火山についてのQ&A集

Question #4128
Q ハワイの火山についてなんですが、火山の洞窟ってどのようにできるのですか?
ガイドさんは、「流れ出したマグマの表面が固まり、中のマグマが全部流れ出した跡です」
とかなんとかいってました。本当にそうなのですか?詳しく、簡単におしえてください(笑)


 一度噴火が起きると、どのくらい続くのですか?(ハワイの火山)

ぜひおしえてください!おねがいします。 (08/12/03)

佐藤:学生:12

A
 ガイドさんの説明は間違ってはいません。
 溶岩は冷えはじめると結晶が成長しはじめ溶岩の粘り気が増加し、さらに冷えるとついには固まってしまいます。ハワイのような流動性に富む溶岩が流れる 場合に、表面で冷えて固まった溶岩が内部を流れる溶岩に対して保温の役目を果たし、高温の溶岩が冷えずにそのまま流れることができます。これは溶岩チュ ーブといって、溶岩を遠方まで運ぶ主な仕組みです。噴火活動が低下し、溶岩チューブから内部の流動的な溶岩が抜けてしまうと溶岩のトンネルができる訳で す。また、溶岩の中に閉じ込められた火山ガスの圧力が増加して表面の溶岩を持ち上げて大きな中空を作ることも稀にあるようです。このような古い溶岩のト ンネルや中空が溶岩洞窟(洞穴)として観光地になっています。
 日本では富士山の溶岩洞穴が有名です。インターネットで溶岩洞穴を検索してみて下さい。
 噴火の継続時間は火山や溶岩の種類によってまちまちです。普通は3か月以下が多いようです。しかし、ハワイでは1983年から現在までほぼ連続的に溶 岩が流出しており、そこでは溶岩チューブを使って溶岩が海岸まで到達し、海に直接流れ込んでいます。その様子も見学できたのではないかと思います。
 (08/17/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #4126
Q 豊北町に白滝山という標高600m位の山があります。この山は山頂付近に大きな岩が露出していますが、この岩は安山岩の塊のように見えます。ということは火山の噴火によるものなのでしょうか、それとも造山運動による隆起なのでしょうか。付近の工事現場などでは断層もよく見られます。山口県西部の火山についてはあまり発表されているものを見ません。しかし、西部には多くの温泉があるので火山の存在が発表されていないのが気になってしょうがありません。その点よろしく教えて頂けませんでしょうか。 (08/08/03)

山口県西部の火山に怯えるものより::

A
 私は最近学生さんと豊北町の地質を調べています。おたずねの白滝山(667.6m)にも登山して調べました。私たちの調査では白滝山には流紋岩質溶結 凝灰岩が分布しています。おとなりの天井ヶ岳(691.1m)には安山岩によく似たひん岩という岩石が分布しています。このあたり一帯には,白亜紀の阿 武層群として知られる火山岩が分布しています。お察しのとおり火山地帯であったわけです。それも噴火の規模は大きく,噴出当時,山口県はほとんど火山灰 など火山の噴出物で覆われていたことでしょう。山口県だけでなく,日本列島,さらに太平洋を取り囲む地域では,地球がそれまでに経験したことのないよう な大規模なマグマの活動が行われました。しかし,心配されることはありません。私たちの研究ではマグマの噴出した年代は約8700万年前です。したがっ て火山活動が行われたのははるか大昔のことで,現在は完全に活動を終えた死火山です。山口県で活火山に指定されているのは,萩の笠山などからなる阿武単 成火山群だけです。したがってこのあたりで噴火する可能性はないと思います。
 また,温泉には火山性だけでなく,非火山性の成因のものがあることに注意してください。火山がないところにも温泉はあるのです。山口県の温泉はすべて 非火山性で,泉温が25℃未満の冷鉱泉が多く,全温泉地の82%,全泉源の63%を占めていま す。温泉法では,温泉を温度(物理的性質)と溶解成分(化学的性質)の2本立てで定義し,温泉=(温泉+鉱泉+火山ガス)という考え方をとっているので す。これによれば,温度が25℃以上あれば,溶解成分は何もなくても「温泉」であるし,また,溶解物質があるきまった量を満たしていれば,泉温がいくら 低くても「温泉」になるのです。例えば,山口県には,白亜紀の花崗岩や先述の阿武層群などの火山岩が広く分布するため,ラドンを含む温泉も多いです。御 存知のように湯田温泉,湯本温泉,俵山温泉,川棚温泉は古くから防長四湯としてよく利用されてきた温泉です。
 火山に怯えられることなく,豊北町の大自然や温泉を楽しんでください。白滝山付近には風光明媚な豊北峡など,白亜紀の火山活動がその素材を提供してい る美しい自然がいっぱい残っています。
 (08/22/03)

今岡照喜(山口大学・理学部・化学・地球科学科)


Question #4116
Q 三宅島の『特異体質』についてこれまで色々御教授頂きました。また、もう一つよろしくお願いします。
以前「三宅島の火道は極端に太い≒極端に放出ガスが多い」という事を教えて頂きましたが(#1829)もうこの火山の特徴として「極端に前兆現象の出現から噴火までの時間が短い(事もある)」という事があったと思います。常にガス抜き孔が口を開けている伊豆大島でさえ1986年の噴火の時は数カ月前から前兆があったと聞きます。三宅島の場合、1940年は一ヶ月の前兆がありましたがその後の2回の割れ目噴火の時は前兆現象の出現から噴火まで数十時間程度だったと聞きますし2000年の噴火にしても前兆の出現から最初の海底噴火までは10数時間だったと記憶しています。三宅島の前兆の極端な短さは「太い(であろう)火道」と関係があると考えてよろしいでしょうか。
よろしくお願いします (08/01/03)

アマンタジン(いつもありがとうございます):医師:28

A 前回述べた太い火道は2000年噴火時のカルデラ陥没事件で形成されたもので,それが現在まで続く大量の火山ガス放出につながっていると考えています. 歴史記録に残っている噴火14回のうち,山頂噴火が起きているのは不確実なものを含めても5回に過ぎず,山頂につながる火道は,伊豆大島と違っておそら くほとんど閉塞していたのではないかと考えられます.

伊豆大島の山頂噴火の場合,ほとんど地震,つまり岩石の破壊を伴わずに噴火に至ります.これは火道をわざわざ新たに破壊しながら作る必要がなかったこと を示していると考えられます.伊豆大島1986年の噴火の場合,初めて火山性微動が観測されたのは同年7月ですが,マグマが三原山火口に出現したのはそ れから4ヶ月後でした.それだけゆっくりと上昇してきたと言えます.むしろゆっくりとしか上昇できないのに,火道が確立していたので上昇できたのかもし れません.

一方,伊豆大島でも1986年噴火の山腹噴火の前兆は,三宅島の割れ目噴火と同じく,噴火の数時間前から始まった地震活動でした.三宅島の割れ目噴火と 同じくマグマが岩石を割りながら急速に上昇してきたのでしょう.おそらく,新しく割れ目を作って噴火に至るには,それだけ急速なマグマの上昇が必要で, その結果として前兆から噴火までの時間が短いのかもしれません.

なかなか難しい質問で,まだ断定はできませんが,こういう風に考えてみてはどうかと思います.
 (09/05/03)

川邉禎久(産業技術総合研究所・地球科学情報部門)


Question #4109
Q 授業で有珠山の2000年噴火について調べているのですが、2000年噴火で潜在ドームが形成されたといえる根拠は、単純に、マグマが地表まで出てこなかったからということでいいのでしょうか?それに具体的にその潜在ドームが形成された場所は、どこにあたるのでしょうか? (07/27/03)

基礎から勉強したい:大学生:18

A
 潜在ドームとは,粘性の高い(ねばりけのある)マグマが地下の浅いところまで上 がってきて地盤を隆起させた(持ち上げた)ものの,地表までは顔を出さなかったも のを言います.従って,次のような観察事実があれば潜在ドームと考えてよいでしょ う:(1) 噴火活動に伴ってドーム状の隆起地形ができた;(2) その付近で噴気や温泉 などの地熱活動が見られるようになった(浅いところにマグマが上がってきた証 拠).有珠の2000年の活動では実際にこれらの現象が見られましたので,潜在ドーム が形成されたと考えられています.なお,もしこうした隆起地形からマグマ(溶岩) が顔を出せば,それは溶岩ドームと呼ばれますが,昭和新山はその有名な例の1つで す.
 2000年噴火の潜在ドーム(虻田新山)の出来た場所は,道央自動車道の虻田洞爺湖 ICから北東に1kmほどの所の有珠山西麓です.ここは,2000年噴火で繰り返し爆発の 起こった西山西麓火口群の場所に当たっています.現在この場所は公園として整備さ れ,火口や噴気,隆起地形などを間近に観察できる観光スポットとして多くの観光客 が訪れるようになっています.
 (08/18/03)

東宮昭彦(独立行政法人・産業技術総合研究所・地質調査総合センター)


Question #4106
Q 高校時代に火山のなかには、中央海嶺に沿って分布するものがあると習いました。
この中央海嶺とは、海嶺の大規模なものなのか大西洋中央海嶺の略称なのか
また別のものを意味しているのか。このサイトを見つけ、高校時代からの
疑問を思い出しなんとか解決し、すっきりしたいのでよろしくお願いいたします。 (07/23/03)

高校時代の疑問:会社員:30

A 「中央海嶺」は「大洋中央海嶺」(mid-oceanic ridge)を縮めた言い方です.大西洋,インド洋,南太平洋のほぼ中央にある「海底山脈」です.東太平洋海膨は太平洋の中央にはありませんが,地質構 造から言うと中央海嶺の仲間です.もっと短くして,単に「海嶺」ということもありますが,海嶺には小規模な海洋性島弧や縁海の中の山脈状の高まりも含ま れ,本来はもっと広い意味の言葉です.意味を広げずに言葉を縮めるには,「中央海嶺」が限度ということでしょうか.
 (08/17/03)

石渡 明(金沢大学・理学部・地球学科)


Question #4105
Q 知床の硫黄山について、教えてください。「噴火の際に溶岩以外の鉱物を多量に噴出する火山は世界に3つしかなく、硫黄を噴出する硫黄山の他には、チリのEl Laco火山(鉄酸化物)、タンザニアのOl Doinyo Lengai火山(カーボナタイト)である」と、手元にあるパンフレットにあるのですが、これらは本当のことでしょうか?なにぶんパンフレットなので、元の文献が分かりません。硫黄山が、「世界の希少火山」であると、言ってしまってもよいでしょうか?
また、硫黄山が硫黄を噴出するメカニズムを初心者にもわかりやすく紹介した文献などがあれば、紹介してください。よろしくお願いします。 (07/23/03)

鈴木さんは新人:会社員:27

A 「鈴木さんは新人」さん、こんにちは

パンフレットは少し誤解があるようです。溶岩の定義はマグマが地表あるいは地表近 くで固まったもので、マグマとは「地下の岩石が溶融したもの」です。通常は二酸化 ケイ素を主要な成分とするのがほとんどなのですが、それ以外のものもあります。で すから地下の硫黄や鉄鉱物の溶融体が流出し、それが固まったものも広い意味では溶 岩と呼んでもいいものです。特にカーボナタイトはマントルの溶融で生じうる立派な 溶岩の仲間です。しかしそれらが珍しい「溶 岩」あるいは「マグマ」であることは 間違いありません。

さて知床硫黄山(他の硫黄山と区別するために、我々はこのように呼んでいます)は 大規模に硫黄を流出する火山として世界的に有名です。小規模な硫黄の流出や、記録 に残っていない噴火で硫黄を流出した火山は他にもあるでしょうが、ごく最近 (1936年)に大規模に硫黄が流出したのは知床硫黄山だけです。そして硫黄流出の経 緯が専門家によって詳細に観察された、ということで「希少火山」と呼んでいいと思 います。

硫黄の流出に関して記述し説明した文献ですが 渡邊武男・下斗米俊夫(1937)北見国知床硫黄山ー特に昭和11年の活動に就いてー 火山,第1集,3巻,213-262 があります。これは実際の硫黄噴出を観察して、周辺の地質も考慮して、硫黄流出の メカニズムを考察しているすぐれた論文です。これ以外ではいい文献はないと思いま す。

その説明を要約してみます。まず観察事実として、硫黄は温泉水と共に間歇的に噴出 しました。つまり硫黄噴出は、間欠泉のメカニズムと同じように考えればいいことに なります。間欠泉は地下の空洞に温泉水が溜まり、その蒸気圧が空洞内で次第に上昇 し、その圧力で地表に温泉水を勢い良く放出すると考えられています。知床硫黄山の 場合は温泉水ともに溶けた硫黄が地下の空洞に溜まっていたと考えられます。硫黄は 「普通のマグマ」に含まれており、それが地表近くでマグマから分離し、それがガス として大気中に放出されたり、あるいは温度低下で硫黄として濃集して火山体表面や 内部に析出します。よく温泉地帯や地熱地帯で黄色く硫黄が析出しているのを御覧に なったことがあると思います。硫黄の融点は約120度ですから、地熱地帯では簡単に 硫黄は溶けます。 知床硫黄山では溶けた硫黄が温泉水とともに地下の空洞に溜まっ たと考えられます。空洞では下の方に硫黄が、その上に温泉水が溜まっていたのでし ょう。そして温泉水の蒸気圧が高まって「間欠泉」のように硫黄が噴出したのでしょ う。

1936年に硫黄を噴出した火口は現在でも噴気活動が活発で、硫黄も普通に観察されま す。地下では空洞に溶融硫黄の蓄積が現在も進行中かもしれません。次の噴火でも硫 黄の流出が観察される可能性が高いと考えています。
 (08/09/03)

中川光弘(北海道大学大学院・理学研究科・地球惑星科学専攻)


Question #4027
Q 世界の火山のうち、島弧海溝系と中央海嶺の火山の分布は大体わかるのですが、ホットスポット火山はハワイ諸島以外知りません。他にもあると思うのですが、地球上に何箇所くらいあるのですか?またどこに分布しているのですか?教えて下さい。お願いします。 (06/22/03)

頑張れ巨人!阪神に負けるな!:会社員:33歳

A
 地球の深部から温かい物質がわき上がってくるホットスポットは、地球上にいった い何個あるのか統一した見解はありません。多くの研究者は数十個くらいではないか と考えています。ホットスポットとして有名な火山地域は、ハワイ諸島の他に、合衆 国のイエローストーン、アイスランド、太平洋のガラパゴス、インド洋のレユニオン などがあります。
 ただし、火山の数となればかなり沢山あります(古いものも含めてですが)。例え ば、ハワイ島だけでも5つの火山(キラウエア、マウナロア、フアラライ、マウナケ ア、コハラ)からできていますし、ハワイのホットスポットがここ約7千万年間に作 った火山(海山)の列が、アラスカのアリューシャン海溝からハワイ島まで全長 6000km以上も分布しています。ハワイ天皇海山列と呼ばれ80個以上の海山が海の 底に並んでいます。これは地球の深部に根ざしたホットスポットの上を太平洋プレー トが移動し、火山が作られ続けたためです。
 (06/24/03)

中田節也(東京大学・地震研究所・火山センター)


Question #4025
Q 火成岩の放射年代を測るときはマグマが冷え固まったときから測定することを習いました。また、変成岩は変成を受けたときからの年代を測定することができると書いてありました。たとえば花こう岩に近い片麻岩が変成を受けたときからの年代を測定するということですよね。

 質問1 片麻岩が花こう岩に変わった場合、それは花こう岩に変わったときからの年代が測定値としてでると言うことですか?

 質問2 教科書には「放射性同位体は温度と圧力の条件には変わることはない。」と書いてありますが、変成作用というのは、温度・圧力受けるというのですよね?矛盾するように思うのですが。なぜ変成作用を受けた年代がでるのでしょうか? (06/21/03)

うみぞう:高校生:17

A 放射年代測定法がどのようにしてうまく働くか,特に何時時計がスタートするのかと いうのは,大変難しい問題で,たぶん,高校の教科書には簡単に書いてあるのだと思 います. 火山岩のようにマグマが地表に噴出して直ぐに冷えてしまった場合には,比較的簡単 なのですが,花こう岩のようなマグマが地下深部でゆっくり固結した深成岩,片麻岩 などのように長い時間をかけて岩石の組織が変化する変成岩の場合,何時を持って時 計がスタートしたというのか実は大問題なのです.

まず,放射年代測定法の原理ですが,放射性元素と呼ばれる不安定な元素(カリウム 40,ルビジュウム87など,親核種という)が一定の割合で別の元素(アルゴン40,ス トロンチュウム87など,娘核種)に変わる物理現象を用いて,時計がスタートしてか ら現在までの時間を測るものです.そのために必要な情報は,岩石や鉱物に含まれる 時計スタート時の娘核種の量(Do)と現時点での親核種の量(P)と娘核種の量(Dp)で す.それと親核種から娘核種が生成される速度(壊変定数λという)が分かれば
   T=1/λxln(1+(Dp-Do)/P)
という式で求めることが出来ます.この場合,閉鎖系といって,時計がスタートして から現在の間まで,測定対象の岩石や鉱物から親,娘核種のいずれも動いていない, という条件が満たされなければなりません.

次ぎに,何を持って時計がスタートしたというか,ですが,これは,上に述べた閉鎖 系が保たれるようになった時点,ということになります.

岩石,鉱物の中で元素は動こうとしています.これを元素拡散といいます.岩石の温 度が高いほど元素は早く動き回ることが出来ますが,温度が低くなると急に動けなく なります(正確に言えば,拡散速度は絶対温度の逆数に比例して小さくなります.) 元素が早く動ける間は,親核種も娘核種も動いていますので閉鎖系は成り立ちませ ん.しかし,温度が低くなると急激に動けなくなり,ある温度(これを閉鎖温度)を 下回った時点で実質的に全く動かなくなった,すなわち閉鎖系が成立したと考えるこ とが出来るようになります.この時が時計のスタート時点です.

溶岩は,1000度の高温から一気に地表で冷えて固まりますので,噴火した時を時計の スタート時点と見なすことが出来ます.一方,地下でマグマがゆっくり冷えて固まっ た花こう岩の場合,閉鎖温度を下回った時点が時計のスタートです.片麻岩の場合, いったん冷えて固まったかこう岩が再度,加熱され異なる鉱物の組み合わせになるわ けですから,その時点で閉鎖系は破られて時計はリセットされます.それが,冷え始 めて,閉鎖温度を下回った時点で再度時計はスタートします.閉鎖温度は,用いる鉱 物や年代測定法により違います.例えばRb-Sr法という方法で黒雲母や角閃石を使っ て鉱物アイソクロン年代をというのを用いる場合と,K-Ar法という手法で角閃石や黒 雲母を使った年代は異なる年代を与えることがふつうです.複数の測定手法を組み合 わせて,変成岩がどのようなスピードで冷えていったかという冷却の歴史を知る試み も行われています.

これ以上の詳しいことは,大学院の修士課程レベルの知識を持たないと正しくは理解 出来ないと思います.

なお,質問1にある「片麻岩が花こう岩に変わった場合」は,高校レベルでは「花こ う岩が片麻岩に変わった場合」と理解下さい.特殊な例を除いて変成岩から深成岩に は変わりませんので.

また,質問2ですが,「「放射性同位体は温度と圧力の条件には変わることはな い。」というのは,上に述べた親核種が娘核種に一定の速度で変わるという物理現象 は,温度と圧力の変化に影響を受けない,ということです.ですから,どこで岩石が 出来ても,放射年代測定法は利用できるわけです.変成作用の年代が分かるわけは, 上に述べたように,岩石の温度が冷えて,元素が実質的に動かなくなる時に時計がス タートするからだと理解してください.

なお,上に書いた回答は,わかりやすく説明するために,学問的には正確でない表現 の部分がありますが,ご了解下さい.
 (06/22/03)

宇都浩三(産業技術総合研究所・地球科学情報研究部門)


Question #4023
Q 歴史を専攻しているものですが、今思うに卒論を、火山の噴火というテーマにすればよかったと悔やんでおります。
歴史地理という観点からは言うにおよばず、文献史学という観点から噴火の歴史を体系的に論述できるのはいつの時代からですか。
伊藤和明著 「地震と噴火の日本史」 岩波新書
を読み、古代は日本書紀から現代に至っては言うにおよばず大量の記録に恵まれています。
特に古代、中世の噴火の記録についての史料の量はどの程度のものなのでしょうか。

(06/20/03)

山中 雅晴:学生:28

A
 ご質問ありがとうございます.「体系的に論述」というのが,どの程度のものを指 しておられるのかよくわかりませんが,科学的視点からの分析にたえる噴火記録は, 一般的に言って飛鳥・奈良時代以降のものです.具体的には日本書紀のうちの7世紀 末以降のものに,そのような記録が出始めます.以後は日本三代実録まで続く六国史 に日本各地の噴火記録があり,中には相当具体的な記述をもつものがあります.その ような記述と,火山山麓での地形・地質調査結果とをつき合わせることによって,噴 火の位置・規模・様相をつきとめた研究がいくつかなされています.
 ただし,朝廷による国史編纂が絶えた9世紀末以降は,地方での火山噴火の記録が 激減します.これは六国史の終了にともなって地方の歴史記録の全体量が少なくなる ためであり,実際の火山活動の消長とはほとんど無関係と考えられます.この点は火 山活動だけでなく,地震活動についても同様です.日本の火山のほとんどは,当時の 首都があった畿内から遠く離れていますから,地方の記録が減ることは,火山噴火の 記録そのものが減ることを意味します.
 9世紀末以降の古代の噴火記録については,記録の量・質ともに六国史には及びま せん.中世に入ると,たまたま運良く公卿・僧の日記や,寺社年代記等に記されたも の以外の噴火記録は,見つけることすら困難になります.このような状態は,基本的 には近世初期まで続きます.
 以上のように,現存する古代・中世の噴火史料はごく限られたものです.しかし, 地形・地質という別の詳細な「史料」がありますから,研究上まったく歯が立たない というわけでもなく,限られた情報を総合して噴火を復元してゆく醍醐味がありま す.歴史時代の火山・地震研究者が情報交換をおこなっている集まりを,以下に2つ 紹介させてください.
 歴史地震研究会
 http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/Shiryou.html
 メーリングリスト「musha」
 http://sk01.ed.shizuoka.ac.jp/koyama/public_html/musha/Welcome.html

なお,上記研究グループに属する方々の成果(ただし,近世と近代が対象)が,この 夏に国立歴史民俗博物館で開催される企画展「ドキュメント災害史1703-2003」で紹 介されます.
 http://www.rekihaku.ac.jp/kikaku/index75/index.html
 (06/26/03)

小山真人(静岡大学・教育学部・総合科学教室)


Question #4022
Q 文系人間のものですが、山の景観(特に火山)は大好きで、北海道の火山には大変魅力を感じます。しかし私が住んでいる関東地方にも素晴らしい火山がいっぱい眠っていると知り本当にうれしいです。
本題として、カルデラの定義とは何ですか。 僕の思うところ、榛名山や赤城山もそのような地形を持っているように思うのですが。

 立山や穂高岳がこのような地形だという事を知り大変驚いています。 (06/20/03)

山中 雅晴:学生:28

A
 カルデラとは火山に見られる円形ないし楕円形に近い凹地形です。通常の火口とは 大きさで区別しますが、一般的に直径1-2km以上のものがカルデラです。カルデラに はいくつかの種類があります。カルデラの成因で区分(たとえば、陥没カルデラ、侵 食カルデラ)、カルデラの形で区分(たとえば、馬蹄形カルデラ)する呼び方などが あります。北海道の洞爺湖や屈斜路湖はいずれも日本を代表するカルデラ湖ですが、 このようなカルデラは地下にあった大量のマグマが一気に噴出して天井が落ち込んで できた陥没型のカルデラです。大きいものでは直径が数10kmにもなります。こういう でき方がカルデラの典型的な成因でしょう。2000年、三宅島の噴火で山頂部にできた カルデラは、当初は直径1km程度でしたがその後の崩壊もあって直径約1.6kmになりま したが、これも陥没カルデラですね。ただし、地下にあったマグマは地表に噴出した のではなく、側方に移動したことにより陥没しました。
 さて、関東地方の北部にある榛名山や赤城山についてです。山頂部には確かにカル デラがあります。赤城山のカルデラは山頂部が大規模に崩壊してできた馬蹄形カルデ ラと考えられています。山が崩れてできた馬蹄形カルデラは鳥海山や磐梯山にもあり ますね。榛名山のカルデラは火砕流を噴出したことにより生じた陥没カルデラと考え られています。カルデラができた後にも火山活動は起こりますので、後カルデラ火山 活動と呼ばれますが、カルデラ内に溶岩ドームやスコリア丘など、中央火口丘ができ たりしてカルデラのもともとの形がわかりにくくなったりします。
 北アルプスの立山と穂高岳についてですが、常願寺川の上流部を指す立山カルデラ のことですね。これは、かつては陥没カルデラといわれたことがありますが、最近の 研究では、侵食と崩壊により拡大して大きくなった凹地形だと考えていますので、陥 没カルデラではなくて侵食カルデラですね。私としてはカルデラという名前であまり 呼びたくはないのですが、立山カルデラという名称は地名として一般にも使われてし まっています。穂高岳のことはよくご存知ですね。信州大学の原山さんが書かれた最 新刊「超火山・・・」(山と溪谷社発行)でも読まれたのでしょうか。ここがもとも とはカルデラだったということがわかったのは原山さんのごく最近の研究によりま す。周辺に大規模な火砕流が分布していることはだいぶ前からから知られていました が、穂高岳周辺から噴出したことがわかったのはごく最近のことです。カルデラがで きたのは170-180万年前ということもわかりました。もちろん、現在の槍穂高連峰の 急峻な地形はその後に形成されたもので、当時の地形は現在ではまったく残っていま せん。
 (06/23/03)

中野 俊(産業技術総合研究所・地球科学情報研究部門)


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