火山についてのQ&A集

Question #80
Q 金星の火山についてお尋ねします。金星・地球・火星と比較して、火星(若しくは水星)は地球に比べて小さいので、惑星形成時に内部に貯えられたエネルギーが地球より少なかった為、今では完全に惑星内部が冷え切ってしまい火山活動等は起きていないと習いました。この事を元に金星について考えると、金星と地球は半径がほぼ同じであるにもかかわらず、どうして地球では火山活動等が未だに活発だが金星では火山活動がないのでしょうか。 それとも、金星でも火山活動等の活動は現在も起きているのでしょうか。お願いします。 (5/25/98)

地球惑星物理学科進学を夢見る河合塾生。:予備校生:19

A
 現在も金星に火山活動があるのかどうかは分かりません.火山活動が直接観 測されてはいないからです.1990-1994年にマゼラン探査機が金星地表の撮影 を行ないましたが,その間,火成活動による地表の変化は観測されませんでし た.しかし間接的な証拠らしいものはいくつかあります.
 ・1978-1984の6年間の間で金星大気中のSO2,H2SO4(金星の火山ガスの成 分)の量が90%も減少した
 ・1991にガリレオ探査機は金星から稲妻のようなパルスをキャッチした(噴 煙柱に伴う稲妻?)
 ただし,これらを火山活動起源だとする説が唯一ではなく,他にもいろいろ な説明がなされています.金星には火山地形が数多く存在しますが,このよう な観測結果をみると,現在の金星では,火成活動は地球ほど活発ではないよう です.


 現在の金星で火成活動が活発ではない理由として,金星では5億年ほど前に全 球規模での大規模な火成活動と構造運動が起き,その後火成活動は小規模なも のになってしまったという説が一般に受け入れられています.


 なぜこのような火成活動の消長が起きるのか,いくつかの仮説が提案されて います.例えば,ある説によると,高い地表温度のため,金星の地表は変形し やすく,マントル対流によってリソスフェアが金星内部に沈み込みやすくな る.この効果がさらにマントル対流を活発化させ,この活発化のピークは間欠 的に来る.計算によると5億年程度の周期で,ピーク時に大量の溶岩が噴出 し,全星規模での火成活動や構造運動をもたらすと考えられています.
 これらはあくまで仮説であり,絶対正しいというものではありません.現在 多くの研究がなされている最中であり,これらの仮説もこれから先に書きかえ られていくと思われます.


 なお,火成活動の熱源は惑星形成時に内部に蓄えられたエネルギーだけでな く,放射性元素の崩壊にともなう熱や潮汐力などもあります.
 例えば木星の衛星のイオは半径が1820kmと,地球(6400km)よりも小さい天 体ですが,火成活動は太陽系で最も活発な天体です.潮汐力が強く関わってい るからです.木星から近い所を公転していること,さらに公転軌道が他の衛星 エウロパ,ガニメデと複雑な関係にあることで,イオは公転しながら圧縮され たり引き伸ばされたりします.このような作用が絶え間なく続くのでイオの内 部は熱くなり,火成活動が活発になっていると考えられています. (6/2/98)

永澤千明(東京大学理学部博士課程)


Question #79
Q 広島県に住んでいますが、なかなか火山に縁がなく近隣の県に観光を兼ねて見物に行っています。山口県の萩市に世界最小のカルデラを持つ「笠山」がありますが、近くの日本海に浮かぶ島々が「台状火山」と思われますがよく分かりません。これらの属する火山帯名と近隣に死火山の多いことについて教えてください。 (5/24/98)

水木 祥子:公務員:42

A 中国地方には大山を除くと大きな火山はありません.でも小さな火山はたくさ んあります.萩市の北から東北東にかけても,小さな溶岩流やスコリアが積も ってできた丘が点々と分布しています.この小さな火山をまとめて,阿武単成 火山群と呼んでいます.単成火山というのは,富士山や伊豆大島のように同じ 火口から何回も噴火を繰り返して大きくなった複成火山とは異なり,1回の噴 火で作られた火山で,ひとつひとつはそれほど大きくはありません.単成火山 ができる理由は,その場所の地殻に引っ張りの力が働いているなどの原因が考 えられています.単成火山群については,このページのバックナンバーにあ る,Q47に対する静岡大学小山さんの回答をご覧ください.

萩市の沖合いに浮かぶ大島や羽島などの島々や鶴江台,羽賀台などは,そんな1 回の噴火で流れ出した溶岩でできた島や台地です.なお「笠山」は溶岩流の上 に,スコリア丘が乗っているもので,残念ながらカルデラではありません. 噴火した時期は,それぞれの火山体の侵食の程度から2つに分けられると考え られています.放射性年代もいくつか測られていますが,古いもので約300万 年前,新しいもので約18万年ほど前から1万年ほどです.活火山には含まれて はいませんが,単成火山群の噴火間隔は比較的長いものもあるので,これから も噴火する可能性はないとは言えないでしょう.

なお火山帯としては大山(白山)火山帯に属するのでしょうが,今はあまり火山 帯という言葉は使われなくなりました. (5/29/98)

川辺禎久(工業技術院・地質調査所)


Question #78
Q 質問は2点ありますがよろしくお願いします。 1.南極の氷雪のボーリング結果について 1年前の新聞報道かと思いますが、 南極の氷雪をボーリングした結果、過去何十万年間の氷雪の中から 数万年間隔で火山灰の堆積が見つかったとのことですが、 火山灰を調査することにより、火山を判明、断定することはできるのでしょうか。また、その中に日本列島に属する火山もある可能性はありますか?
 また、このように、南極の氷雪にまで痕跡を残すような火山の噴火レベルはいかようなものなのでしょうか?

2.九州の霧島高千穂峰について 高千穂峰の美しさに魅せられて今年も御鉢火口までですが、登りました。前回も質問しましたが、レストハウスから火口までに赤色の軽に混在して、かなり大きめの黒灰色の岩石がありましたが、軽石と同じに噴火した堆積物なのでしょうか。それとも噴火した年代が異なるのでしょうか? (5/22/98)

火山研究サラリーマン:会社員:39

A 1.南極の氷雪のボーリング結果について 申し訳ありません.私はその新聞記事を読んでいませんので,氷床のボーリン グコアを用いた火山噴火の研究の一般的なことについて答えたいと思います. 地球規模の環境変遷を研究するために極地の氷床コアを用いるのは1970年代か ら盛んに行われるようになりました.夏と冬に降る雪(降水)の酸素同位体比 が違うために,氷には(目には見えませんが)年縞というのができます.その 数を数えることによって,±1年くらいの精度でその氷がいつ形成されたかわ かるのです.そして氷に閉じこめられた大気や氷そのものを分析することによ って過去の環境が精度よく復元できるというわけです.氷床コア中に火山灰粒 子が見つかったら,その粒子を分析することによって噴出源を特定できること があります.しかし,火山灰は近いところに落ちてしまいますので,火山灰が 見つかるのは氷床に比較的近い火山で起こった噴火に限られるようです.一 方,大規模な噴火が起こると,火山灰以外に大量の硫酸エアロゾルが大気中に 放出されます.硫酸エアロゾルは何年にもわたって大気中にとどまり,全地球 に広がっていきます.そのため,その時代にできた氷は水素イオンや硫酸イオ ンに富むことになります.氷床コアから検出される過去の火山噴火は,ほとん どの場合,水素イオン濃度,硫酸イオン濃度の高い層準の年代とこれまでに知 られている大規模噴火の年代を比較して決められています.それゆえ,候補と なる噴火がいくつもあったり,全く候補の見つからないものもあります.日本 と同じ北半球にあるグリーンランドの氷床コア中には,日本で起こった噴火が 原因と考えられる,水素イオン濃度,硫酸イオン濃度のピークがいくつか見つ かっています.鬼界-アカホヤ噴火や十和田a噴火などVEI=7〜6のものから,北 海道駒ヶ岳1640噴火や開聞岳874噴火などVEI=5〜4クラスの噴火まで噴火の規 模にはかなり幅があります.南極の氷床で日本の噴火を示すピークが見つかっ たという話は(私の不勉強かも知れませんが)まだ聞いていません.

2.九州の霧島高千穂峰について 御鉢の登山道で地表付近に見られる噴出物は,ほとんど同じ時(13世紀)の噴 出物です.スコリアが赤いか黒いかは,鉄の酸化の仕方の違いによります. Fe2O3になっていれば赤く,FeOだと黒くなります.それぞれどのような条件で あったか考えてみて下さい.質問には黒灰色の岩石とありますから,おそらく 発泡していない緻密な岩石のことだと思います.同じ噴火の時にマグマが急冷 されてガラス質になったもの(黒光りするように見える)が放出されたのだと 思います.ただ,御鉢は13世紀の噴火以降もたくさん噴火を繰り返しています から,その後の噴火の時に飛んできたものかもしれません.周りのスコリアと の関係などを詳しく調べる必要があります. (6/3/98)

井村隆介(鹿児島大・理学部)


Question #77
Q 個人的な興味で、日本国内の火山岩尖(=溶岩塔?)について調べて います。日本国内に存在するすべての火山岩尖の数や位置を知りたいの ですが、詳しく記された書物が見つかりません。資料によっては、日本 ではほとんど見られないとありますが、実際のところ現在確認されてい る日本国内の火山岩尖は、正確にはいくつあるのでしょうか?あるいは それを知ることのできる書物はないでしょうか? よろしくお願いします。 (5/20/98)

田中 宏明:大学生:21

A 火山岩尖は溶岩尖塔(スパイン)ともいいます.規模さえ問わなければ,日本 でも,多くの火山に見られます.粘性の大きい(粘り気の強い)溶岩が,ゆっ くり下から押し出されて塔のようにそびえたものです.溶岩円頂丘(溶岩ドー ム)の頂上に,鶏のトサカのような小規模なスパインがしばしばできます.日 本にはほとんどないというのは,観光地になるほどの立派な(大きな)塔はな いという程度のことだと思います.かつては,ベロニーテなどと呼びました (今は火山学的には死語)から,そのような分類がなされるものが少ないとい うことでしょう.有珠火山の昭和新山は火山岩尖とされています.火山岩尖に ついてまとめた文献は知りません. (5/29/98)

中田節也(東大・火山センター)


Question #76
Q 岩手山の火山性地震が頻発しています。今後、噴火の可能性はどの程度あるのでしょうか。私は記者として現在、岩手山の火山活動を取材中ですが、今後の見通しがわからず悩んでいます.良き見解をお示し下さるようよろしくお願いいたします。 (5/12/98)

ゆうき:記者:25

A
 噴火の具体的可能性を言うのはかなり難しい問題です.桜島火山のような頻 繁に噴火を繰り返す火山においては,度重なる観測結果の蓄積から,噴火と地 殻変動・地震活動の規則性がある程度導かれています.そのような極めて限ら れた(噴火経歴と観測が豊富な)火山においては,噴火や爆発の可能性をある 程度言うことができるようになってきています.一方,火山ごとに噴火のパタ ーンが違うように,噴火の前兆現象も火山ごとに少しづつ異なります.そのた め,桜島のパターンをそのまま岩手山に当てはめるわけにはいきません.
 岩手山は東北大学と気象庁などが中心となって,以前から地震活動や地殻変 動の観測を続けており,今年3月頃から次第に活動レベルが上がってきている ことを指摘していました.地震活動が活発化し地殻変動が起こっていることか ら,マグマが地表に接近してきていることは明らかです.
 岩手山では有史時代の噴火が何回かありますが,噴火の観測をした経験が蓄 積されているわけではありません.このため,噴火する可能性がありうるとし か,現状では言いようがないと思います.岩手山でいったい噴火がおこるの かどうかは,新聞記者のみならず国民全体の興味かもしれません.しかし,そ の可能性や見通しを数値や時期などでいうことは今のところ不可能です.
 火山研究者にとっては,今の現象を科学的にできるだけ正確に理解すること と,過去の噴火例や地質を調べ,ひとたび噴火が起きたらどうような噴火様式 でどのような災害が起きうるかを調査することが重要になっています. (5/13/98)

中田節也(東大・火山センター)


Question #75
Q 僕は今就職活動を行っておりまして 環境関連、とくに新エネルギーに関心があります。 そこで原子力に変わる新しいエネルギーとして 地熱発電というのをおもいつきました。

この地熱発電を用いさえすれば 1.資源が無尽蔵にある 2.廃棄物が出ない 3.地下に建設をすれば建設場所に制約を受けない こういったメリットにありつけます。

そこでマグマが地表に近づくことによる弊害が何かあるのかどうか このことについて質問させてください。 僕が気になったのは 1.地球の内部温度が冷却されることによって何か起こるのか 2.火山活動を誘発しやしないか こんなところです。

是非専門家のご意見お聞かせ下さい。 (5/8/98)

花山勝久:学生:22

A
 自分たちのおかれている現状を考え,よりよい方向に社会を動かしていこう というお考えに接し,うれしく思います.が,残念ながら否定的なお答えをし ます.
 まず,原子力にかわるエネルギーとしての地熱発電ですが,具体的な数値は 電力関係の方に出していただく必要がありますが,私が聞いている範囲では, 現在の我が国の電力供給の大部分は原子力と火力であって,地熱発電が供給し ている電力は全電力需要の数%にすぎないと聞いています.しかもこの数値 は,地熱発電所の建設に相当努力してきた結果ですから,原子力にかわるエネ ルギーとするのは無理ではないでしょうか.確かに火山が放出する熱エネルギ ーは膨大です.たとえば浅間山の火口からは常時100MW(メガワット)の熱エ ネルギーが放出されており,その他の火山や地熱地帯でも数10MWの熱エネルギ ーを放出しています.このエネルギーのすべてを電力に変えられればいいので すが,変換効率が低いのが現状です.それは発電が火山ガスや水蒸気の熱エネ ルギーを直接電気に変換しているのではなく運動エネルギーをタービンを回す ことによって電気に変えているからなのです.熱エネルギーを人類が直接利用 する方法を開発すれば,状況はかわるでしょう.
 廃棄物が出ないというのは必ずしも正確ではなく,地下の蒸気を直接使用す れば,その中に含まれるヒ素や水銀などによって環境が汚染されます.現在の 発電所は蒸気を地下に還元し,地表に出ないように工夫されているのです.逆 に言えばその対策を誤れば環境汚染を引き起こします.
 建設場所に制約がないという点についても問題があります.1つは,地熱発 電所が地下で蒸気を採取すると付近の温泉が枯渇することがあるのです.日本 の多くの火山や地熱地帯のまわりには温泉やそれに関連した観光地があって簡 単に発電所を造ることはできません.
 さてご質問の地球の内部の冷却・火山活動誘発の件ですが,地熱発電は地球 そのものの冷却にはほとんど寄与しないでしょう.現在は技術的に簡単ではな いのですが,たとえば地下に存在するマグマにむかってボーリングを行うと, 場合によっては圧力が急速に低下してマグマに溶けていたガスが急速に分離し て噴火を誘発するかもしれません.また,火口の浅い部分にまでせり上がって いるマグマの中にパイプを通して熱エネルギーを取り出すといったことをする と,場合によってはその部分のマグマが固まって深部で発生するガスの放出を 阻害し噴火することもあるかもしれません.しかし,現状ではそのようなエネ ルギーを経済的にかつ安定して取り出す技術がまだ確立されていません.
 ここでは否定的なことばかりを言いましたが,離島の火山などでの小規模な 発電などまだまだ可能性はあると聞いています.自分たちのおかれている現状 を少しでもよりよい方向にむける気持ちを大切にしてください. (5/11/98)

鍵山恒臣(東大・地震研究所・火山センター)


Question #74
Q 初めて質問させていただきます。場違いな質問かもしれませんが、お許し下さい。 私の住む熊本の阿蘇山は観光地として大変親しまれているのですが、火山ガス(主に亜硫酸ガス)による事故死が数年に一人とわずかではありますが、 絶えません。昨年も2件の事故死が起きたことから、火口周辺への立ち入り規制が厳しくなりました。 そこで他県ではどういった火山周辺への立ち入り規制がされているのか、調べたいのですが教えて頂けないでしょうか。 また、参考になる書籍等がありましたら推薦して下さい。 よろしくお願いします。 (5/7/98)

これ:大学院生:26

A
 阿蘇山のガス事故の原因になった亜硫酸ガスは、喘息の人が吸うと、ごく微 量(通常人の警戒値の1/100)でも発作を引き起こす性質があります。そのた め、阿蘇山のロープウエーの乗り場や駐車場には、「喘息の方はご遠慮くださ い」という看板が前から出ていました。この注意が、必ずしも徹底されていな かったために、今回の悲劇が発生したと理解しています。喘息のひとや心臓疾 患のあるひと、高齢者などの『ハイリスクパースンについては、特別な扱いを する』という社会全体のコンセンサスがあまりなかったのが、いけなかったの でしょう。ただ、今回のように、ハイリスク群の警戒値をすべての人に適用す るのは、どうかとおもいます。しかし、よく考えて見れば、すべての人が安心 して訪問できることになるので、やっぱり歓迎すべきかな。

ほかの火山の例

(1)群馬県の草津白根山には、東京工業大学の観測所があります。火山ガス 地帯で、硫化水素ガス濃度の連続測定が行われており、決められた警戒値を超 えると、警報が出され避難を促すシステムができています。 (2)富山県の立山の地獄谷では、ガスの多い地帯には柵が設けられており、 危険なので外にでないようにという、看板があります。しかし、冬など風の凪 いだ時には、柵の外でも息苦しいほどです。時々事故もあるようですが、特に 連続観測や警報システムなどはまだないようです。 (3)福島県の安達太良山では、昨年硫化水素ガスで一度に4名もの登山者が 亡くなりました。かなり、登山道からはずれた場所であり、すべての危険箇所 に看板を立てたり、ロープをはったりすることは難しいようです。最近になっ て、沼ノ平登山ルートそのものが廃止になりました。したがって、対登山者警 報用のセンサーなどはありません。 (4)伊豆大島三原山では、1986-87年の噴火以来、火口周辺への立ち入りが禁 止されてきましたが、10年目の1996年に規制が解除されました。登山道の両側 には柵やロープがあり、火口周辺を自由に歩き回れるようにはなっていませ ん。この規制は、火山ガスだけが理由ではないとおもいます。

参考書・雑誌

宇井忠英編(1997)火山噴火と災害,東大出版会,217p.

ルポ:安達太良山の遭難から-火山ガスの警笛- 「岳人」1997年11月号(No.605),92-96.

緊急企画:火山ガスその見えない恐怖 検証:9月15日安達太良山・沼ノ平で何が起こったのか(長谷川哲) 解説:火山ガスの特性と対応策を知る(羽根田治)小坂丈予先生に取材 「山と渓谷」1997年11月号(No.748),143-147. (5/14/98)

千葉達朗(アジア航測(株)防災部)


Question #73
Q 初めて質問します。 私は秋田県在住で、県内外の火山を見るのが好きでよくあちこちに出かけます。 以前から疑問に思っていたのですが、秋田県の南部に川原毛地獄というところがありますが、噴気もあちこちで見られ、個人的には活火山だと思うのですが、いろいろな本を読んだりしても「川原毛が火山である」というような表記は見当たりません。 専門家から見た川原毛についての見解を、ぜひ頂ければ幸いです。 (5/7/98)

秋田県  湊 憲明:出版社の営業:32

A 湊さん,はじめまして.川原毛地獄は楽しい所ですね.激しく噴気しています ので大地のエネルギーを全身で感じる事ができます.特に湯滝が気に入ってい ます.お湯が滝になって落ちて来るところは日本でもそうたくさんはないと思 います.
 さて,御質問の件ですが,川原毛地獄はたしかに激しく噴気していますの で,地熱地帯ではあります.ただ,火山と呼ぶためには川原毛地獄から噴出し た火山噴出物が周辺に分布していなければなりません.秋田県から1982年に発 行された「秋の宮・栗駒山」を見ますと,川原毛地獄周辺は第三紀の地層から できていて,第四紀(おおよそ170万年前から現在までの時代)の溶岩や火砕流 はありません.ですから,川原毛地獄は残念ながら火山ではありません.火山 ではありませんので,いくら激しく噴気をしていても活火山とも呼べません. もしも,川原毛地獄から出た新しい火山灰が見つかったりすれば話は別です が・・・
 ところで,川原毛地獄のすぐ南の高松岳は20万〜30万年前の古い火山です. では. (5/8/98)

林 信太郎(秋田大学教育文化学部)P>


Question #72
Q
 初めて質問します。
 私は、今社会科の時間に火山と人々の生活について調べています。
 そこで、初歩的な疑問がわきました。
 歴史上、最も大きな噴火はいつ、どこでおこったのですが。
 もちろんわかっている範囲でかまいませんのでよろしくお願いします。 (5/3/98)

松田 さおり:中学2年生:13

A
 人間の歴史に残る最も大きな噴火は,インドネシアのスンバワ島にあるタン ボラ火山で1815年におきました.タンボラ火山は直径60km海抜2850mの火山で, この噴火でできた直径6km深さ1kmのカルデラが山頂にあります.1812年から噴 火を始め,15年4月に大きな爆発を起こし7月まで続きました.この時の噴火の 爆発音は1800km離れた場所にまで聞こえたと言います.また,火山の周辺で は,噴火後3日間は,昼でも真っ暗であったといいます.この噴火の際に放出 された火山灰や軽石の量は150立方kmにも達すると見積もられています.この噴 火で約1万人が死亡し,そのあと餓死・病死者がスンバワ島で38,000人,隣のロ ンボク島で44,000人が出るなど,死者の総計は92,000人にも達しました.犠牲 者の数でも史上最大でした.また,翌年の北半球の夏は平均気温が0.7度低くな ったといいます.
 これと同じような規模の噴火は,今から約6,400年前の日本でも起きました. 鹿児島の南の海中にある鬼界カルデラを作った噴火です.また,もっと古く は,鹿児島湾の姶良カルデラ(約22,000年前)や阿蘇カルデラ(約8万年前)を 作った噴火がさらに大きい規模の噴火でした. (5/5/98)

中田節也(東大・火山センター)


Question #71
Q 初めて質問します。死火山についてですが、中国地方にある大山と三瓶山は雄大で何度か登山したことがありますが、これらの火山の噴火する可能性はあるのでしょうか。ある雑誌では世界中に完全に死火山であると確認されている火山はないと書かれていました。 (4/21/98)

木村淳一:会社員:22歳

A
 私も含めて多くの方が,火山には活火山と休火山と死火山がある,と学校で 習ったおぼえがあると思います.ところが,意外にも現在では死火山や休火山 といった言葉を専門家はほとんど使いません.
 死火山とは,歴史時代に噴火記録のない火山あるいは今後噴火する見込みの ない火山のことをいいます.それに対して活火山とは,かつては,現在活動し ている火山の意味で使われていましたが,今日では最近2000年間に活動した火 山をさして使われます.またちなみに,休火山とは歴史時代に噴火記録がある けれども現在は活動していない火山のことをいいましたが,さきほどの活火山 の定義に含まれるようになったため,今日では使われません.
 さて,どうしてこのように活火山・休火山などの用語の使われ方が変わって きたのでしょうか.かつては,歴史時代に噴火していない火山はもう活動しな いだろうと思われたために死火山と呼ばれていました.ところが,1979年の御 岳山のように死火山と思われていた火山が噴火することがありました.また年 代測定法の進歩により火山の過去の詳しい活動史が多くの山で明らかとなって きました.その結果,火山には桜島のようにほぼ毎年噴火する山がある一方 で,千年や二千年に一度しか噴火しない火山や,数千年から数万年の休止期を 挟んで活動を再開する火山があることがわかってきました.
 さて,ご質問にもどりますが,大山や三瓶山は日本の活火山のリストには含 まれていません.しかし,数千年から二万年前以前は溶岩や火砕流を大量に放 出していた活動的な火山でした.今後大山や三瓶山が噴火する可能性がある か,と問われれば,ないとはいえません,ということになります.しかし,も し実際に噴火活動を再開するとすれば,その前に火山性の地震が頻発すると か,何らかの前兆現象があります.現在のところそのような兆候はないので, 近日中には噴火する可能性はない,といえるでしょう. (4/27/98)

星住英夫(工業技術院・地質調査所)


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