火山についてのQ&A集

Question #3409
Q 先ごろ、学会で(専門はぜんぜん違いますが)ハワイにいったついでに、キラウェアやマウナケア、ハレアカラ、ダイアモンドヘッド、とひととおり現地の火山を上ってきました。とても楽しかったです。
ところで、ハワイの火山、ってリフトゾーンがあって、そこからよく噴火すると聞きましたが、このリフトゾーンの形って、どの山も山頂付近で折れ曲がった独特な形をしていますね。これは何故なのでしょうか?

日本の火山では、圧力がかかるため、頂上を含む直線上でよく噴火する(富士山とか箱根とか)、という話はよく聞きますが、これについては、圧力がその向きにかかっているんだな、とかいうように分かりやすいのですが、
このように折れ曲がった線になっている理由がよくわかりません。
よろしくお願いします。 (11/16/02)

山彦:バイオ:30

A
 ハワイといえばホノルル・ワイキキビーチだったのですが,最近は火山とし てのハワイも知られるようになってきたようで,火山屋としてはうれしいで す.
 ハワイの説明の前に,簡単に側火山が特定の方向に多いわけを考えてみま す.マグマが地下から地殻を破壊しながら移動するとき,地殻にかかっている 応力の影響を受けて,もっとも割れやすい方向に割れます.地殻にかかってい る応力を3成分にわけて考えると,岩脈の伸びの方向は最大圧縮軸に平行で最 小圧縮軸(最大引張軸)に直交する方向になります.つまり岩脈の伸びの方向は 岩脈が貫入したときの最大圧縮軸の方向,または岩脈の伸びの方向に直交する 方向が最大引張軸だったことを示します.富士山や箱根,伊豆大島などの側火 山分布は,プレートの沈み込みに伴う北西-南東方向の広域圧縮応力が非常に 大きく,それに平行な方向に岩脈が入りやすいためです.
 ハワイの場合,プレート内のホットスポット火山ですから,広域の応力場は ほとんどありません.基本的にマグマ溜まりの圧力変動による応力と,火山体 にかかる重力による応力に支配されていると考えられています.中央火道の下 にあるマグマ溜まりの圧力が増大すると,地殻には引っ張り応力がかかりま す.そのため中央火道・マグマ溜まりから放射状岩脈が派生します.これだけ なら多くの中央火道を持つ火山と同じですが,ハワイの場合,海底から 8000-10000mも盛り上がっている山体が,自らの質量で滑り落ちようとしてい て,それがリフトゾーンをつくる大きな要因と考えられています.プウオオ火 口からの溶岩流が海に流れこんでいる場所に行かれたでしょうか?
 もし行かれたのであれば,キラウエア山頂からChain of Craters Roadを南 海岸まで急な崖を降りていったと思います.その崖がキラウエア火山の南側斜 面が滑り落ちている断層崖(ヒリナ断層系)です.キラウエア火山の南斜面は南 側に滑り落ちようとしているため,その方向に引っ張り応力がかかっているわ けです.キラウエア火山のリフトゾーンが山頂近くで湾曲しているのは,中央 火道がつくる応力(山頂に近いほど大きい)に支配される領域と南側へ引っ張る 応力が支配する領域の境界で湾曲すると考えられます.なお,ハワイでリフト ゾーンが発達する理由に,海底堆積物が滑り面として作用し,火山体が滑りや すいためだという説があります.機会があれば下記の論文を読まれてみてはい かがでしょうか.

中村一明(1980) なぜハワイ火山では長い rift zone が生ずるのか -厚い海 底堆積物の役割-.火山,第2集,25巻,p255-269.
 (11/28/02)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) --


Question #3193
Q この前父と群馬県の白根山に行ってきたのですが、湯釜はどうして酸性が強いのですか?sれで、どうしてエメラルドグリーンになったんですか?山肌が白いのはなぜですか? (11/04/02)

あやか:中学生:14

A
 湯釜が強酸性なのは,湯釜の底から熱水が湧いていて,それに塩酸(HCl),硫酸 (H2SO4)などが含まれるためです.これらの酸は,もともとマグマから発生した HClガス,SO2ガスが湯釜の地下で地下水に溶け込みできたものです.
 色がエメラルドグリーンなのは,湯釜の湖水に鉄イオンがとけていて,さらに硫黄 やいろいろな鉱物の微粒子が縣濁(ただよっていること)しているためだと思われま す.実際に湯釜の水を汲んで,光にすかしてみてもエメラルドグリーンではありませ ん.太陽光が湖水に入射するときに鉄イオンや微粒子の影響で「エメラルドグリーン の光」が反射して,われわれがその色を感じているのだと思います.これは海水が実 際には青い水ではないのに,天気が良いときは海が青くみえるのと同じ原理です.
 山肌が白いのは,草津白根山の噴火の際に地表に放出され降り積もった火山灰が白 っぽいためです.草津白根山の火山灰は,酸性の水と反応した岩石で構成されていま す.岩石は酸性の水に接していると,岩石に含まれている金属イオンが水に奪われ て,残りの岩石はシリカ(SiO2)の割合が増えます.シリカは白いので,岩石が酸性 の水と反応すると岩石は白っぽくなります.実はこれ以外にも複雑な現象がからんで いるのですが,概略としてはこのようなことです.地下で酸性の水と反応した岩石 が,噴火で地表に降り積もり山肌が白くなりました.
 (11/05/02)

大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター) --


Question #3191
Q 三宅島火山噴火について質問します。
Q1.火山噴火後の土地の様子は?また、なぜそのような土地になったのですか?
以上です。
質問に至った理由は、学校で上のような調べ学習をしているからです。 (11/03/02)

ユキ:小学生:12

A 三宅島では2000年の噴火によって山の地形が大きく変化しました。山頂が直径約 1.6キロメートルに渡って400メートルほど陥没しました。そのような窪地をカ ルデラといいます。また、陥没した火口の中や周囲には、れきや火山灰が厚く堆積し ました。カルデラができたのは、三宅島の地下にあった大量のマグマが神津島方向に 吸い寄せられたために、そこに大きなすき間ができて地上の岩石がそこに落ち込んだ せいであると考えられています。また、陥没の途中に大きな爆発が繰り返して起きた ために、れきや火山灰が火口のそばに降り注ぎました。
 (11/04/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #3184
Q 冨士火山は伊豆半島が楔のように食い込んだ先に発達した火山のように見えますが、この場所に日本では桁外れに大きな火山が出来たのは、伊豆半島のプレートへの潜り込みが関係しているのでしょうか?、日本列島に付加された陸塊ではこのような所はほかにないのでしょうか?北上山地や阿武隈山地も似ているように見えますが。

(11/01/02)

ぼるけの:会社員:40

A
 ご指摘のように伊豆半島は本州に対して楔のように食い込んでみえます.このこと は海底地形をふくめて眺めるともっと明瞭になります.伊豆半島の西側では,フィリ ピン海プレートの沈み込み境界である南海トラフの延長にあたる駿河トラフが,伊豆 半島と平行するように北上し,富士川河口付近で陸側に上陸しています.一方伊豆半 島の東側では日本海溝から分岐した,やはりフィリピン海プレートの沈み込み境界で ある相模トラフが,伊豆半島と平行するように北上し,国府津付近で陸側に上陸して います.これらのプレート沈み込み境界の海洋側にあたる伊豆半島は,フィリピン海 プレートの上にのっているわけです.伊豆半島には沢山の火山があります.伊豆半島 の南の延長は,伊豆大島,三宅島,八丈島などの火山島からなる,伊豆・小笠原火山 弧を形成しています.火山弧の地下のマントルからは灼熱したマグマが上昇してくる ために,火山弧では,固化したマグマによってマントルよりも軽い地殻の厚さが厚く なるとともに,その熱によって全体として密度が小さくなります.そのために,軽い 伊豆・小笠原火山弧はフィリピン海プレートといっしょにマントルへと沈み込むこと ができず,沈み込まれる側である本州島と衝突してしまったわけです.伊豆半島は現 在も衝突を続けており,丹沢山地はそのために隆起していると考えられています.伊 豆半島が衝突して沈み込むことができないため,そこを固定点として東側のフィリピ ン海プレートは北東へ,西側のフィリピン海プレートは西側へ沈み込んでおり,いわ ば生き別れ状態になっています.このために,沈み込んだ両者の間には裂け目ができ ているという考えがあります.この裂け目はちょうど富士山の直下付近を通過してい ます.そのためにそこではマントルで発生したマグマが上昇しやすく,富士山直下の 地下に大量に溜まっているという見方もあります.富士山が日本列島では桁外れに大 きい玄武岩質の火山であるのはそのためかもしれません.いずれにしても,富士山が 置かれている場所が,日本列島ではここにしかない大変ユニークな場所であることだ けは間違いありません.伊豆半島付近では,火山弧と火山弧がT字型に衝突していま す.このようなタイプの衝突帯は現在の地球上ではきわめてまれなのです.北上山地 や阿武隈山地の一部には中生代という古い時代に付加した古い陸塊が含まれてはいる のですが,現在も衝突帯であるというわけではありません.
 (11/12/02)

高橋正樹(日本大学・文理学部・地球システム科学科) --


Question #3127
Q 地形図を見ていて思ったのですが、北海道余市町近くの赤井川村付近はカルデラなのでしょうか。もしそうであれば、いつ頃活動していたと考えられるのでしょうか。
よろしくお願いします。 (10/26/02)

koyama:公務員:36

A koyamaさん、するどいですね。赤井川村にある盆地は確かにカルデラのように見えま す。赤井川は昔からカルデラの可能性が指摘され、いくつかの調査・研究が行われて きました。カルデラであることを実証するには、地形の他に、カルデラ形成に伴って 放出された大量の火山噴出物(火砕流)が周辺に分布することが必要です。そして大 量のマグマが出たことにより、カルデラ底の地下が軽い物質で占められていることを 重力測定で示すことも重要な証拠となります。赤井川の場合には重力測定によりカル デラである可能性は指摘されていますが、カルデラ周辺の火砕流については確実なも のは見つかっていません。ただし可能性のある火砕流は点在しています。この火砕流 がカルデラ形成に伴ったものであれば、カルデラ形成は150-200万年前頃になりま す。さらなる調査が必要ですが、火砕流が古いために露出が悪かったり、侵食が進ん でいるため、結果は芳しくありません。
 もし北海道の地形に興味がおありなら、北海道の帯広の北、東大雪地域にある十勝 三又盆地をご覧下さい。ここも赤井川と同様に地形的にカルデラの可能性が指摘され ていた所です。ここは最近の研究によって、カルデラ周辺の大量の火砕流を特定する ことができ、また重力測定によってカルデラであることが実証できました。そして火 砕流の年代を測定して、十勝三又カルデラは約50万年前に形成されたことが明かにな りました。 (10/31/02)

中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻) --


Question #3010
Q 火山の種類で、問題集のまとめの部分に「成層火山」(例)富士山・雲仙岳 とありました。
テストで雲仙普厳岳は「成層火山」と書いたところ、「鐘状火山」が正解でした。どちらが
ただしいのでしょうか。雲仙岳と雲仙普厳岳はちがうのですか。 (10/19/02)

あきこ:学生:15

A
 火山をいくつかに分類することによって理解はしやすくはなるのですが、自然界に はどれに当てはまらないものや、どちらとも言いかねるものがでてくるのが普通で す。鐘状火山という言葉は現在では火山学的にはほとんど使いませんが、鐘(つりが ね)の形をした地形を持つ溶岩ドーム(溶岩円頂丘と同じ)のことです。教科書では 昭和新山がその例とされていると思います。成層火山は、溶岩と火山灰などが積み重 なって、ひとつの火口地域を中心としてできた円錐形の大型の火山のことです。富士 山や岩手山がその典型的な例です。
 雲仙普賢岳とは雲仙岳の山頂部を指し、雲仙岳という場合はもっと広範囲に山全体 を指すときに用います。出題者は山頂部(普賢岳)が溶岩ドームなので鐘状火山、雲 仙岳全体はどちらかといえば円錐形であるので成層火山と言いたかったのかもしれま せん。ただ、雲仙岳は典型的な成層火山とするのはよくありません。なお、「鐘状」 ということでは普賢岳よりはその東にある眉山の方がより近いでしょう。
 正直言って良い出題とは言えませんね。
 (10/20/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #2925
Q 私たちは、りかの授業で、火山の大地のつくりと変化について、勉強しています。
そこで、有珠山の、噴火による大地の変化を調べています。
たとえばどんな変化があったか教えてください。 (10/15/02)

浦河町立浦河小学校6年生:小学生:12才

A 浦河小学校6年生の皆さん、こんにちは。 有珠山の噴火による大地の変化ですね。有珠山は実に様々に大地を変化させてきまし た。 まず1万数千年前から有珠山は噴火を開始し、地下からマグマを出しました。そのマ グマが固まった溶岩などが積み重なって、小型の富士山のような山を作りました。こ のようにマグマを出して、それが火口のまわりに積み重なって山を作るというのも 「火山による大地の作り方」のひとつです。そして数千年前に有珠山の山の南側が大 きく崩れてしまいました。これにより有珠山の一部はなくなってしまいましたが、そ の崩れたものは南側の山麓に広く溜まっています。今の伊達市善光寺あたりには、元 々有珠山を作っていた山の一部が小山を作っていたり、海岸近くの島になっていま す。これも大地の変化です。

その後も噴火は続き、山の成長もあったようですが、間も無く長い休みの時期に入り ました。ところが江戸時代の西暦1663年から現在まで続く噴火活動がはじまりまし た。最初の1663年の噴火ではマグマを軽石として放出して、その軽石は遠く日高地方 まで分布しています。浦河や少し北の方では、崖の上の方に白い火山灰として見える はずです。この噴火では大量のマグマが出てしまったので、山頂に大きな火口ができ てしまいました。それから2年前の噴火まで何回も噴火しています。それぞれの噴火 ではやはり軽石を出していますが、それに加えて非常に粘り気のあるマグマが地表に 向かって上昇してきました。そしてあるときにはマグマが地表に顔を出して溶岩ドー ムを作ります。この一例が昭和新山ですね。また顔を出さなくても、地表近くまで上 がってくることで地面を押し上げて山をつくります。これが明治新山や2年前の噴火 でできた山ですね。このようにマグマが地面を押し上げるときには、広い範囲で地面 が盛り上がったり(隆起)、割れ目や地面の段差(断層)ができたりします。また地 面は上下方向だけではなく、水平方向にも動きます。そのため線路や道路が曲がった りもします。これらの地面の動きのことを「地殻変動」と呼んでいます。これも「火 山による大地の作り方」で、有珠山の場合はこの「地殻変動」で有名ですが、それ以 外の方法でも「大地を作ってきた」ということも覚えておいて下さい。
 (10/15/02)

中川光弘(北海道大学・大学院理学研究科・地球惑星科学専攻)


Question #2913
Q 先日 鹿児島県姶良郡蒲生町の米丸地区と住吉池が火山として指定される
と新聞で知りました
住吉池は火山の火口あとだと言う事は知っていましたが
米丸地区が火山の火口跡とは思いませんでした
今後火山活動はどのように起こるのか
危険性など教えていただけませんでしょうか
親戚がたくさん住んでおり実家も近くなので心配です

(10/13/02)

めりけんこ :会社員:31

A
 気象庁では,活火山の定義を「噴火記録のあるもの,または,噴気活動が活発なも の」というものから,「約1 万年以内に火山活動があったと思われる火山」とする改 訂作業(2003年2月を期限)を行っています(Question#-2320などを参照して下さい ).「噴火記録のあるもの」というのは,「過去2千年以内に噴火したもの」と解釈さ れてきましたので,1万年前から2千年前の間に噴火した火山が,今回の改訂で活火山 に加わることになります.鹿児島県で候補にあがっているのは,「米丸・住吉池」, 鹿児島湾海底にある「若尊(わかみこ,通称タギリ)」,「池田・山川の火山群」, 「口之島」の4ヶ所です.新たに活火山に加わると言っても,火山活動が最近活発に なったからというわけではなく,過去に噴火があったという事実から指定されるだけ ですから,今後の活動予測みたいなのは,特にはないと思います.
 米丸・住吉池の7500年前の噴火活動については,このQ&AのQuestion#-94と201をご 覧いただくとして,この地域には,もう1ヶ所,青敷火山というのがあります(「日 本の第四紀火山カタログ」の火山データベースを参照して下さい).青敷火山の噴火 年代は,10万年くらい前とする説と30万年より古いという説があります.これらのこ とから,この地域で起こる噴火の頻度は,それほど大きくないと考えられますが,い かがでしょうか.
 (10/21/02)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科) --


Question #2896
Q 先日箱根に研修旅行に行き、大湧谷というところでいろいろと実験をしました。そのなかで、白濁した水が流れている小川があり、そこの石がほかの石と違い、白や緑色をしていました。この白濁した水に何か影響を受けているように思うのですが、岩石のなかには、そのように色が変わるものがあるのでしょうか?もしそうだとしたら、それはどうしておこるのでしょうか?教えてください。よろしくお願いします。 (10/10/02)

パニックキャット:学生:16

A 大涌谷でどういう実験をしたのでしょうか? 今度ぜひ教えてください。さて、大涌 谷の表面にある岩石は神山や冠ヶ岳の溶岩が土砂崩れ等で流れてきたもので、とくに 変わった特徴のない安山岩です。大涌谷の表面を流れている水は酸性なのですが、岩 石がこの中に浸っていると、岩石の中に含まれる鉄やマグネシウムなどがとけて岩石 から失われてしまうのです。安山岩は灰色ですが、その「黒っぽさ」の原因は鉄にあ るようです。温泉に浸されて鉄が失われると、岩石は「白っぽく」なります。さて、 パニックキャットさんは「緑色」の岩石も発見されたようですね。私は大涌谷で緑色 の石を見たことがありません。というわけで、緑色の石に関しては回答できません。 申し訳ありません。もし、サンプリングなどをされているのであれば、まずは先生方 やお近くの博物館等にお問い合わせ下さい。
 (10/17/02)

萬年一剛(神奈川県温泉地学研究所)  --


Question #2855
Q 先日、高校の研修旅行で大涌谷(兼箱根)に行ったのですが、その際ガスが噴出しているところから500m近くの距離がある水溜りのphを測ったところ、4以下のphが出ました。あまりの低さについついその水溜りを避けてしまったのですが、これは火山ガスの影響なのですか?もしそうならば大涌谷の火山ガスにはどのような成分が含まれているのですか?教えてください (10/08/02)

みたらし:高校生:16

A 大涌谷でいろいろ測定されたようですね。とても良い体験だと思いますが、噴気地帯 はいろいろな危険がありますのでくれぐれも気をつけてください。

さて、大涌谷の地表にある水は酸性が強いですが、これは主に硫酸が含まれているこ とが原因となっているようです。硫酸の起源はみたらしさんがお考えのように火山ガ スだと考えられますが、どうして硫酸なのかというとちょっと難しい問題があるよう です。火山ガスには二酸化硫黄(亜硫酸ガス;SO2)が含まれていておそらくこれが 硫酸の元となっていると考えられます。これが水と反応するとH2 SO3が出来るのです が、これは亜硫酸というもので、硫酸ではありません。大涌谷の水を測定するとSO4 --(硫酸イオン)は検出されるのですが、S03 --(亜硫酸イオン)は検出されませ ん。おそらく、火山ガスが水に溶け込むだけでなく、空気中の酸素が水に溶け込み亜 硫酸と反応することではじめて硫酸が出来るものと考えられます。

これがおおよその考え方ですが、硫酸イオンがどこで出来ているかというのを考えて いくとちょっと話は難しくなります。硫酸イオンができるためには空気中の酸素が必 要だとする考え方で行くと、地下深くの温泉は空気に触れる機会がないと考えられる ので硫酸イオンは含まれず亜硫酸イオンに富むことが予想されるのですが、現実には 地下の温泉も硫酸イオンに富んでいます。こうした観察を「表面の地下水は地下のか なり深いところまで供給されているのだ」として説明する考え方がある一方で、「亜 硫酸の自己酸化によって硫酸が出来るのだ」とか、「硫酸は火山ガスの影響で出来た 硫化鉱物からもたらされたのだ」という説明もあります。興味があったらぜひいろい ろと調べて硫酸の起源「みたらし」説を発表してください。

もうひとつ、大涌谷のガス成分ですが一般的に多くの火山でそうなのですがほとんど (99%ちかく)が水蒸気です。水蒸気以外のガスで最も多いのは二酸化炭素、その次 が硫化水素で、二酸化硫黄はほとんど含まれていません。二酸化硫黄がほとんど含ま れていないのは、大涌谷ではマグマから直接出てきたガスが噴出しているわけではな く、地下水と反応したあとのガスが出てきているためです。二酸化硫黄は水に溶けや すいので、大涌谷のように表層に水がたくさんある地域だと仮に二酸化硫黄の供給が あっても地表に出る前に水に溶け込んでしまうと考えられます。硫化水素は二酸化硫 黄と水が反応して出来たもので、箱根のように地表近くに水がたくさんあるところか ら出てくる火山ガスとしては一般的な成分です。
 (10/17/02)

萬年一剛・石坂信之(神奈川県温泉地学研究所)  --


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