火山についてのQ&A集

Question #57
Q 初めて質問します。 先日屋久島に登山に行ったのですが、その屋久島に関して2つ質問させて下さい。 1。数千年前に、島を覆い尽くすような火砕流が海を越えてやってきて、
  屋久島を襲い植生の大部分を焼いてしまったという話を聞いたのですが、
  本当でしょうか?  2。屋久島の山体の大部分を構成する花崗岩は、異様に大きな長石(?)の結晶が
  ごろごろしていました。「屋久島花崗岩」などと呼ばれているらしいのですが、
  通常の花崗岩と、その生成プロセスにどのような違いがあったのでしょうか? 以上、よろしくお願いします。 (11/22/97)

山好きな人:会社員:27

A (1)ちょうど今開聞岳周辺の地質調査を行っているところです.天気が良い 日は屋久島が海の上に見えます.屋久島の右手,屋久島からは北西の方向に2 つの島影が見えます.竹島と薩摩硫黄島です.この二つの島は屋久島を約6300 年前に覆った火砕流が噴出してできた鬼界カルデラの縁にあたる島です.鬼 界カルデラは大部分が海面下にありますが,ここから噴出した幸屋(こうや)火 砕流は雲仙・普賢岳の火砕流の1000倍にも達しようかという量で,屋久島や, 鹿児島県南部を広く覆いました.この火砕流の中には火砕流の熱で蒸し焼きに された木片をあちこちで見ることが出来ますから,当時の植生に大きな影響を 与えたことでしょう.薩摩半島南部の被災地域では,幸屋火砕流の上下で縄文 式土器の様式が異なり,当時住んでいた縄文人の社会にも大きな被害をもたら したようです.なおこの火砕流噴火と同時に吹き上げられた細かい火山灰(ア カホヤ火山灰)は,日本の広い範囲に降り積もり,約6300年前を示す地層の中 のマーカーとして,地質学,考古学の分野でよく使われています.(川辺禎 久) (11/23/97)

(2)マグマの性質と冷却の仕方によって,同じ種類の結晶でも成長の仕方が 異なります.例えば,マグマが急激に冷えた場合には,細かい結晶が数多くで き,ゆっくり冷えた場合には大きな結晶だけが数少なく育ちます.屋久島花崗 岩に大きな結晶として見られるようなカリ長石は,水を多く含んで珪酸分に富 むマグマを適当な条件で冷やしてやると,非常に大きく成長します.このた め,屋久島の花崗岩が,特に,他の花崗岩と大きく異なる環境で生成されたと いうことではないようです.(中田節也) (11/24/97)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所),中田節也(東大・火山センター)


Question #56
Q 先日の河内長野のガスの件ですが、知人が以下のHPを見つけました。 http://village.infoweb.ne.jp/~fwgc8559/jigoku.htm 閑ができ次第調査にいきたいと思います。 (11/18/97)

モンモランシー:研究員:34

A HPを拝見しました.残念ながら場所がまだよく分からないのと,掲載されてい る写真が何を写しているのかはっきりと分かりません.いずれにしても,火山 現象とは直接は関係がないように思えます.また,地震や活断層との関係につ いては,他のHPの質問コーナーを御利用下さい. (11/18/97)

中田節也(東大火山センター)


Question #55
Q しばらく前に霧島の韓国岳に登山しました。台風19号通過後で火口底に池ができているとの報道がありましたが、すでに消失していました。また、すぐとなりの火口湖である太朗池は神秘的な水を湛えていました。 このように、同一の火山群であるのに、火口湖のできる火口とできない火口があるのは、どうしてかお教えください。 (11/16/97)

村松 成高:会社員:33

A 火口湖ができるためには,火口底が地下水面よりも低い必要があります.霧島 火山は火口湖がたくさん見られる火山として有名で,地下水面は全体に高いよ うです.しかし,個々の火山体の地下水の状態は,その内部構造によって異な ってくるので火口湖のある火山やない火山が生じます.台風19号のあとに韓国 岳(からくにだけ)の火口底にできた「池」は,大浪池(おおなみいけ)の 「池」とは性質の異なる,「大きな水たまり」のようなものと言えます. (11/18/97)

井村隆介(鹿児島大・理)


Question #54
Q 高校の授業で、マグマの分類の一つの方法として二酸化珪素の濃度による分類を学びました。それによると、玄武岩質マグマ(二酸化珪素45−52%)・安山岩質マグマ(52−66%)・流紋岩質マグマ(66%以上)となっていたのですが、他の一般向けの火山の書籍を読んでいた所、同じ方法に基づくと思われる分類で石英安山岩質マグマというのが出てきました。このマグマと前述の3種類のマグマの関係について説明して下さい。よろしくお願いします。 (11/13/97)

地学選択の高校生:高校生:17

A 中学・高校ではご質問のような火山岩およびマグマの分類が教えられていると 思います.また,それらに対応する,斑れい岩,閃緑岩,花崗岩という深成岩 の岩石名も覚えておられると思います(忘れていたら,逆順に「かこ」んで 「せん」こう,「はん」ごろし.と覚えましょう).おっしゃるように,二酸 化珪素の濃度によるマグマの分類は研究者の中でもよく用いられていますが, 中学・高校で教えられるよりももっと細分されています.その細分された分類 の上では,”石英安山岩”は現在ではデイサイトと呼ばれています.雲仙普賢 岳で1991年に出現した溶岩ドームもこの石でした.デイサイトの二酸化珪素濃 度は,細分された分類上での安山岩と流紋岩の中間の量です.日本のものでは 63−72%程度です.ただし,アルカリ元素の量(Na2OとK2Oの総 和)が約7%程度より多い岩石は粗面岩または粗面デイサイトと呼ばれていま す.なお,デイサイトの岩石名はルーマニアのDaciaの地名にちなんでいます .日本で石英安山岩と呼ばれたのはデイサイトの日本語訳として明治時代に地 質調査所で使われたのが最初です.しかし,この岩石名は石英の”斑晶”を含 む安山岩(実際のデイサイトは含まないことが多い)という意味と誤解される ため,現在では使われません. 新版地学事典(平凡社,1996年刊行)の別冊31ページに上記の関係を示 した図があります. (11/19/97)

三宅康幸(信州大学・理)


Question #53
Q 大阪府長野河内市の山中に、河床より轟音と共に炭酸ガスが噴出しているところがあるとの噂を聞きました。具体的な場所を教えて下さい。また、火山との関連を教えて下さい。 (11/6/97)

モンモランシー:研究員:34

A 河内長野(?)市にそのような炭酸ガスの突出があることを,このコーナーの 回答者はつかんでいません.噂ではなくもっと詳しい素性が分かればお教え 下さい. いずれにしても場所から考えて,火山活動と関係があるとは考えにくいと思い ます. (11/7/97)

中田節也(東大・火山センター)


Question #52
Q 先日は質問に答えていただきありがとうございました。今、学校で火山の形について調べています。調べた結果、火山の形が違うのは溶岩の粘り気のせいだということが分かりました。 粘り気が強い火山は昭和新山の様に鐘状でごつごつしていて、粘り気が強くも弱くもない火山は富士山のような成層火山ができる、また粘り気が弱い火山はキラウエアのようなたて状火山ができるということが分かりました。 質問なのですが、その粘り気とは何かわかりません。何か違うものが中に入っているのですか? (10/30/97)

松本 卓:中学生:15

A 「粘り気」は、物質の流れにくさを表す「粘度」または「粘性」と呼ばれる物 理量を、やさしい言葉で言い換えたものです。身近な物質を例にとると、水 飴、練り歯磨き、マヨネーズ、トンカツソース、グリセリンなどは粘性が高 く、水や灯油などは粘性が低いわけです。粘性の単位は「パスカル秒」(Pa・ s)ですが、昔はポアズという単位がよく使われました。1Pa・sは10ポアズで す。水の粘性は0.01ポアズ、グリセリンは15ポアズ(いずれも温度20℃) です。そして溶岩の粘性は、ハワイや富士山のような「玄武岩」では100 −1000ポアズですが、昭和新山のような「安山岩」や「流紋岩」では10 00万〜1000億ポアズに達します。粘性というのは、つまり物体に力を 加えて変形させたときの、内部の摩擦力の大きさです。
 粘性は、同じ物質でも温度によって大きく変化します。例えば、水の粘性 は、0℃では0.018ポアズですが、100℃では0.003ポアズになります。一般に 玄武岩の溶岩は温度が高く(1100-1200℃)、安山岩や流紋岩の溶岩は温度が 低い(850-1000℃)ので、まず温度の効果があります。同じ溶岩でも、温度が 下がると、粘性が大きくなり、流れにくくなります。
 もう1つ重要なのは溶岩の成分の違いです。溶岩の主成分は珪素と酸素が結 合したシリカ(SiO2)という分子で、玄武岩にはSiO2が50%程度含まれ、安 山岩では60%、流紋岩では70%と多くなります。この分子は次々に結合 (重合)して糸のようになったり網状の構造を作る性質があるので、この分子 が増えると粘性が大きくなります。水に片栗粉を溶かすとトロッとしてくるよ うなものです。従って、同じ温度でも、玄武岩の溶岩より流紋岩の溶岩の方が 流れにくいのです。
 そのほか、溶岩の中に含まれる気体(火山ガス)や結晶の量など、いろいろ な要素が粘性に影響しますが、主なものは上に述べた通りです。 (11/1/97)

石渡 明(金沢大学理学部)


Question #51
Q 軽石を観察すると黄色や灰色など,色に違いがありますが,その色を決定する要因にはどの様なものがあるのでしょうか?また,この件について参考になるような文献がありましたら紹介して下さい。 (10/22/97)

K.F.:学生:22

A <噴出する溶岩の化学組成(ケイ酸分と鉄分などの量)によって,軽石の色が 黒や灰色から白っぽい色へと変化します.一般に,ケイ酸分の多い溶岩は鉄分 などが少なく,多孔質の軽石になると白っぽくなります.それに加えて黄色や 赤色などに見える原因について以下で簡単に説明します.>

恐らく一番影響があるのは軽石に含まれる鉄の酸化状態と思われます。軽石を 含んで,火山岩中で鉄は主に2価のイオンで存在すると考えられます。しか し,地表で大気酸素に曝されると酸化され3価のイオンに変化する場合があり ます。こうなると色調が黄色くなったり赤くなったりします。 文献はすぐには思いつきません。 (10/24/97)

大場 武(東京工業大学草津白根火山観測所)


Question #50
Q 山が生きているという神秘性と今は静かな美しい火山が過去にそして未来に噴火を起こす。 という自然美と自然の怖さという神秘性に魅せられ小学校のころから火山に興味を持ってきました。
 前回の質問では、即刻、丁寧にご回答していだだき、ありがとうございました。 再度の質問ですがよろしくお願いします。

石川と富山県境の医王山の火山記録について。
  医王山は火山とききましたが、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか。? 火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡は、 どのようなところにあるのでしょうか。 また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池がいくつかありましたが これは火口湖と考えていいのでしょうか。
  富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、小矢部市南部からみると 側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それともただの山でしょうか?
  石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖と考えていいでしょうか?

(10/20/97)

火山研究サラリーマン:会社員:38

A >>石川と富山県境の医王山の火山記録について。医王山は火山とききました が、過去の噴火はどのような噴火だったのでしょうか。? (答え)流紋岩質の溶岩と火山灰を噴出する激しい活動でした。

>>火砕流、火山灰、溶岩流などの過去の記録として残る、現存の火山活動の跡 は、どのようなところにあるのでしょうか。 (答え)医王山全体が火砕流や火山灰、溶岩流などでできています。夕霧峠に は流紋岩溶岩が見られますし、黒瀑山周辺には黒曜岩ないし真珠岩の溶岩がみ られます。しかし、最も量が多いのは、火山灰や軽石が降り積もった流紋岩質 凝灰岩で、夕霧峠から石川県側へ下る林道沿いによく見られます。医王山累層 と呼ばれるこの火山岩の地層の厚さは1000m以上あります。

>>また、石川県側から登った時、奥医王山頂までの小さなピークに小さな池が いくつかありましたが、これは火口湖と考えていいのでしょうか。 (答え)これらは火口湖ではないと思います。医王山の火山活動が起きたのは 1500万年程度前で、既に火山体は深く浸食され、もとの火山地形をとどめ ている所はどこにもありません。

>>富山県側の医王山北西部ふもとに「桑山」という小さな山がありますが、 小矢部市南部からみると側火山(寄生火山)の痕跡に見えるのですが、それと もただの山でしょうか? (答え)「桑山」というのが地図に載っていないので、どの山かよくわかりま せんが、上の答えと同じ理由で側火山ではないと思います。そもそも、現在の 医王山の山頂付近が火山体の中心であったかどうかはわかりません。

>>石川県側の戸室山にいくつか池がありますが、これは前述したような火口湖 と考えていいでしょうか? (答え)戸室山とキゴ山は比較的新しい火山で、清水他(1988)の年代測定によ ると43-61万年前とされています。そして、戸室山は2〜5万年前に大崩壊し て、周囲に岩屑流(岩なだれ)を押し出しました。市営放牧場や金沢ゴルフ場 付近の池の一部は、この岩屑流にせき止められてできたものかもしれません。 しかし、見上峠や医王の里付近の池は、南北方向の活断層の運動に関係してで きた可能性があります。個々の池について詳しく調べたわけではないので、上 で述べたことはあくまでも全体の地質からみた推論です。 (10/21/97)

石渡 明(金沢大学理学部) 


Question #49
Q 質問事項は2点ありますので、お願いします。 1.群馬県の榛名山は古墳時代に大規模な噴火活動を行い、当時の人々に 大きな被害を与えたとのことですが、、 その当時の噴火の規模はどれくらいだったのでしょうか?たとえば浅間山の天明噴火と 同等レベルだったのでしょうか?教えて下さい。 また、榛名山が再噴火することはあるのでしょうか? 2.年に1度、火山に登山します。今年は霧島山を縦走しました。旧霧島神宮跡から高千穂の お鉢へ行く途中で、赤レンガ色の軽石が、登山道にたくさんありましたが、これらは直接噴火で 降下してきたものか、雨などの流水で溜まったものかどちらでしょうか? また、霧島神宮が噴火で火災を起こし、移転するまでの影響を起こすような噴火は、どういった 規模の噴火だったのでしょうか?

(10/15/97)

火山研究サラリーマン:会社員:38

A 質問1:榛名山は古墳時代に大きな噴火を2回起こしており,古い方から,FA (榛名二ツ岳渋川)の噴火,FP(榛名二ツ岳伊香保)の噴火と呼ばれていま す.これらの噴火によって埋まってしまった古墳時代の遺跡の発見によって, 榛名山は1991年に活火山に指定されました.FA・FPの噴火と浅間天明噴火につ いて,私は詳しく調査したことがないのですが,群馬大の早川さんによると, その規模は彼の提唱した噴火マグニチュード(M)でFAがM=4.9,FPがM=4.8, 浅間天明がM=4.8だそうです(早川,1994).榛名山の直下ではときどき小さ な地震が観測されていますので,今後も噴火する可能性があると考えてよいの ではないでしょうか. 質問2:御鉢の登山道で見られる赤レンガ色の軽石(白色や黄色でない軽石をス コリアと言います)の大部分は,今から750年くらい前の御鉢の噴出物です. 登山道周辺は荒れてしまい,雨などでスコリアが少し移動してしまったりして いますが,もともとは噴火によって空から降ってきて堆積したものです.質問 にある旧霧島神宮跡は高千穂河原にある古宮址のことだと思いますが,実は霧 島神宮の前身はこの古宮址の場所に来る前には高千穂峰と御鉢の間の鞍部にあ ったそうです.その宮は10世紀の噴火で焼失し,12世紀になって古宮址あとに 移されたと伝えられています.その後,この古宮址に建てられた宮も先のスコ リアを噴出した13世紀の噴火によって再び焼失し,15世紀になって現在の地に 移されたそうです.神社を焼失させた13世紀の御鉢の噴火は,霧島火山の有史 時代の噴火では最大のものでした. (10/15/97)

井村隆介(鹿児島大・理)


Question #48
Q 今、学校で火山について調べています。 火山にはどんな種類があって、どんな性質をもっているもですか? またその火山はどのようにしてできるのですか。 (10/14/97)

松本 卓:中学生:15

A
 火山について興味をもってくれたことは、火山の研究者の一人としてとても うれしく思います。火山というのは非常に面白い現象だから、みんながもっと 知ってくれたらいいなといつも感じているからです。でも、あなたがこれから 調べようとしていることを、ここで要領よくまとめて伝えることはそんなに難 しくはないけれど、それではあなたが調べたことにはならないんじゃないかな と思います。何でもそうですが、自分で本を読んだり、博物館に出かけていっ たりして調べたりすると、すごく実感がわいてきます。そして、時には人から 今まで聞いていた話と全然ちがっていたりして、とたんに面白くなったりしま す。その中で出てきた疑問なんかを聞いてみたらよいのではないかな。まず自 分で動いてみようよ。


 以下には、とてもわかり易く書かれていて、かつ最先端の学問をきちんと踏 まえている、すごく良い本を3冊紹介します。これらは私がいつも感心して読 んでいる本でもあります。

「火山と地震の事典」、藤井敏嗣・著、大日本図書、てのり文庫534、580円。 「火山の話」、中村一明・著、岩波新書、黄版35、580円。 「地震・プレ−ト・陸と海」、深尾良夫・著、岩波ジュニア新書92、631円。 (10/16/97)

鎌田浩毅(地質調査所・大阪地域地質センター)


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