火山についてのQ&A集

Question #3922
Q タイの、日本人学校が無い地域で、日本語保持の家庭教師を頼まれている主婦です。自分の専門は社会学なのですが、やむをえず、地理なども教えています。本日、中一の男の子と九州の地理を概観していたら、「火山じゃない山の、泉の水を沸かしても、温泉と一緒なの?」と質問されてしまい、「うわ〜そうだよね〜どうなのかな〜」と、一緒に考え込んでしまいました。ご教示いただけたら幸いです。 (03/28/03)

高原早苗:主婦:40

A
 ご質問のように泉の水を温めると温泉と同じだといえる場合もあります.温 泉の起源はもともと地下水なので,地下にしみこんだ雨水が火山の熱で温めら れて温泉ができる場合があるのです.そのような温泉水は泉と同じような成分 を持っています.火山でなくとも地下は深い場所で温度が高いので,非常に深 い穴を掘ると火山でなくとも温泉が出てくることはあります.
 しかし,多くの場合地下水は火山から熱だけでなく物質も受け取ります.受 け取る物質の成分としては,Cl-(塩化物イオン),SO4--(硫酸イオン), HCO3-(炭酸水素イオン)などです.また熱をもらって温度が上がると,周囲 の岩石と水が反応して,陽イオンや鉱物成分(Na+,K+,Mg+,Ca++,Fe++, Al+++,SiO2)が温泉水に溶け出してきます.そこで温泉水は単純な泉に比べ て一般に溶けている成分の濃度が高いといえます.
 (4/07/03)

大場 武(東京工業大学・火山流体研究センター)


Question #3915
Q ここのページで火山に興味を持ち、色々な所のホームページを見ていてふと疑問に
思ったのですが、各々の火山の噴火履歴に大噴火の時と普通に噴火と記されて
いる時が有りますが、何をもって大噴火とするのかという定義みたいな物は
有るのですか? (03/18/03)

シゲ:会社員:29

A 火山噴火の規模を表現する方法があります。例えば、一回の噴火(爆発)で放 出される火山灰や溶岩の量を基準にしており、これはその噴火で放出される熱 エ ネルギーの量に対応しています。それによると大規模噴火というのは1回 の噴火でおよそ1億立方mの噴出物量のあるもので、中規模噴火というのはお よそ1 億〜百万立方mの噴出量のある噴火です。それいかは小規模噴火です。 しかし、火山ごとに数多くある噴火のうち、特に規模が大きい場合に大噴火と いうこと があります。ホームページに記述されている大噴火では、これらを 混同して使っていると思います。さらに、新聞やテレビ報道などで使われる 「大噴火」は規 模よりも社会的なインパクトや印象を重視して大噴火と表現 されていることが多いと思います。
 (03/18/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3908
Q 地球誕生から40億年近く経過しているのになぜ地下のマグマは冷えないのでしょうか?素朴な疑問なんですが素人には分かりません。ご教授願いたいと思いメールしました。 (03/11/03)

ゴア:教師:43

A 19世紀の後半に,有名な物理学者であるイギリスのケルビン卿は,地球内部から出て くる熱流の 計測結果をもとにして地球の年齢を計算しました.地球が最初はどろどろにとけた火 の玉であった として,現在のような固体の地表と熱流量の計測値を満たすように冷えるのには,ど のくらいの 時間経過が必要かを見積もったわけです.

その結果は,地球の年齢は2000万年〜4000万年というものでした. 何故彼が誤った答えを出してしまったかというと,彼は放射能による発熱のことを考 慮していなかった からです.地球の内部にはウラニウム,トリウム,カリウムといった放射性元素が存 在しています. これらの半減期は,核種ごとに違うものの数億年から100億年以上と非常に長いので ,現在でも まだ地球内部では放射壊変による熱が生産されており,これが地球の冷えるのを遅ら せています.

関連する内容として,左側のコラムの 「トピック項目表示」に入って,「 マグマとマグマ溜まり:熱源」の項目がありますので,こちらもご覧ください.

(05/05/03)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)


Question #3878
Q 花こう岩が貫入して接している泥岩などは接触変成岩になることを習いました。そのとき貫入岩体としての花こう岩の中心付近はゆっくり冷えるので、花こう岩になるとは思いますが、泥岩と接している貫入岩体の部分は、急冷されるので流紋岩になるのでしょうか?それとも、花こう岩は底盤として存在するので、その場所の地温が高くて接しているところは急冷されず、ゆっくり冷やされて花こう岩になるのでしょうか。 (02/21/03)

うみぞう:高校生:17

A
 これは花崗岩体のサイズにもよりますが,接触変成帯があまり発達しない小さな岩 体の場合でも噴出岩(火山岩)の典型的な「流紋岩」と全く同じような岩石にはなり ません.流紋岩は一般に石英や長石の「斑晶」がガラス質または微晶質の「石基」に 埋まっている組織をしていますが,花崗岩体の周縁相は石基の結晶がかなり成長して いたり,全体が細粒結晶の集合体になっていたりすることが多く,「流紋」(流れの 模様)も見られません.接触変成帯が発達する大きな花崗岩体の場合は,周縁の境界 近くまで粗粒な花崗岩のことが多いですが,周縁部では「アプライト」や「グラノフ ァイアー(文象斑岩)」といった白色細粒な岩石の岩脈が粗粒な花崗岩や周囲の母岩 の中に貫入していることがよくあります.特に花崗岩体が石灰岩に貫入した部分では こうした岩脈が多く,境界部付近には珪灰石,灰鉄輝石,ベスブ石などの鉱物や銅・ 亜鉛・鉄などの鉱石が形成されていることがあります(「スカルン鉱床」).日本国 内は至るところに花崗岩体があるので,是非近くの露頭に行って,実際に花崗岩体の 周縁部がどうなっているのか,ご自分で観察されることをお勧めします.関東なら丹 沢山地や甲府盆地周辺,関西なら京都東山や六甲山周辺に見所がたくさんあります.
 (02/22/03)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


Question #3875
Q 溶岩の速さは、どのくらいなのですか?噴火のしかたで速さは、違うんですか?また、そのときの平均とかはどのくらいなのですか?あとマグマとか溶岩の温度を教えてください! (02/20/03)

川瀬里奈:小学生:12

A
 例えば、丸善から出版されている理科年表をみてみると、実測された溶岩の温度は 摂氏で約850から1200度程度までです。マグマとは地下にある状態ですから、冷えて おらずさらに高温であると考えられます。例えば、月の表面を作っている溶岩を実験 室で溶かすと約1400度でさらさらのマグマの状態となります。溶岩の流れる平均の速 さがどれだけかと言うことは簡単には言えません。その速さは溶岩の粘り気と斜面の 傾斜に大きく左右されます。火口を出た瞬間は時速数十キロメートルで流れていたも のでも、冷えて粘り気が増えるほど遅くなり、ついには止まります。アフリカの玄武 岩火山では流れる溶岩から車でも逃げるのが難しかったと言われています。ここでは 時速60km以上にもなったのでしょう。粘り気のある流紋岩などでは1日でも最高 でも数10mしか前進しないこともあります。
 (02/22/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター) --


Question #3859
Q なぜマグマは出来たのですが?地球が出来たのはビックバンが原因ってことはマグマもビックバンが原因なのでしょうか?
それからいつ出来たのか?何のために出来たのか?も教えてください。
あと、なぜマグマは何年経っても冷えないのかも教えてください。 (02/13/03)

☆おちょめ☆:中学生:15

A 回答が遅くなってごめんなさい. それにしても,ビックバンとの関連性とは壮大な話ですね. 時間や空間や物質のすべての源が約140億年前におこったビックバンであるという点 から言えば, マグマとビックバンも無関係とは言えないでしょうが,現在のマグマとの直接の関係 はありません.

いただいた質問には,大事な点が2つ含まれています.一つは物体が冷えるスピードは なにで決まるかということ,もう一つはマグマがどうやってできるかということです.

物体が冷えるためには,熱を逃がさなくてはなりません.この場合,表面積に比例して 熱が逃げていきます.一方,物体が持つ熱の総量は物体の体積に比例するので, 大きな物体ほどたくさんの熱を持っていることになります. ところで,物体表面積は物体のサイズの2乗に,体積はサイズの3乗に比例しますか ら, 結局のところ,大きな物体ほど冷めにくいということになります. カップに少し入れたお茶はすぐに冷めてしまうけれど,なみなみと注げばなかなか冷 めないということを 思い出してください.マグマの場合も同じことです. 地表に流れ出た厚さ数メートルの溶岩はすぐに冷え固まってしまいますが, 火山の地下にある直径数kmのマグマ溜まりが冷え固まるには数十万年が必要です.

次に,マグマがどうやってできるのか. マグマは岩石がとけてできたものです.ではどのような場合にとけるかというと, (1)温度が上がった場合,(2)圧力が下がった場合,(3)融けやすい別の物質 が混ざった場合,です. 「圧力が下がった場合」というのは少しわかりにくいかもしれませんが,たいていの 物質では 物質のとける温度は圧力が高いほど高くなっていきます.例えば岩石の場合も地下 100km(圧力3万気圧)で 1200度では岩石は固体のままですが,その温度を保ったまま大気圧下に持ってくると どろどろにとけてしまいます.

地球の46億年の歴史のなかでは地球のどこかでは常にマグマが存在しています. 地球ができる際には幾つもの微惑星が地表に降り注ぎました.この時には衝突のエネ ルギーで 地表には煮えたぎるマグマの池やマグマの海ができたと考えられています.これは( 1)のケースです. 一方,現在の地球でのマグマのでき方を考える場合に重要となるのはおもに上記の( 2)と(3)の場合です. マグマができる場所は主として,海嶺,ホットスポット,沈み込み帯の3カ所ですが ,海嶺とホットスポットの場合には(2)の圧力低下がマグマのできる主要な原因で す.これに対し,日本のような沈み込み帯の火山の場合には, 沈み込むプレートによってマントル内に水が供給されて,この水の存在によって岩石 の融点が下がることも重要なので (3)もマグマの生成に効いてきます. 地球はとてもゆっくりしか冷えないので,現在の地球の表面温度は20度くらいですが, 今でも地下深くではでは温度が1000度を越えています.でも地下深い所すべてがどろ どろに とけたマグマになっているわけではありません.外核と呼ばれる深さ2900kmから 5100kmの領域を除けば 地球の内部はほとんど固体です.ではどうしてマグマが作られるかというと, マントル対流やプルーム活動によって固体状態の地球の中の方の岩石が地表近くに上 がってきた際に 圧力が低くなることが効いて岩石が融けてしまい新たにマグマが作られるのです. マントル対流やプルーム活動は地球内部の熱を効率よく外に放出するための しくみです.だから地球の内部が十分に熱いうちはマントル対流やプルーム活動が起 きて, それに伴って次々とマグマも作られ続けていくのです. (Mar-07/2003)

安田 敦(東京大学・地震研究所・地球ダイナミクス)


Question #3842
Q はじめまして、私は会社で地盤調査、地質調査を担当している者ですが、火山地形の中に、火山斜面、溶岩流地形、火山山麓扇状地と3つありますが具体的にどんな地形なのかを教えて下さい。 (02/09/03)

AC:会社員:23

A はじめまして。
 土木・建設業界では,学術的に定義されていない用語をその場の雰囲気で安易に使 う傾向があり,ACさんも同じギョーカイの方なので,ひょっとしてギョーカイ内に出 回っている報告書や文章をそのままお読みになって質問しているのでは?!とちょっと 危惧します。 「火山斜面」という言葉をいろいろ探してみましたが,明確に定義しているものはは く,「火山斜面」という用語を用いている文献は見渡す限り「国土地理院発行,火山 土地条件図」だけみたいです。さらに,同じ火山土地条件図でも「火山斜面」という 用語を用いているものとそうでないものがありました(他にあったら教えてくださ い) 。
 火山土地条件図で「火山斜面」という用語を用いているものでは「1/50,000火山土 地条件図 十勝岳」があります。この「火山土地条件図 十勝岳」では,溶岩流や火 砕流など,地形の成因が明らかなものに対して「溶岩流地形」,「火砕流地形」な ど, 地形の成因がわかるように名称を与え,それ以外の成因ははっきりしないが, 明らかに火山活動によって形成されたと判断できる開析段階の火山体斜面を「火山斜 面」として取り扱っているようです。
 ですから,「溶岩流地形」は,溶岩流が流下することによってできた地形のこと で, 溶岩じわ,溶岩堤防,溶岩側端崖,溶岩末端崖などの微地形が,航空写真判読 や現地 調査で明瞭にわかるものを指しています。
 火山山麓扇状地は,火山体の浸食により供給された物質が火山のすそ野に扇状に堆 積してできた地形のことを指します。ちなみにギョーカイでは,火山の谷出口付近に 存在する扇状の平滑面で平均勾配1〜14°程度の地形のことを指していることが多い ように見受けられます。
 せっかくの機会ですので,ギョーカイ用語ではなく正しい火山用語を勉強されては いかがでしょうか?以下の本が大変わかりやすく,私も時々使っています。


 守屋以智雄(1983) 日本の火山地形.東京大学出版会
 守屋以智雄(1992) 自然景観の読み方1 火山を読む 岩波書店
 日本火山学会(1984) 空中写真による日本の火山地形


 (04/28/03)

伊藤英之 (砂防・地すべり技術センター総合防災部)


Question #3822
Q 地元に、熊野酸性岩体があります。
その近くには、橋杭岩という、石英安山岩(だと思われる)でできている岩脈があります。
おそらく、その岩脈は奈良の方まで続いていると考えたのですが、いかがなものでしょうか。
それに加え、その近傍には、潮岬複合岩体という塩基性岩が産出しています。2つの関係はどうなっているのでしょうか?
よろしくお願いします。 (02/05/03)

早く帰省したい…:学生:23

A 良いところにふるさとをお持ちですね.おっしゃっている橋杭岩の岩脈は熊野酸性岩 という名前の巨大な火成岩体と良く似た岩石からなっていますので一連の火山活動の 産物と考えることができます.

さてこの橋杭岩というのはその名のとおり,紀伊半島から紀伊大島にわたす橋の杭の ように見えます.つまり,ほぼ南北方向に伸びていて,そこだけ堅いので周囲の軟質 の堆積岩の波食台上にそびえているわけです.何作目かの「必殺仕置人」のバックタ イトルにもなって全国区の知名度がありますよね.北は,奈良県まで?というご質問 ですが,橋杭岩を作る岩脈自体はそんなには伸びていません.せいぜい1kmくらい でなくなってしまいます.でも,同じ南北方向の似たような大きさの岩脈は10本以 上あって,かれこれ20kmくらい北の古座川町笠置山のあたりまで散在していま す.さらにその北,和歌山県本宮町から奈良県天川村に至る南北の細長い地域には比 較的近い時代の大峯酸性岩という火成岩体がとぎれとぎれに分布しています.その意 味から,似たような火山活動がこの南北に伸びた地域で,約1500万年前ころに起 こっていたことが判っています.ちょうど紀伊半島のど真ん中にこんな帯状の火山活 動地域があったということは何を意味しているのか,興味深い問題ですね.

さて,橋杭岩から南に目を転じて,紀伊大島にもあるかということですが,紀伊大島 と潮岬には,潮岬火成複合岩体という,これまた似たような時代の火成岩があるので す.玄武岩やはんれい岩に加えてカリ長石を持たない花崗岩質岩石や流紋岩からなり ます.この潮岬火成複合岩類は,熊野酸性岩や大峯酸性岩とはずいぶん性格が違って いるためにそれらとは区別されています.ただし,大島の昔の船着き場の北にある権 現島は,橋杭岩の延長です.弘法大師も実は大島に橋の杭を作ることには成功してい たんですね.そのほか,最近の研究によれば,紀伊大島と潮岬には,そのほかにも熊 野酸性岩と似た性格(カリ長石を含むなど)の岩石がかなりあることが発見されつつ あります.
 (02/24/03)

三宅康幸(信州大学・理学部・地質科学教室) --


Question #3766
Q
 はじめまして。

 近頃、小笠原父島へ旅行をし、うぐいす砂を見たんですが、それがボニナイトという岩石だということを知りました。興味を持っていろいろ調べているうちに、50kmはなれた母島とは成因や構成する岩石が違うこともわかりました。父島と母島は近いにもかかわらず、どうして違う岩石が産出しているのでしょうか?

 加えて、母島から西にある、母島海山(小笠原古陸とも言うようですが)についても興味が出てきました。どうやら、塩基性岩やそれが変成してできた蛇紋岩で出来ているようですが、いつ頃、どうして出来たのかなど、詳しいことが知りたいと思い、質問させていただきました。できれば両方にお答えいただけると幸いなのですが、よろしくお願いいたします。 (01/15/03)

らいちゅう:学生:21

A
 小笠原諸島の島々は今から5000-4500万年ほど前の火山フロントで活動した島弧火 山です。父島以北の島嶼(父島列島,聟島列島)は5000万年ほど前の海底火山の集ま りで,少なくとも漸新世(今から3750-2250万年前)以降に隆起して島となりまし た。これらの海底火山は現在の伊豆ー小笠原の火山では産出しない,ボニナイトとい うMgの含有量が高い特殊な安山岩の溶岩でできています。この安山岩には古銅輝石 (斜方輝石の一種)という緑色の鉱物が多く含まれています。そのため,この岩石が 風化浸食を受けると固い古銅輝石だけが残り,やがて波に洗われて古銅輝石が海岸に 集まり,うぐいす砂となります。小笠原のボニナイトには古銅輝石の他に単斜エンス タタイトという乳白色の輝石を含むものがあります。この鉱物は隕石に含まれること がありますが,地球上の岩石ではボニナイトやボニナイトマグマがゆっくりと冷えて できた深成岩にしか産出しない,とても珍しい鉱物です。


 一方,母島は4500万年ほど前の火山島で,現在の伊豆諸島の玄武岩や安山岩とよく 似た岩石でできています。父島以北の海底火山とは活動した時代が違っており,父島 と母島が同時期に活動したという証拠はありません。しかし,母島の南東沖の海底に は父島とよく似たボニナイトの海底火山が見つかっていますから,母島のあたりでも 少し古い時代には同じような火山活動があったと考えられます。また,ほぼ同じ時期 のボニナイトの海底火山は小笠原のはるか南方のマリアナ諸島からも知られていま す。このように父島をはじめとするボニナイトの海底火山活動は,今から5000万年ほ ど前の一時期に小笠原からマリアナにかけての広い範囲で起こった島弧火山活動です が,現在の地球上では知られていません。ボニナイトマグマができるためには,通常 の島弧とは異なる特殊な条件が必要だからです。ボニナイトマグマは,通常の島弧マ グマよりもかなり浅いところで,水を含んだマントルのカンラン岩が溶けてできたと 考えられています。多くの島弧ではマントルの非常に浅い部分は温度が低いために, 溶けてマグマを発生することはありません。ボニナイトマグマが活動した頃の小笠原 の下のマントルは,異常に温度が高かったのです。


 小笠原の500 kmほど西の海底に九州−パラオ海嶺という海底山脈が南北に延びてい てます。その海底山脈と小笠原の間にある海底を四国−パレスベラ海盆と言います が,これは今から3000-1500万年前にプレートが東西に拡大してできた背弧海盆で, ボニナイトマグマが活動した頃にはまだありませんでした。その頃の小笠原は九州− パラオ海嶺とくっついて,火山活動が盛んな島弧の一部でした。この海嶺の西には西 フィリピン海が広がっていますが,その海底も四千数百万年前までプレート拡大を続 けていました。プレートの動きを復元すると,この西フィリピン海プレートの拡大軸 は丁度小笠原のあたりで九州−パラオ海嶺(古島弧)と交差していたらしいのです。 プレート拡大軸の直下ではマントルが湧き上がってきますから,浅いところでも温度 が高くなります。この九州−パラオ古島弧の下に拡大中の海嶺が沈み込んだために, マントルの温度が上がってボニナイトマグマができたという説があります。この沈み 込んだ海嶺は太平洋プレートとその南にあった北ニューギニアプレートの境界であっ たと考えられています。また,丁度今から4500-5000万年ほど前の小笠原のあたりに マントル上昇流があったために,マントルの温度が高かったのだ,という学説もあり ます。


 母島にボニナイトが見られないのは,父島などでボニナイトの火山をつくった後に マントルの温度が下がってしまったためでしょう。
 (01/17/03)

海野 進(静岡大学・理学部・生物地球環境科学科)


Question #3741
Q 大学4年生で卒論を書いているものです。卒論は「富士海岸の海岸浸食対策」という題名なのですが、富士海岸には現在、海岸侵食対策として三重県鳥羽市菅島産のかんらん岩を養浜材料として海に投入しています。その投入されたかんらん岩がどの辺まで、どのくらいの量が、流されていっているのか?を調べているのですが、現在かんらん岩を見分ける方法として 1.まず見た目で黒っぽいものを見分ける。2.比重を計って重いものを(密度が3くらい)見つける。ということをやっているのですが、作業行程1のかんらん岩の見分け方がどうも微妙で、安山岩なども一緒に持ってきてしまいます。なんとか比重を測定しなくても「これかんらん岩だ」と分かる方法はないでしょうか?目で見分けるコツとかあったら教えてください。あと、もしほかに見分ける方法があれば教えてください。勝手な質問ですいません。お願いします。 (01/05/03)

おの やまと:学生:22

A
 面白そうな卒論研究ですね.石の大きさにもよりますが,何m程度沖 までかんらん岩が流されているのか私も興味があります.鳥羽菅島産の岩石を 使っているのは,採石場から目的の海岸まで船で低コストで運 べるからでしょうか.
 さて,かんらん岩を見分ける方法ですが,菅島のかんらん岩は相当蛇紋岩化 しているので,必ずしも水に対する比重が3.0以上とは限りません.ほぼ完全に 蛇紋岩化している場合の比重は2.7程度で,花崗岩や安山岩と同様になります. 比重が3.0以上で黒い石だったら絶対にかんらん岩かというとそうでもなく,菅島 に産する斑れい岩や角閃岩でも,黒くて比重3.0以上のものがあります.しかし, 角閃岩でも斑れい岩でも,菅島から来た岩石であれば,この研究の場合 はかんらん岩と区別できなくても構わないわけで,むしろ富士川上流や周辺の 海岸から自然に流されてきた黒い玄武岩,安山岩,頁岩などから区別できれば, 目的は達せられるわけですね.
 玄武岩や安山岩は斜長石という長方形の白い鉱物を含むことが多く,火山 ガスの発泡による気泡(穴)があることが多いですが,かんらん岩や蛇紋岩 はこれらを含みませんから,斜長石や気泡の有無でだいたい区別 できるでしょう.玄武岩,安山岩,黒色頁岩の比重は普通2.6-2.9程度で,3.0 以上になることはまずありませんから,岩石の鑑定に自信がなければ, とにかく黒い石をたくさん取ってきて,一生懸命比重を計るのが得策でしょう. 海岸でそれぞれの種類の小石を集め,大学の地学関係の先生に直接確認 してもらって,「これは間違いない」という標本セットを作り,それをいつも持 ち歩いて,現場で比べながら判断すると,間違いが少なくなります.
 それから,もう一つ,アッと驚く裏技をお教えしましょう.それは磁石を使う 方法です.ピップエレキバンや黒板貼付用の丸磁石などを細いヒモの先につけ, ヒモの他端を持ってぶら下げた状態で岩石に近づけると,多かれ少なかれ磁石は 岩石に引かれます.これは岩石に磁鉄鉱が入っているためです.蛇紋岩や 蛇紋岩化したかんらん岩は特に磁鉄鉱が多いので,磁石が岩石に吸い付いて逆 さにしても落下しないほど強い磁力を持ちます.新鮮なかんらん岩の磁力は微弱 ですが,そういう物は菅島には稀です.玄武岩や安山岩もかなり磁鉄鉱を含 みますが,蛇紋岩ほど強くはありません.黒い頁岩や砂岩の磁力は,普通は微弱 です.この方法は比重が小さい蛇紋岩にも適用でき,これでかなり区別 できるはずですから,是非試してみて下さい.
 なお,菅島のかんらん岩に関する最近の研究として,「水上知行(2002)ミカブ 帯菅島超苦鉄質岩体の斜方輝石の産状と組成層状構造.岩石鉱物科学,31, 87-96」があるので,是非読んでみて下さい.
 (01/05/03)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) 


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