火山についてのQ&A集

Question #4016
Q 明神カルデラのほぼ上で、海面水温の測定をしました。そしたら、海面水温がほかの場所より海面水温が高かったのですが、カルデラは海面水温に影響を与えるのでしょうか?教えてください。 (06/18/03)

ぺこ:学生」:22

A 場所が間違いなく、明神海丘(概位 32°06′N 139°51′E)であるとして、 1997・1998年に行われた「しんかい2000」による調査(JAMSTEC 深海研 究 第14号 1998)では、カルデラ床(水深約1200m)などにある高さ30mに達 するチムニーから最高温度278℃のブラックスモークが噴出されていることが報告さ れています。 この熱水がそのまま、海面まで上昇すれば、海面水温が高くなるでしょう。しか し、カルデラ床の水深が1200mほどなので、上昇するうちに拡散し、高温の状態で海 面には、達しないと考えられます。 また、明神海丘から南東約15海里にある明神礁にて、当部が1998年に無人測量 艇「マンボウ II」による調査を行いました。その際の測深では、明神礁の最浅部 は、水深50mということがわかり、表面水温の観測では、特に水温が高いという場所 は、ありませんでした。 外海において、局所的に表面水温が高い場所があるようで、今回の質問にある現 象の原因の一つと考えられますが、さらなる検討のためには、観測日時・位置や、周 囲の海水とは、どこを指すのか、何度高かったのかといった情報が必要です。
 (06/24/03)

笹原 昇(海上保安庁・海洋情報部技術・国際課)


Question #4012
Q 先日、一切経山に出かけました。浄土平の名の如く神秘的で現実離れした風景と対象的に中腹の大穴火口の地獄絵のような光景、改めて活火山の魅力を再認識しましたが・・
大穴火口の向こう側に続く火口列を見てみたいという衝動にかられ風もある事だしとほんの数歩火口淵を歩いたところ初めて(硫化水素臭はよく遭遇しますが)二酸化硫黄の臭いを感じ直感的にヤバイと思いすぐルートに戻りました。
火山ガスによる事故も最近結構おきていると思います。もちろん、窪地に行かない、ルートを外れないといった行為がこれらの事故を予防する最低限の方法だと思いますが、私たちのような素人がふいに高濃度の火山ガスを吸い込みそうになってしまった時身を守るためにとるべき行為について(特に布で口を押さえるとしたら濡れていた方が良いのか乾いた方が良いのか)教えて頂けませんでしょうか。よろしくお願いします。 (06/14/03)

アマンタジン:医師:28

A
 質問なさっておられる方が医師でいらっしゃるということで,ご質問の内容につい ては,我々よりもずっと専門家でおられると思います.むしろ,硫化水素ガスや二酸 化炭素ガスによる「ガス中毒対策」ということで,「救命救急法」の一つとして,我 々にご教示いただけるとありがたい事項です.
 我々の立場からしますと,先ず,一番大切,かつ有効なことは,「不意に高濃度の ガスを吸いそうになる」状況こそを作らないようにすることです.ガスは見えません し,多くの場合,嗅覚も危険度のあてになりません.有毒ガスに関しても,「君子危 うきに近寄らず」というのは生物である限り絶対的に必要なことでしょう.登山をな されるときに,天気やルートを予め確認されるはずですが,噴気情報などでもインタ ーネットや,地域(宿泊施設を含む)に配布した防災マップなどでもかなり手軽に入 手できるようになってきていますので,そういうチェックを,持ち物チェックと同様 に行う事を啓蒙する必要があるでしょう.さらに,行政なども二重三重の防災対策を し,危険を回避するしかないと思います.万一,ご質問のような事態に遭遇しても, 多くの方の場合,「遭遇していること」自体にに気がつかない,あるいはにおいが気 になっても,危険濃度でないと思ってしまったまま,重大な事態に至ってしまうのが 実際だとおもいます.
 大きな事故に至る火山ガス災害例では,ご案内のように,窪地,あるいは凹地にガ スが滞留している状況の下,気がつかずに浸入し,事故に遭遇する場合が非常に多い です.1997年,安達太良火山のガス事故の現地では,数mの距離内でガス濃度が急激 に変化していました.ですから,あえて危険な状況下で登山を行う場合,ガス発生源 に直接つながる窪地や谷沿い,特に,空気よりやや思いガスが貯まりやすい地形のと ころを避けることです.ガスが希釈される,空気の通りの良いところ,あるいはガス 発生源の風上側などを選んで通過するしかありません.いったん,危険個所に踏み込 まれてしまった場合,ガス事故の場合,救助しようとして二重遭難に至ってしまうケ ースがかなり多いようです.
 ご質問の答えにはなっておりませんが,関連コメントとしてお受け取りいただける と幸いです.
 (06/23/03)

藤縄明彦(茨城大学・理学部・地球生命環境科学科) --


Question #3999
Q 一般的な地温勾配を超えるような温度の温泉の起源や分類について調べていてふと思ったのですが,深層熱水によるもの以外の温泉について,一般に「火山性」,「非火山性」等と分けますけれど,「非火山性」といっても何かしら地下に熱源がないと発生しないし,熱源といってもマグマくらいしかないでしょうから,火山性にしても非火山性にしても,どっちもマグマ起源なのではなのかな?,と思い始めたら,火山性,非火山性という区分は,何なのだろうか???と,なんだか混乱してきてしまいました。
「非火山性」とは,何なのでしょう???
ただ時代の区分だけ?なのでしょうか??
マグマ以外の熱源って,あるのでしょうか???
もし,熱源がマグマしかないのであれば,深層熱水以外にこの先発生する温泉は,全て「火山性」ですよね・・・・ (06/06/03)

りょん:会社員:35

A
 地殻内部の高温領域の熱源としては,「生きているマグマ」と「死んだマグマ」が 考えられます.「生きているマグマ」とは溶融した部分を含む高温領域です.「死ん だマグマ」はかつては生きていたが,時間が経って冷えたために殆ど溶けた部分が無 くなった高温領域です.マグマは固化するとマグマと呼ばれなくなるので,「死んだ マグマ」という表現は妥当ではないかもしれません.(注:この「生きているマグ マ」,「死んだマグマ」という言葉は私がこの場のみで使用している語句で日本の火 山学において普遍的に使用されているわけではありません)
 マグマの寿命は,一般的には数十万年程度と考えられています.この寿命の後は 「死んだマグマ」なるわけですが,まだ十分に熱を持っています.これが完全に冷え 切り熱異常のない領域になるまでにはさらに時間が必要で,おそらく数100万年以 上は必要と思われます.日本には多くの火山があります.第四紀(約160万年前から 現在まで)の火山の熱源による温泉水は「火山性」と分類されるでしょう.しかしそ れ以外の温泉は「非火山性」と分類されているのかも知れません.(注:「火山性」 と「非火山性」の分類も確かな判定基準があるわけではなく,研究者の判断によりま す.活火山に関係していない温泉水を「非火山性」としているのではないでしょう か?)「非火山性」と分類された温泉水の熱源が古い火山の「死んだマグマ」に由来 する可能性は十分にあると思います.
 マグマには「生きているマグマ」と「死んだマグマ」の他に発生して間もないため に火山を作っていない「あかちゃんマグマ」も考えられます.有馬温泉という有名な 温泉がありますが,この温泉水のH2Oの同位体比は典型的なマグマ起源のH2Oの特徴を 示しています.有馬周辺には第三紀火山岩類が分布していますが,これが現在の温泉 水に含まれるであろうマグマ性H2Oの起源になっているとは考え難いと思われていま す.そこで,仮説ですが,有馬温泉の下には見つかっていないマグマがあるのではな いかと考えている研究者もいるようです.
 以上をまとめますと,「非火山性」温泉水の熱源として,「死んだマグマ」と「あ かちゃんマグマ」が可能性として考えられます.
 (06/09/03)

大場武(東京工業大学・火山流体研究センター )


Question #3997
Q 下北半島に縫道石山(標高626m)という、ごつごつした岩山があります。石英安山岩とか、デイサイトととかで出来ていると聞きました。岩の小さな隙間や穴などに綺麗な水晶の結晶が見えます。どのようにして、この奇怪な山が出来たのか、素人にも分かりやすく説明して戴けないでしょうか。また、この山頂の南西約900mにコの字型をした小さな岩山(地元ではババ岩と呼ばれている標高424mの峰)があります。こちらのほうは、ごつごつしていませんが、恐竜の背中みたいで急峻です。この小さな岩山と縫道石山との間に何か関係があるのでしょうか。縫道石山はアメリカのワイオミング州にあるデビルスタワーの形にもどこか似ていますが、山のできかたに似たものがあるのでしょうか。 (06/06/03)

空想好きな地元のハイカー:会社員:51

A
 縫道石山はとても印象的な姿をした岩山ですね。私自身は残念ながら登ったことが なく遠望しただけですが、空想好きな地元のハイカーさんはよく登られるのでしょう か。
 さて,これまでの研究によると縫道石山を作っている岩石はおっしゃる通りのデイ サイト(石英安山岩も同じ種類の岩石をさす用語ですが,最近はあまり使われません )で,檜川層[ひのきがわそう](一部の文献では目滝川石英安山岩)と呼ばれる地層に 属しています。岩石の年代は測定されていませんが第三紀中新世(約2300万年前から 500万年前)に形成されたと考えられています。しかし山としての縫道石山ができたの は,ずっと新しい時代でしょう。
 縫道石山の周辺の地層はおもに同じ檜川層に属する凝灰岩からできています。縫道 石山はこの凝灰岩を貫いて上昇したマグマの通り道(火道)で固結した火山岩が,まわ りの凝灰岩よりも硬いために侵食に耐えて残ったものであると考えられえています。 このような山体は火山岩頚(volcanic neck)と呼ばれ,日本でも各地に見られます(た とえば本Q&Aの#618)。なお山頂部は角礫化した岩石からなると報告されていますの で,おそらく火山体の下の比較的浅い部分に位置していたのでしょう。そのような場 所では火山活動の後に地下を高温の水(熱水)が循環している事が多く,ご覧になった 水晶はそのような活動によりできたのかもしれません(もっと後の時代のものかもし れません)。
 ババ岩とおっしゃっている標高424mの峰も同じ時代のデイサイトからなるとされ ていますので,やはり侵食されにくいために山として残っているのでしょう。見かけ の類似を指摘なさっているワイオミング州のデビルスタワーも,貫入した火成岩がま わりの軟らかい堆積岩が侵食されることによって露出したものと言う点で同様な成因 と考えられているようです。ただし火山岩頚なのか,もっと水平方向に広がりがある 岩体が侵食されて一部分だけが残ったものなのかについては議論があるようです (http://www.nps.gov/deto/geology.htm ,でき方を示すスライドショーが参考にな ります)。
 (06/29/03)

佐々木  実(弘前大学・理工学部・地球環境学科)


Question #3988
Q メルト中(シリケイトメルト)の水は、水酸化物イオンとして存在しているらしいく(H2O+O2-=2(OH)-)、水の溶解度は圧力の1/2乗におおまかに比例すると、文献に書いてありました。なんとなくわかる気がするのですが、1/2乗というのがわかりません。なぜなのでしょうか。
御教授お願いします。 (06/03/03)

ryu:学生:24

A
 ガラス工学(常圧高温低含水量の世界)では、飽和含水量が水蒸気圧の1/2乗に比例 することが古くから知られています。
 まず化学平衡について考えましょう。
  a P + b Q = c R + d S
(ただし小文字は係数、大文字は化学種)という反応が平衡のとき、反応の前後で自 由エネルギーの変化はゼロになります。化学ポテンシャルで記述すると、
  c μR + d μS - a μP - b μQ = 0
(ただしμXは、化学種Xの化学ポテンシャル)と、なります。これに μX = μ0X + RTln([X]) (ただしμ0Xは化学種X の標準状態での化学ポテンシャル、[X] はとり あえず化学種X の濃度や分圧)という関係を入れると
  c(μ0R + RTln[R]) + d(μ0S +RTln[S]) - a (μ0P + RTln[P])- b(μ0Q + RTln[Q])= 0
になります。これを整理すると、
  ΔG0 = RT ln(([R]^c [S]^d)/([P]^a [Q]^b))
となります。この式のlnの中が、化学平衡定数Kです(ただしΔG0 は標準状態のΔ G;また、公式により、n ln(x) = ln(x^n)です)。
 ですから、H2O(水蒸気) + O (メルト) =2(OH(メルト)) のKは、 [OH (メルト)] ^2/ ([H2O (水蒸気)] [O (メルト)]) となります。O[メルト] は一定とすれば、
  [OH] = k √[H2O]
ですから、飽和含水量が水蒸気圧の1/2乗に比例することがわかります。


 大雑把にはこの理解でよいでしょう。しかし細かく言えば、この理解には色々問題 があります。分光学的な観察によれば含水メルト中にはH2O 的な化学種が存在するこ とが知られているので、
  H2O (水蒸気) ⇔H2O (メルト)
という反応と、
  H2O (メルト) +O (メルト) ⇔OH (メルト)
という反応を両方考えます。高圧下では水蒸気を理想気体とする近似に無理が生じる でしょう。[O (メルト)] は水が入るにつれ消費されますから、一定とみなせないこ ともあるでしょう。より高圧下では多くの水がメルトに溶け込む一方でH2O (水蒸気 ) の中にも多量のメルト成分が入ります。場合によっては「メルトを溶かした水」と 「水が溶けこんだメルト」の区別がつかず、飽和含水量の意味がなくなります。飽和 溶解度には温度依存性があります。常温のガラスには、ゆっくりですがかなりの水が 入り(ガラスの水和)ます。ガラス化学組成が飽和含水量や水和速度に与える影響はは まだ未解決です。
 このように、水とシリケイトメルト・ガラスは意外に複雑な振舞いをします。とは いえ、マグマの温度圧力(〜1000℃;〜2000 気圧) では飽和含水量が圧力のルートに ほぼ比例することが実験的にわかっていますから、火山学では単にそう覚えておいて もよいでしょう。
 (06/06/03)

宮城磯治(産業技術総合研究所・深部地球環境研究センター)


Question #3984
Q 質問するのは久しぶりです。
火山研究サラリーマンです。
2002年8月に9年ぶりに白山登山を行いました。1日目は頂上まで行き、室堂に宿泊しました。ご来光をみるために、早朝早く起きました。今までみたことがない見事な天の川と真夏のオリオン座に感動しました。
質問の本題です。8年前に遠くから見たトンビ岩の印象が強く、トンビ岩を見るために、下山ルートは南竜ヶ馬場経由で下山したのですが、トンビ岩のほかにも大きな岩石が多い印象を持ちました。下山しながら思ったのですが、トンビ岩は黒ボコ岩同様に白山の火砕流によってできたものなのか?、白山火山の火道がそのまま地表に出現したものなのか?どちらでしょうか。自分としては火砕流説たと思いますが。。
よろしくお願いします。 (06/02/03)

火山研究サラリーマン:会社員:44

A
 白山火山のトンビ岩については,高橋正樹・小林哲夫両氏編の「フィールドガイド 日本の火山6,中部・近畿・中国の火山」(築地書館, 2000年)の80-81ページに, 守屋以智雄氏によるわかりやすい解説があります.新白山火山で最も古い黒ボコ岩火 砕流(数万年前?)の次に,約2万年前に南龍溶岩流が噴出しました.この溶岩流 は,室堂東方から南方向へ南龍ヶ馬場を横切って更に下流まで全長3km以上流れま した,この溶岩流の両側には,溶岩堤防がよく発達します.これは,溶岩流の両側の 部分が急冷されるために早く固まり,まだドロドロ状態の中央部は流れ去って「溶岩 の水位」が低下し,その状態で固まったために,溶岩流の両側が中央部より高い堤防 のような地形になっているものです.トンビ岩は,中央部の溶岩が流れ去る時に,溶 岩堤防の内側を引き剥がして行ったためにできたものです.トンビ岩は南龍溶岩の西 側の溶岩堤防の一部で,その100mほど東に反対側の溶岩堤防があります.従っ て,火砕流で運ばれてきた大きな溶岩塊(パン皮状火山弾のような冷却割れ目が発達 する)である黒ボコ岩とは,成因が異なります.白山には他にも面白い火山地形が沢 山あります.上記の本を読んでから,また白山に登って観察してみて下さい.
 (06/03/03)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科) --


Question #3982
Q オーストラリアでガイドをしています。ゴールドコーストにあるtweed
volcanoは世界で2番目、南半球で最大といわれています。日本の阿蘇が世界1おおきいカルデラとおもっていたのですが、北海道にある屈斜路のカルデラの方が大きいという情報をえたのですが、どちらが正しいのでしょうか?単純な質問で大変もうしわけないのですがよろしくお願いいたします。 (05/30/03)

チャウ:ツアーガイド:26

A
 オーストラリア大陸には新しい「火山」はありません。
 紹介されているTweed 火山は 東部にある直径40kmのカルデラ火山とされ ているものですが、それが活動したのは約2千万年前という大変古い時代で す。日本でいうと九州の傾山や紀伊半島の熊野地方の火成岩が活動した頃より さらに古い時代です。日本ではオーストラリア大陸と異なり、プレートが衝突 しており地殻の変動が激しいために隆起や浸食が進み、Tweed火山のように大 変古い火山でありながら当時の地形が残っているものはほとんどありません。
 ゴールドコーストでガイドとして大いに火山を紹介していただきたいと思い ますが、そこの火山の古さと新鮮さ(?)についても紹介いただければと思い ます。
 日本の「火山」地域のカルデラの大きさについてはこのQ&Aの#2509で紹介 しました。#2169では世界一のカルデラの紹介をしています。
 (06/02/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #3950
Q 初めまして。私は中年の内科の開業医です。
同じ質問が重複している可能性がありますが御容赦下さい。(前回送信されたのか否かが
確認できないためです。このページの初心者のためです)

伊豆単生火山群の矢筈山のあたりの地形図をみていると、特徴的な凹地が多数認められます。(溶岩ドームの周囲に多いようです)この地形の正式名称と成因について御教示いただければ幸いです。
私見では谷や沢の出口に溶岩ドームが出現したためその奥の谷間が凹地になったのではと考えています。

重複していたら申訳ありません。何十年も疑問におもっていた問題ですので宜しくお願いいたします (05/01/03)

河路晃一:内科の開業医:47

A お問い合わせありがとうございます.マニアックな質問と鋭い洞察力に驚きました.

まったくご明察の通り,矢筈山溶岩ドームとその北西側に隣接する孔ノ山(あなのや ま)溶岩ドームのまわりにある凹地の基本的な成因は,「谷や沢の出口に溶岩ドーム が出現したためその奥の谷間が凹地になった」で結構だと思います.ただ,詳しい現 地調査がおこなっていないため,一部の凹地は溶岩ドーム出現の際に小規模な水蒸気 爆発を起こした跡かもしれません.

ちなみに,孔ノ山のさらに北西側に,2万5000分の1地形図で578mの独立標高点が書 かれている凹地があります.この凹地(孔ノ窪,あなのくぼ)は,隣接する溶岩ドー ム群と同じ時期に水蒸気爆発でできた火口で,小規模な溶岩流も流出しています.

これらの溶岩ドーム群と火口は,東伊豆単成火山群(伊豆東部火山群)の一部であ り,およそ2700年前に起きた割れ目噴火にともなって生じたものです.東伊豆単成火 山群の詳しい噴火史については以下のサイトを御覧ください. http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Izu/ItoShishi/ShishiKen1.html

なお,溶岩ドームが谷をふさいで作った凹地形をさす一般的な名称はないように思い ます.
 (05/02/03)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #3948
Q 火山砕屑性堆積岩中には火山ガラスとか岩石片が含まれたりしますが,火山砕屑性堆積岩中のglass shards(火山ガラス?)が保持されていることが堆積作用の速度が急速であったことを示していると論文で読みましたが,それはなぜですか? それとglass shardsは火山ガラスでいいのですか? (05/01/03)

ゼノリス:学生:22

A 「堆積作用の速度」という用語をどうとらえるかによりますが,これを「堆積速度」 と解釈した場合,火山砕屑性堆積物中のglass shardsの存在や,それが保持されてい ること自体は,堆積速度の速さを示す直接的な証拠にはなりません.glass shardsは,地表に噴出したマグマが”急冷”されることによって出来ますが,この成 因と堆積速度との間には直接的な関係はありません.また,glass shardsは風化に弱 いため,glass shardsを含む堆積物は,非常に新しいか,風化や浸食を被りにくい環 境下(例えば深海底や湖底など)で形成されたことを示します.しかしこれらのこと も堆積物の堆積速度とすぐには結びつきません.むしろ,深海底や湖底の堆積速度 は,通常は非常にゆっくりです.

ただし,ご質問の中の「火山砕屑性堆積岩」という用語がちょっと気になります. 「火山砕屑性堆積岩」(〜つまり凝灰岩)は,泥岩や砂岩といった堆積岩に比べては るかに大きな堆積速度を持ちます.凝灰岩が2地点間をつなぐ鍵層としての役割を果 たす事ができるのは,凝灰岩自身の異常な堆積速度の速さが,地質学的な同一時間面 を広域的に作り出すことが出来るためです.通常,凝灰岩は露頭で容易に識別するこ とが出来ますが,堆積物の産状や露頭条件によっては,野外で凝灰岩か泥岩かを瞬時 に識別することが困難な時もあります.そんな時は,堆積岩中にglass shadeがある かどうかを調べます.もしglass shardsが中に多量に含まれていれば,その堆積岩が 形成された当時は,普通の砂や泥に混じって火山性の砕屑物もその場に供給されたこ とになりますから,「glass shadeを含む(火山砕屑性)堆積岩は,他の泥岩や砂岩 に比べて堆積速度が急速であった」と言えるかもしれません.でもこの場合も, glass shadeの存在は,砂や泥以外に火山性の砕屑物も供給されたことを判断するた めに用いたのであって,堆積速度の速さを直接示している訳ではないことに留意して ください.

それから,「glass shards」という用語ですが,せっかく疑問をもたれたのですか ら,これを機会にいろいろな教科書や文献を読んでみると良いと思います.「glass shards」を手持ちの辞書で調べると”直径2 mm以下の角張ったガラス質の粒子”と書 いてあります.粒径の定義に留意すれば,「glass shade 〜 火山ガラス」としてよ さそうです.
 (05/06/03)

大野希一(日本大学・文理学部・地球システム科学科)


Question #3943
Q いつも御丁寧な回答ありがとうございます。2つの質問があります。
@イタリアのエトナ山は外見や玄武岩質である事に加えて噴出量が極端に多い事も富士山によく似ていると思います。エトナはホットスポット火山であるがゆえあれだけ膨大な噴出量を誇ると聞きます。富士山については地下にホットスポット云々とは聞かないため島弧火山列の中に不自然なほど巨大な玄武岩質火山があるのを常々不思議に思ってましたが、最近「フィリピン海プレートは北東側と西側に沈みこんでるため結果として中央部が割け富士山から八ヶ岳の間はプレートが存在しない状態になっている(フィールドガイド。日本の火山@)」という記載を見つけました。この「プレートが割けている状態」と富士山の膨大な量の玄武岩は関係があると考えてよろしいのでしょうか。

A伊豆大島から八丈島をこえさらに南の方まで(新島〜神津島を除いて)これまた島弧火山でありながら玄武岩質の火山が連なっています。特に大島、三宅島、八丈島は割れ目噴火をおこしたりキラウエア型のカルデラを持つ点でも兄弟の様に似ていると思います。同じ「火のリング」でありながらアメリカのカスケード地方の火山群に比べて伊豆諸島の島々の溶岩がサラサラしているのは理由があるのでしょうか(何となく陸の火山の溶岩はネバネバしていて島の火山の溶岩はサラサラしている様に思えます)。

以上、よろしくお願いします (04/27/03)

アマンタジン:医師:28

A 2つの質問ですが,いずれも関連がないわけではないのでまとめてお答えします.

日本列島のような沈み込み帯の火山は,SiO2成分が多い安山岩,デイサイト質マグマ の噴出が多く,玄武岩質マグマだけを噴出している火山は少ないです.この特徴は世 界中の沈み込み帯の火山に共通して見られますが,より詳しく調べてみると,沈み込 み帯の島弧地殻や大陸地殻が厚ければ安山岩質マグマが卓越し,薄ければ玄武岩質マ グマが卓越する傾向があることが知られています.伊豆大島や三宅島がある伊豆-小 笠原弧は,大部分が海底にあることからわかるように,島弧地殻の厚さが本州などに 比べて薄く,玄武岩質マグマが多く噴出する島弧の一つです.

マントルが溶けてできる初生マグマは大部分が玄武岩質マグマであると考えられてい ます.島弧に玄武岩質マグマの火山が少ないのは,島弧に安山岩質マグマの火山がな ぜ多いのかということにつながります.安山岩質マグマの成因として,地殻内のマグ マ溜まり内での玄武岩質マグマの結晶分化作用や,地殻が玄武岩質マグマの熱で溶け てできたSiO2の多いマグマと玄武岩質マグマの混合などが挙げられます.いずれも地 殻が厚ければより容易に安山岩質マグマを作りやすくなるのが理由と考えられていま す.

富士山の地下では,地殻下部が構成する沈み込んでいるフィリピン海プレートが富士 山の直下で裂け,そこを埋めるようにマントルから玄武岩質マグマが上昇しやすくな っているという考えがあります.つまり局部的に地殻が薄くなっているのと同じこと が起きているというわけです.富士山の場合,開いていくことで強制的にマントル物 質が上昇することもあって,大量の玄武岩質マグマが地表に噴出していると考えられ ます.
 (03/5/20)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門) --


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