火山についてのQ&A集

Question #3737
Q 初めまして。
仕事で鹿児島市に赴任して、毎日桜島を見ているうちに火山に興味を持つようになりました。
このホームページはいつも楽しく、そして火山に対する畏敬の念と火山学者の皆様への感謝の思いを忘れずに拝見しています。最近、いろいろ調べて、錦江湾がカルデラだったことを知ってびっくりしました。さらに九州には同じような規模の爆発の跡がいくつもあることを知ってもっと驚きました。
そこで質問です。
1:先日「死都日本」という加久藤カルデラが巨大噴火する小説を読んだのですが、その中で、九州の巨大噴火はイエローストーン火山などと異なり、マグマが深層に留まったまま、いきなり大爆発をおこして、火山の山体を地下深部からじょうご状に破壊してしまうという記述がありました。これは学問的に裏付けられた事実なのでしょうか?それとも、まだ仮説に過ぎないのでしょうか?
2:また、事実だとしたら、九州や日本以外にもそのようなじょうご状の大噴火をおこす火山があるのでしょうか?(クレーターレイクカルデラはじょうご状巨大噴火とは違いますよね。) (12/31/02)

コーサカ:公務員:33

A
 確かに死都日本おもしろですね。よくかけていると思います。
 さて、カルデラを作る噴火は一般に規模の大きい噴火で、大量のマグマが 火砕流となって短時間に噴出するものです。カルデラができた際に噴出した 火砕流堆積物を調べると化学組成が次第に変化することが多く、噴火前に マグマは地下の溜まりで、上下に組成が異なっていたと考えれています。
 じょうご状の巨大噴火とは火山学的には言わないと思います。
 カルデラには、地上部分の陥没によってできる場合や、火口周囲の地表部分 がじょうご状に大規模に噴き飛ばされてできる場合があると考えられています。 後者はじょうご状カルデラと呼ばれています。死都日本ではじょうご状 カルデラを作る火砕流噴火をじょうご状の巨大噴火としているようです。
 日本の多くのカルデラを伴った火砕流噴火は、そのようなじょうご状の火道を 作っているというモデルが、数十年前に、日本の火山学者によって提案 されました。例えば、阿蘇カルデラもそのひとつとして提案されました。 しかし、最近行われたボーリングの結果は、じょうご状カルデラ説には 否定的で、陥没カルデラを支持するものでした。
 じょうご状カルデラのことをクレーターレイク型カルデラと提案 されましたが、米国オレゴン州のクレータレイク火山のカルデラは典型的な 陥没型カルデラであると米国の研究者は考えています。
 (01/04/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3736
Q 高校で地理を教えていますが、アスピ−テやトロイデなどの火山地形は何語でしょうか。語尾からするとイタリア語などのラテン語起源のような感じがするのですが、いかがでしょうか。またいつ頃誰が提唱したのかも教えてください。 (12/31/02)

おおしま:高校教師:40

A 1911年にドイツ人のシュナイダーが火山を地形によって7つの基本形に分類し ました。アスピーテ(Aspite)は盾状火山で、トロイデ(Tholoide)は鐘状火 山 と訳されていますが溶岩ドームと同じです。これらの用語は地理の分野では まだ使われているようですが、火山学の分野では今はほとんど用いません。も はや日本と韓国以外ではこれらの用語は使っていないらしく、インターネットで 検索しても2国以外は引っかかりません。
 (01/04/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3734
Q 2000年噴火前の三宅島のハザードマップを見た事がありますが海岸線で水蒸気爆発を起こしやすい地域と比較的起こしにくい地域にわけられていました。前者は阿古から坪田にかけてで実際20年前にも起こしています。起こしにくいとされていた島の反対側では昭和15年、37年とも海底噴火を起こしてますがいずれも水蒸気爆発は伴っていなかったと思われます。地下水系の違いとかでこの差が生まれるのでしょうか。よろしくお願いします。 (12/31/02)

アマンタジン:医師:27

A
 三宅島の二酸化硫黄などの火山ガスは,減ってきたとはいえ依然高いレベル にあ り,まだ安心して帰島できる状況になく,島民の皆さんは,引き続き辛 い思いを続け られていることと思います.


 アマンタジンさんの御質問はマグマ−水蒸気爆発についてですが,まず,三 宅村が 平成6年に発行した三宅島火山防災マップに示された”マグマ−水蒸気 爆発が発生す る可能性が高い地域”を確認しましょう.このように表示され た地域は,火口が生じ る可能性が高い地域(図上では1962年,1940年, 1874年の噴火割れ目がのびた島の北 東地域と1983年,1763年,1712年の噴火 割れ目がのびた阿古,薄木,粟辺など南西地 域)と火口が生じる可能性がや や高い地域(図上では1595年,1535年の噴火割れ目が のびた坪田や三池など 南東〜東地域)のうち,海岸沿いの標高がおよそ200m以下の地 域が相当しま す.
 この図の作成者の意図は,(割れ目)火口が開口してマグマが上昇してくる 可能性 が高く,かつ,地下水や海水など豊富な水と接触できる範囲を”マグ マ−水蒸気爆発 が発生する可能性が高い地域”として示したものだと理解で きます.標高200m以下と した理由は三宅島の過去のマグマ−水蒸気爆発によ ってできた爆裂火口の地形が存在 することや地下水の存在の状態から地下に 豊富な水があると判断したと考えられま す.また浅い海底(水深100m以浅) でもマグマ-水蒸気爆発は起こりますから,海側 へも範囲は拡げて示してあり ます.
 それでは,マグマが水と接触すれば必ず爆発的なマグマ−水蒸気爆発が起こ るか? というと実はそうではないのです.接触する水とマグマの比率は任意 の割合いを考え ることができますが,その比率がある範囲にある場合に特に 爆発的になるのです.水 /マグマの重量比がが0.3〜1くらいのとき最も爆発の 効率がよいという研究もありま す.ですから.同じ場所で噴火が起こって も,マグマ自身の噴出率によって水とマグ マの接触の割合が変わり,爆発の 規模も異なる,というのがふつうです.一回の噴火 の中でも時間の経過(マ グマの噴出率の変化)とともにマグマ噴火からマグマ−水蒸 気噴火になった り,その逆が起こることも珍しくありません.1940年,1962年には幸 いにも 水とマグマの比率が規模の大きなマグマ−水蒸気爆発につながらないものだっ たのでしょう.しかし,この2回の噴火の溶岩で埋め立てられた赤場暁湾自体 は過去 にマグマ−水蒸気爆発で開いた火口の跡だったらしいのです.
 なお,工学の分野では火山のマグマ−水蒸気爆発に類似した現象として,高 温の溶 融体が低温の溶融体と接触して爆発的に蒸気が発生する”蒸気爆発” が知られていま す.一例として,原子力発電所の炉心溶融事故に伴っておこ りうる現象でもあり,最 悪の場合,圧力容器の破壊に至る可能性もあるとさ れ,実験を含め詳しく研究されて います.
 (01/06/03)

津久井雅志(千葉大学・理学部・地球科学科) --


Question #3729
Q 18年ほど前に鹿児島大学を卒業した者です。
先日、久しぶりに鹿児島を訪れ、桜島の湯之平展望台から錦江湾を眺めたのですが、錦江湾の北部(湾奥部)の姶良カルデラだけでなく、南部(湾口部方向)にいくつかのカルデラが連なっているように見えました。ひょっとして、錦江湾は、姶良カルデラだけでなく、複数のカルデラからできているのですか?そうだとすると、錦江湾では「火山生成→大爆発→カルデラ形成」を何度も繰り返しているのですか? (12/29/02)

C57/BL6J:地方公務員:42

A
 桜島湯之平展望台からのすばらしい景色は,雄大なことを考えさせてくれますね. さて,カルデラと鹿児島湾の関係を考えると,現在のところ,鹿児島湾域では,湾奥 部の姶良カルデラと湾口部の阿多カルデラ(池田カルデラを含む)以外にカルデラの 存在を示す証拠は見つかっていません.したがって,カルデラが南北に連なって鹿児 島湾ができているのではなさそうです.それでは,それ以外の部分はどのようにして できたのでしょうか?それには,鹿児島湾の北の延長上に周囲より低いところが加久 藤盆地(カルデラ),人吉盆地へと連なっていることと関連がありそうです.鹿児島 県の本土の中央部を南北に貫く,この低まりを鹿児島地溝といいます.地溝はその両 側を境する断層の動きによって周りより相対的に低くなってしまったものをいいま す.鹿児島湾のカルデラでない部分は,断層で落ち込んだ鹿児島地溝の一部と考えら れています.鹿児島地溝がなぜそこにあるのかは,よくわかっていません.なお,姶 良カルデラと阿多カルデラは,それぞれ1回の巨大噴火で作られたものではなく, 「巨大噴火→カルデラ形成」を何度も繰り返して現在のような姿ができあがっている ことが知られています.
 鹿児島湾のことについて興味を持たれたのであれば,大木公彦さんの書かれた「鹿 児島湾の謎を追って」鹿児島文庫61,春苑堂出版(ISBN4-915093-68-9)を読まれる ことをお薦めします.  (01/10/03)

井村隆介(鹿児島大学・理学部・地球環境科学科)


Question #3718
Q 火山が人間のために役立つものとして湧水があるということを聞いたことがありますが、伊豆大島でも使われているのでしょうか?またいつ頃から使われ始めたのでしょうか? (12/22/02)

なっつ:学生:18

A 火山噴出物は水を通しやすく,伊豆大島のような比較的新しい火山島だと,常 に水がある川はごく稀で,すぐにしみ込んで,火山体内部には大量の水が蓄え られます.浸透した水は地下の細かい火山灰層などの不透水層の上に溜まり, 溶岩流の下部クリンカーや,降下スコリア層などのすき間が多い層から湧水と してわき出しています.また火山島に限らず海に浮かぶ島によく見られます が,地下に浸透した天水は淡水のため,同じく地下に浸透したより密度の大き な海水の上に浮かぶように存在します.この淡水層の断面形状は凸レンズ状の 形状になるため,数式モデルを提出した人の名前をとってガイベン・ヘルツベ ルグレンズ(G・Hレンズ)と呼ばれます.このG・Hレンズは海水準近くで地表と 交差しますから,島では海岸付近に湧水があることが多いです.伊豆大島では 比較的古い山体が露出する,北東から東の海食崖の途中や崖下付近に多くの湧 水があります.北東部には“泉津”という地名もありますね.この他野増近く に“カッパの池”があります.G・Hレンズからの湧水としては波浮港に海底湧 水があることが知られています

さて伊豆大島は若い火山で,降水はすぐにしみ込んでしまうため,よほどの大 雨の時以外ではほとんど地表水はありません.そのため昔はもっぱら雨水を溜 めて飲料水に使っていたほか,G・Hレンズがつくる淡水層を井戸を掘って利用 していたそうです.雨水利用はとても安定した水資源とは言えませんし,井戸 の方も大量に水を使用する夏季に汲み上げ量が増えると,G・Hレンズに海水が 混入するようになって,少ししょっぱい水になっていたそうです.正確にいつ からかは失念しましたが,現在では,井戸のほかに東の海食崖のフノーの滝の 水を大々的に利用するようになりました.フノーの滝の水源は谷の途中の成層 した湖成層の下からわき出す湧水です.おそらく古い筆島火山とその西側に成 長した伊豆大島火山の間につくられた凹地,または古いカルデラ構造が埋もれ ていて,それが地下水を涵養しているのだろうと考えられます.フノーの滝を 水源にしてから,水不足はほとんど起こらなくなったそうです.伊豆大島の場 合,湧水の大規模な利用は比較的最近ですが,安定した水資源として湧水は非 常に大切なものです.

なお,伊豆大島には縄文早期からの人類遺跡が発見されていますが,それらは 泉津や野増など,噴火の影響を受けにくく,湧水がある場所に多いように見え ます.縄文人たちもいつでも水が得られる,湧水が近い場所を選んで住んでい たのかもしれませんね.
 (12/25/02)

川辺禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)


Question #3717
Q 火山と植生について質問させて下さい。夏に、伊豆大島の裏砂漠に行ったのですが、霧のようなものがでていましたがあれは火山ガスなのでしょうか?火山ガスと植生にはなにか関係があるのでしょうか?また、玄武岩質と植生についての関係もなにかあるのでしょうか?よろしくお願いします。 (12/22/02)

なっつ:学生:18

A 現在伊豆大島三原山の山頂火口からはほとんど火山ガスは出ていません.いく つか噴気孔はありますが量的ごくわずかです.伊豆大島に限らず,夏の伊豆諸 島では山頂近くは雲がかかっていることが多く,ガスで視界が遮られる日が続 くことがしょっちゅうおこります.のどが痛くなったり,卵が腐ったようなに おいがしなかったのであれば,まず間違いなく普通の霧や雲だと思います.な お霧が出ると目標物がない裏砂漠では道に迷ってしまいがちです.気をつけて くださいね.

植物の専門ではないので,玄武岩地帯に特有の植生があるのかについてはよく わかりません.ただ火山ガスの影響を受けている三宅島をみても,もともと現 地性の植物は,比較的火山ガスに強いものが多く,人間が持ち込んだスギやク ロマツは大きな影響を受けているようです.伊豆大島の裏砂漠は,噴火で降り 積もったスコリアや火山灰で植生がまず破壊され,その後のマグマ後退期に放 出される二酸化硫黄などの火山ガスの影響で植生の回復がさらに遅れることに よるようです.伊豆大島のいわゆる砂漠の分布は,三原山の東北東側と南西側 に延びていますが,これは伊豆大島の卓越風の方向と一致します.風で火山ガ スが流され酸性に弱い植物は定着できず,さらに地表のスコリアや火山灰が風 で移動することで植物が定着しにくいためと考えられます.なお,1986年噴火 のあと,火山ガスの放出はこれまでの噴火より早く終わったため,伊豆大島カ ルデラ内の植生はより早く回復しているようです.
 (12/25/02)

川辺禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) --


Question #3501
Q 火山砕屑物、特に火山灰の成因について教えて下さい。

(1) 一般的に火山砕屑物はマグマの飛沫と考えて良いのでしょうか? (←固結する以前のマグマの飛沫が空気中に放出され、それが空気と触れて固体となった物である?) それとも、マグマだまりや火道で既に固体となった物が放出されているのでしょうか?
どちらか一方の成因によるのか、それとも両方ともの成因があるのか教えて下さい。
(2) 火山灰は主にマグマの発砲によってできるとのことですが、そうであればマグマの表面(空気に触れているところ)で、発砲によりマグマの微少な飛沫が形成される所でだけで火山灰は誕生しているのでしょうか? それとも、マグマの中に既に含まれていた固体成分が火山灰になることがあるのでしょうか?

(11/21/02)

青葉マーク:公務員:45

A 火山砕屑物(かざんさいせつぶつ)とは、独立した火山岩の粒子(大きさによ って、火山灰、火山礫、火山岩塊と呼びます)のことで、それが集まって堆積 したものをさすこともあります。これには、直接マグマから飛び散ってきたも のの他に、一旦固まってからくだけたものもあります。さらに火口周辺の古い 岩石がくだけてできる場合もあります。後者は、直接火山活動と関係のない、 土石流や山体崩壊による岩なだれ(岩屑なだれ)などの運搬によって生産され ることもあります。火山砕屑物は成因を含んだ言葉ではありません。

例えば、水蒸気爆発では、古い溶岩が細かくくだけて火山灰や火山岩塊とな り、火口から勢い良く放出されます。また、雲仙普賢岳の火砕流では、火口で 一旦固まった溶岩が崩れて粉々になった火山砕屑物が流れ下りました。

火山灰は火山砕屑物の一部ですから成因を含んだ言葉ではありません。大きさ が2ミリメートル以下の粒子です。上のどの過程によってもできます。マグマ が発泡して泡が弾けたときや、まだスポンジ状の軽石が噴煙中でぶつかって壊 れて生産されるのももちろん火山灰です。
 (11/23/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3497
Q マグマに中には、なぜスコリア、火山灰などが、入っているんですか?それに、カルデラができて、湖が、できるというのですが、カルデラは、マグマみたいに熱くないんですか?もし熱いなら、なぜ湖ができるのですか?蒸発してしまって、湖ができないんじゃないでしょうか? (11/21/02)

小学6年生:なし:12

A マグマは高温でドロドロにとけたものをさします。スコリアや火山灰というの は、マグマが噴火の時に冷えて固まってできたもので、その形、色、大きさな どのとくちょうからそのようによばれます。

スコリアとは泡だった黒っぽいものです。白っぽい色のときは軽石(かるい し)とよばれます。それらがくだけて、こなごなになれば火山灰になります。 火山灰は別の原因でもできます(下の回答を参考にして下さい)。

カルデラができるにはいろいろな原因があります。地下にあったたくさんのマ グマが一度になくなったために、地面が落っこちてできることや、山が大きく くずれたり、噴火のときに火口付近がはでにふき飛ばされたりしてできること があります。カルデラの中にいつも湖ができるわけではありません。うまく水 がせき止められるとカルデラ湖ができます。

ふつうマグマがたまっているのは地下数キロメートルから十キロメートルの深 さですから、地上にはその熱がほとんど伝わってきません。カルデラができる ときに地上に噴出(ふんしゅつ)した溶岩や堆積物(たいせきぶつ)がまだ熱 いときには、水が蒸発して湖ができにくいこともあるかもしれません。高温の 火山ガスが吹き出しているところがあればその周辺だけちょっとだけあったか いかもしれません。大きなカルデラ湖ができるのは噴火からずいぶん時間がた っていることが多いので水は熱くないのがふつうです。でも、火山がふたたび 活発になってマグマが上昇してくれば、水が部分的にあたためられたり、蒸発 することもあるでしょう。
 (11/23/02)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3484
Q 宮城県玉造郡の荒雄山は、地形図で見るとどう考えてもカルデラか、クレータのように見えます。また周辺には沢山の温泉があることからもどちらかと思うのですがいかがでしょうか。また北海道の赤井川はカルデラではないかという質問が出ていますが、クレータの可能性はないのでしょうか? (11/20/02)

保坂 文隆:技師:49

A まず,ご質問中の「クレータ」とはどのような意味で使われているのでしょう ?日本語でクレーターと言う場合には,一般に成因と関係なく円形の凹地形を 示します。その大きさは様々です。火山噴火でできた場合には火山性クレータ ー,隕石衝突でできた場合には衝突クレーターなどと呼ばれます。月や惑星の 地形に対してよく用いられる言葉ですが,地球の地形に対しても用いられてい ます。一方,カルデラというのは大きな火山性の凹地形のことです。「火口」 は火山性の凹地でもカルデラより小さいものを指し,その英訳もcrater(クレ ーター)です。ですから,ご質問の中のクレータという言葉をどのような意味 で使われているかがわからないと,残念ながらカルデラなのかクレーターなの かという質問へは答えようがありません。

さて,ご質問のカルデラかクレータに見えるという「宮城県玉造郡の荒雄山」 というのは,荒雄岳を中心とした直径約10kmの凹地形のことかと思います。こ れはまさしくカルデラです。鬼首カルデラと呼ばれており,ここから噴出した 火砕流も確認されています。関連する質問が#2579にもありますので,ご覧く ださい。
 (11/21/02)

大場 司(東北大学・理学部・地球物質科学科) --


Question #3464
Q 典型的な鳥弧・海溝系地形であるアリューシャン列島、千島列島、日本列島などの形状は、潜り込む太平洋プレートに向かって凸の形状になっているように見えますが、これは単なる偶然なのでしょうか?理由があるとすれば何なのでしょうか? (11/20/02)

19歳 学生:学生:19

A 島弧がなぜ弓なり(弧状)なのかという疑問は誰もが持つと思います.私は岩 石学をやっていて,地球物理学には疎いのですが,深尾良夫氏の「地震・プレ ート・陸と海 地学入門」(岩波ジュニア新書92, 2000年)の165頁に「島弧 はなぜ弓なりか」という節があり,「ピンポン玉ペコペコモデル」という面白 い考え方が述べられているのをみつけたので,これをザッと紹介することにし ます.学生さんは是非このような一般向けの本を何冊も通読して下さい.

島弧―海溝系は海洋プレートが沈み込む場所ですが,地球の表層を覆うプレー トが地球内部に向かって凹んでいる場所と見ることもできます.しかし,プレ ートは平板ではなく,地球を覆う球形の殻ですから,ちょうどピンポン玉のよ うなものです.ピンポン玉を2つに切り割って半球形の「プレート」(太平洋 プレートだと思って下さい)を作り,その切断部を指で内側に曲げ(沈み込ま せ)ようとすると,どうしても凹みの周囲が円弧の形になります.プレートの 縁全体を沈み込ませようとすると,円弧が連なったペコペコの形になります (西太平洋の状態).ただし,島弧の中にはトンガ弧やニューヘブリデス弧, アンデス弧中部などのようにほとんど直線に近い場合もあり,必ず円弧になる というわけではありませんが,一般的にはこの考え方(ペコペコモデル)で説 明できそうです.プレートが平板でなく,湾曲した板であるため,これを内側 に曲げると必然的にその縁が弧状になるということだと思います.

これとは別の考え方もできます.沈み込み帯は地下700kmに達する大断層で, 巨大な「地球の切れ目」です.例えばミカンを地球に見立て,表面からナイフ で適当な角度で切れ目を入れると,ナイフを垂直に立てた場合以外はミカンの 表面に表れる切れ目の形が弧状になります.これはプレート論が広まる以前か らあった考えですが,弧状になる原因はやはり地球が丸いためです.

しかし,インドネシアのバンダ弧のように極端に湾曲した島弧の場合は,指で 凹ませたり平面的なナイフで切り込むモデルだけでは説明できません.ウェー ゲナーが「大陸と海洋の起源―大陸移動説」(都城・紫藤訳,岩波文庫)の上 巻181-191頁で述べているように,オーストラリア大陸の北西への移動によっ て,もともと緩いカーブを描いていた島弧が押し曲げられてヘアピン型になっ たという考えに説得力があります.
 (11/21/02)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


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