かどうかはわかりません.
また,南米沖ではココスプレートとナスカプレートの境界のガラバゴス海嶺がエクア ドル〜コロンビア付近で大陸と「衝突」していますし,ナスカプレートと南極プレー トの境界のチリ海嶺がチリ南部で大陸と「衝突」していますが,そこで特に変わった 現象が起きているわけではありません.しかし,インド洋中央海嶺がアフリカ大陸と 「衝突」している部分ではアデン湾と紅海の海嶺がアフリカ大陸からアラビア半島を 分裂させていますが,これはアファー三角地帯(ジブチ付近)にホットスポット(マ ントルからの上昇流)があって,そこが東アフリカリフト帯とこれらの海嶺との三重 点になっていることが原因と考えられます. つまり,海嶺が大陸と衝突するだけなら,たいしたできごとは起きませんが,大陸の 下に大きなホットスポットがきて,そこから3本の海嶺が派生するような状況になる と,大陸が分裂すると考えられます.最近は,日本海のような縁海の形成も広域的な マントル上昇流(ホットリージョン)の働きによるという説があり,地球上の大陸が 全部集まった「超大陸」の形成やその分裂には,マントル底部からの数千km規模の上 昇流(スーパープルーム)が関与したという説が有力です.地球の固体部分の変動 は,プレートの動きだけでは説明できず,もっと深いところのマントルの動きが重要 視されるようになってきています. (07/03/02) 石渡 明(金沢大学・理学部・地球学教室) -- |
Question #2343 | |
Q |
過去、北海道や九州等のカルデラにおいて想像を絶する規模の噴火が起きていたと知り大変驚いていますが、日本で過去数十万年のうちで1番規模の大きかった噴火はどの噴火で、どれほどの噴出物を出したのでしょうか? また、この種の噴火では巨大な火砕流が発生し100km以上先にまで達することもあるそうですが、このような火口からはるか先にまで到達した火砕流でも、まだ高温を保っているのでしょうか? (06/23/02) しろしろ:フリーター:24歳 |
A |
「火山噴火の規模で、一番大きいのは何か」というご質問に答えるのは、実は、け っこう難しいのです。地震と比べると、噴火現象はきわめて多様なので、規模を単純 に定義するのが簡単ではないからです。しかし、多くの場合、火山爆発指数 (Volcanic Explosivity Index)というのが、使われています。これは、おもに噴出 量によって、噴火の規模を段階別に分けたものです。この指数に従うと、日本で最大 級の噴火は、9万年前に阿蘇カルデラから出た阿蘇4火砕流や、2万5千年前に鹿児島湾 内の姶良(あいら)カルデラから出た入戸(いと)火砕流の噴火が、東西の横綱とい えます。いずれも数100立方キロメートルの噴出物を出しています。 ただし、どちらが一番かと聞かれると、やはり悩みますね。というのは、比べるべ き噴出量として、地上に残った堆積物以外に、空高く舞い上がった細かい火山灰の量 も考えなければならないので、その見積もりがたいへん難しいからです。そこで、こ こでは、阿蘇4火砕流と入戸火砕流の両噴火が、最大級だと述べたわけです。 過去数十万年前までさかのぼると、90万年前に噴出したアズキ火山灰(今市火砕 流)や100万年前に出たピンク火山灰(耶馬溪(やばけい)火砕流)も同じくらい巨 大な噴火の痕跡を残しています。両者はいずれも、大分県の猪牟田(ししむた)カル デラから噴出したものです。しかし、どちらも古い堆積物なので、いったいどれが最 大かを決めようとしても、なかなか決めがたいと言うのが実状です。火山の規模の決 め方に関しては、火山研究者の間でも様々な考え方があります。第1位を決めるの は、それほど重要ではないのではないか、という気も、私にはしています。 上に挙げた阿蘇、入戸、今市、耶馬溪のいずれの火砕流も、巨大噴火の産物です。 大規模な火砕流が発生し、中には150キロメートル先まで流れ下ったものもありま す。これらの堆積物は高温であったために、流れた先で溶結凝灰岩(ようけつぎょう かいがん)となることもあります。つまり火山灰や軽石など、いったんバラバラの形 になった固体が、再び液体に近い状態となったのです。軽石や火山灰が溶結凝灰岩と して固まるには、摂氏700度を超すような高温であったことが、分かっています。さ らに興味があるようでしたら、最近私が書いた火山の入門書(『火山はすごい』 PHP新書)の「阿蘇山」の章を参考にしてみて下さい。 (07/23/02) 鎌田浩毅(京都大学・ 総合人間学部・地球科学分野) -- |